第11話 魂


 「この迷宮の魔物を倒して集めた仮初の魔物の魂を魔王に吸収させて、深淵の迷宮の主としてその魂の力を使って魔王を内側から攻撃する?」


 俺の問いにカルナは小首をかしげた。

 そう、ゲームでエルフの大賢者がした方法だ。

 どういう理屈かはさっぱりなのだが、エルフの大賢者は魂が二つあり、一つの魂をわざと魔王に飲み込ませ、その魂で内から攻撃することで一緒に魔王を封印した。


「……面白い発想。うん。できなくはない。魔王の外側は攻撃通じない。けど内側からなら通じる。迷宮の魔物の仮初の魂の力は主である貴方そのもの。魔王の中の迷宮の力を外側から操って破裂させ。それで攻撃する。不可能じゃない」


 カルナが目を輝かせる。


「でも、魔王様にどうやって、このダンジョンの魂を捧げるのですか?

 確かに魔王様はランダムな場所で死んだ魂を吸収しだします。でもさすがに人間じゃない魂はばれませんかね? しかも仮初の魂とか。それ厳密にいうと魂じゃありませんよね? 意志がないのですから。大体この迷宮の魔物の魂って持ち運べるのでしょうか?」


 首をかしげるキルディス。


「あらかじめ集めておけば可能。魔王が魂を吸収しているとき、私が人間の魂に偽装して混ぜる」


 きらんとカルナが目を輝かせる。


「集める事なんてできるんですか?」


 キルディスがいうと、カルナはうんと頷いた。

 

「ゲーム時代、魂の宝石といってこのダンジョンで倒したモンスターの魂を集める宝石があった。その宝石を集め、倒したモンスターの魂を祭壇に捧げると、裏ボスレイゼルがパワーアップしたんだ。その宝石の魂を、魔王が魂を集めているときに解放すればいい」


俺の言葉にキルディスが腕を組んだ。


「つまり、その方法が成功した場合、マスターの攻撃で魔王様にダメージが通るということですか?」


「迷宮の力を爆発させれば可能。ただ膨大な迷宮の仮初の魂を魔王にとりこませる必要ある」


 カルナが力強くうなずいた。


「そういうことだ、で、魔族が魔王復活のための魂を集めているときに、人間の魂と、こちらのダンジョン産の魂とすり替えて、殺された人間の魂はこちらで回収することは可能か?」


 顎に手を添えて俺が問う。


「私がいるから魔王から人間の魂横取り可能。迷宮レベルがあがれば、その横取りした魂の人間の肉体も完璧復元もすることも可能だから生き返らせることもできる」


「人数制限は?」


「ない。何人でも可能」


「はぁ!?そんなことできるんですか!?」


 キルディスが思わず身を乗り出す。


「可能。いろいろ条件はあるけれど、可能」


「死んだ人間の魂だけで一から体を復元するって、もうやってる事が神レベルじゃないですか」


 俺とカルナを交互に見てキルディスが言う。


「この迷宮は深淵の迷宮。神よりもさらに尊き存在。創造神にもっとも近い場所。神とこの世界を繋ぐ泡沫であり仮初の存在。肉体は所詮データにすぎない。いわば情報の塊。

 命が必要なのは情報じゃない。存在という観念。魂さえあればなんとでもなる。逆に言えば魂がないとどうにもならない」


 カルナがキルディスに球体の魔法を見せながら説明する。


 キルディスは深刻な顔をして「なるほど、わかりません!」と真顔でうなずいていた。


「じゃあ今後の方針は決まったな」


 胡坐をかきながら俺が言うと、キルディスとカルナの視線がこちらに向いた。


「方針……ですか?」


「ああ、そうだ。今後も皇帝の指示通りに動く。

 おそらく近いうちに魔王に魂を捧げるために他国を侵略しだすだろう。戦乱の幕開けだ。その戦争で皇帝に従って人を殺すふりをして本当の人間の魂を回収、迷宮産の魂と入れ替え魂を集めている魔王に、迷宮の魔物の魂を捧げる。そして同時進行で、魔王復活に動く魔族を殺しダンジョンに捧げレベルアップを図る」


 俺が言うとキルディスがふむと顎に手をあてた。


「まぁ、確かにその方法しかないとはおもいますが……。レベルを上げるための魔族はどうやって倒します?

 マスターならくっそ汚いやり方で魔族を倒せるとは思います。信じがたい事ですがきっと倒してしまうのでしょう。そこはもう驚くのはやめました。ですが魔族を倒したのが高位の魔族にばれたらあなたが高位魔族……四天王のターゲットになります。皇帝が四天王の配下である以上、ばれたら貴方が最優先で殺す対象になる。目標を達成するのはほぼ無理になりますが」


「なに、要は俺がやったとバレなきゃいいい。俺が倒す必要もない。魂さえ横取りしてしまえばいいそうだろカルナ?」


「そう、条件満たせばいい。横取り可能」


 カルナの言葉にキルディスがこちらを見る。


「……つまり?どういうことでしょう?」


「魔族を倒すに最適な奴がいるだろ。世界を守る正義の味方。光の選定人」


「……まさか」


「そう、ゲーム内て最強にてチートキャラと呼ばれたSSRキャラ。エルフの大賢者。ファンバード・ロッドウェル。あれを戦場に巻き込み魔族を倒させる」


 エルフの大賢者。ゲームでもぶっ壊れ性能で所持しているだけでマウントのとれるほど、レアキャラでもある。100万円ガチャにぶっこむのが普通といわれるほど人気キャラ。リアルマネーで1000万円以上で取引されたこともある。そいつに魔族を殺させれば、俺たちが皇帝を裏切ったとバレる事もない。


 俺が笑うと、キルディスが思いっきり後ずさる。


「い、いやですよ!?私なんて会った途端絶対滅ぼされるに決まってます!?」


「はーっはっはっは!!俺の奴隷になった時点で拒否権などない!!」


 俺が指をさして思いっきり笑ってやると涙目になりながら


「やっぱりこの人の奴隷いやだぁぁぁぁぁ」


 と、泣き崩れる。


「いや、怖がりすぎだろ。確かに強さが規格外だが」


「規格外なんてもんじゃないですよ!?魔族はまず生まれてすることが何だと思います!?」


「……人間の魂を食べる?とか?」


 俺はとくに想像がつかなくて適当に答えた。


「違います!!エルフの大賢者にあったら真っ先に逃げる術を教わるんです!!私程度の中位程度の魔族なら視界に入ってしまったが最後、いや、気配を察しられたら最後、滅亡あるのみです!」


 人間でいうとお化けがくるぞ、みたいな伝わり方なのだろうか?


「なるほど。魔族には容赦ないってことか。気配を察しただけで攻撃してくるのは確かにまずいな。まぁ、魔族を倒してもらうには好都合ではあるが」


「ついでに私も死にます!!」


 思いっきり叫ぶキルディス。


「ふむ。ならエルフの大賢者の時、お前は留守番させるから安心しろ。

 それにこのダンジョンのレベルが上がれば問題も解決する」


「問題の解決ですか?」


 きょとんとした顔になるキルディス。


「レアアイテムで種族変更のペンダントがある。それで人間になれば問題ないだろう?ところでここで生成したアイテムを俺は無条件で手に入れる事ができるのか?」


 俺の問いにカルナは首を横に振る。


「ここに存在を作ることができるだけ。冒険者と同じ、モンスターを倒さないと手に入らない」


「了解。それじゃあまずは魔族をぶっ殺してレベルをあげないと」


「でもどうやって探します?魔族は皆エルフの賢者の存在を恐れて存在を隠しています」


「キルディス。お前みたいなはぐれ魔族を殺した場合、高位魔族や四天王にばれたりするか?」


 確か魔族は四天王が存在したはずだ。

 その四天王の一人と皇帝が契約を結んでいる。

 そいつにばれるのだけはまずい。


「いえ、私が自由にできているように、四天王の直属の高位魔族以外は自由にできます。魔族は基本群れるということをしないので、直属の魔族以外は死んで気づかなければ問題ありません。逆に言えば人間が殺しているということに気づかれたら問題視されますが」


「なるほど。それじゃあ過去封じられた高位魔族とかはどうだ?一匹くらいならこっそり殺しても平気か?」


 俺の問いにキルディスが肩をすくめて


「封じられたままという状態を考えてください。四天王が必要と考えているならば、どんな手を使っても復活させています。ばれなければ問題ありません」


「なら、決まりだな」


 俺の言葉に二人が俺に視線をむけた。


「あいつに高位魔族を復活させて、そいつを殺して迷宮の養分にすればいい。バレなきゃ問題ない」


「……あいつ、ですか?」


 キルディスが不思議そうに聞いてくる。


「そう、あいつだ」


 にまぁっと笑う俺。


 さぁ、俺の楽しいダンジョンワクワク育成計画の幕開けだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る