第10話 深淵の迷宮の主



「貴方が深淵の迷宮のマスター?」


 迷宮の入り口の宝石を触った途端、俺とキルディスは白い何もない空間に放りだされ――その白い空間に現れたのが黒髪の幼女だった。深淵の迷宮の意志でありメインコンピューターである『管理者』カルナ。


 裏ボスレイゼルが迷宮の主ならカルナは迷宮そのものだ。

 迷宮の主に従い迷宮を管理するもの。

 彼女を倒してはじめて、深淵の迷宮は俺を主と認める。


 黒いドレスに身にまとい鎌をかまえ、幼女は俺達に問う。


「ああ、一応な。この迷宮の権限ももっている」


 俺が告げるとカルナは首をかしげた。


「おかしい。私、マスターまだ、あなた認めてない。なのに何故権限もっている?」


「まぁ、いろいろ理由があってな」


 俺がそう言うとカルナが目を細めた。


「不思議。魂二つある。しかももう一つの魂は……未来を経験している。そしてもう一つの魂は鮮明なのに不鮮明。視えるのに視えない」


「未来を経験してる?どういうことだ?」


 俺が問うとカルナは首をかしげた。


「わからない。正確にいうと未来の経験の記憶を持っている。でも酷く弱い。記憶を所持した代わりに、魂の力を使ってしまって今にも消えそう」


 カルナの言葉に俺は目を細めた。つまり、レイゼルは未来からループしてきていて、記憶を所持したまま俺に助けをもとめたということなのだろうか?


「それは、俺の方か?もう一人の方か?」


 俺が聞くとカルナは首をかしげた。


「たぶんもう一人の方。そしてもう一人の方は過去この迷宮の管理者になった事がある。だからあなたは権限をもっている」


「そうか、なら俺はこの迷宮のマスターなんだな?」


 俺がカルナに聞くと、カルナは首を横に振った。


「それはそれ、これはこれ。巻き戻る前に手に入れた権限。私の管理と違う。マスターになりたいなら、この時代の私も倒さないと認められない。それに、もう一人の方は認められたけど、『貴方』は認められてない」


 融通の利かない事をいう幼女。


「俺がお前を倒せば文句ないのか?」


 カルナに問うとカルナはこくりと頷いた。


「さぁ、迷宮の主としての資格を見せて――レイゼル・ファル・シャルデールに取り込まれた何か!!」


 そう言って幼女が殴り掛かって来た一時間後。


「大人ずるい。ひきょー。悪質」


 俺に負けたカルナが不満をぶーぶー言いながら、頬を膨らましていた。


 あの後、カルナが殴り掛かってきたとたん、俺は迷宮の主の権限で、このダンジョンの構造をボタンでぽちぽち変えまくった。

 そのせいでカルナは自らの権限が発動して、スキル使用時の膠着状態と同じになりフリーズ状態になってしまった。その間にキルディスが攻撃しまくって、カルナのHPを0にして倒したのである。


「はーっはっはっは。現実とはこんなものだ。残念だがどのような手段を用いようとも勝は勝ち!その事実はかわらない!俺を主と認めてもらうぞ!!」


 カルナに指をさしていうと、「現実、厳しい、世の中世知辛い」とつぶやいて、不満そうに「むぐぐ」とした後コクリと頷いた。


「お可哀想に。くそ卑怯な方法で負けた身としてはカルナ様の方に同情してしまうのですが」


 キルディスが心底同情した表情でカルナを見つめ言うので、俺は二人ににこっと微笑んで「安心しろ、これからもこういう事をするつもりなので、そのうち慣れる!」と教えてやると


「「屑だこの人」」


 なぜか二人の声がハモった。




「というわけで、深淵の迷宮ゲットー!!」


 俺が真っ白な空間で叫ぶと、キルディスがきょろきょろしながら、「でも何もありませんよねここ」とつぶやいた。


 確かに何もない。VRMMOの時は1Fはちゃんとダンジョンだったはずなのに真っ白だ。

 迷宮のフィールド変更ボタンをぽちぽち押してカルナの動きをとめてはいたが、フィールド変更どころか真っ白なままなのだ。


「当たり前。パワー集めないと迷宮は機能しない」


 カルナが俺の持ってきたクッキーをぼりぼり食べながらつぶやいた。


「パワー?」


 俺が聞くとカルナが頷いて


「迷宮は純然たる力を注ぎ込んでレベルを上げないとダメ。いまはレベルが0。何もできない」


 と、説明してくれた。


「純然たる力って具体的になんだ?」


 俺が聞くと、カルナが視線をキルディスに移した。


「へ?」


「妖精や天使、魔族の魂。純然たる魔力の塊。それを迷宮が喰らってレベルを上げる」


 カルナの言葉にキルディスが顔を真っ青にする。


「い、いやですよ!? 私は食べられるの嫌ですからね!?」


 物凄い勢いで後ずさるキルディス。


「誰もお前を餌にするなんて言ってないだろう」


「マスターならやりかねません!」


「いいか、俺の戦法は不意打ちと先制攻撃だ!!やるならとっくにやっている!!」


 胸を張って言うと、キルディスがしばらく空を見た後


「なんていうかすごい説得力ありますね!」


 と、なぜか感動していた。

 うむ。なぜか釈然としないものがあるがまぁいいだろう。


「とにかくレベルを上げなきゃダメってわけだな。ゲームで使っていた機能もレベルを上げなきゃ試せないってことか。ところでカルナ。これからの計画にあたり何点か確認したいことがある」


「うん。何?」


「魂について詳しく知りたい」


「魂?」


 俺の言葉にカルナが首をかしげた。


「ああ、何ができるかで魔王に対する俺の今後の動きが大きく変わる」


 俺の言葉に二人は息を呑むのだった。



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