第二話 受け継がれるもの⑥~普通のオタクのおっさん~
俺とヒナとミカエルの三人は、校門前で父さんが来るのを待っていた。良かったちゃんとタクシーで来た。
異世界人とのファーストコンタクト。父さんは全身を喜びで震わせながら、青髪の美少年へと近寄っていく。
そして深々と頭を下げた。
「は、初めまして皆川聡志四十五歳、職業は翻訳家で好きな女性のタイプは妻で、す、すすす好きなガン●ムはニューガン●ムとF●1です!」
――普通のオタクのおっさんである。
相変わらず髪はボサボサでメガネはコーティングがハゲかけて汚ないし、服もTシャツにカーディガンとスウェットとサンダルと、こんな時間に平気でうろつく無職にしか見えない四十五歳児の姿がそこにあった。
いやちゃんと働いてるんだけどさ。
「……すいません人違いでした」
勇者じゃないです。見ての通りです。
「いや、良いんだ……生で異世界人が見れたから……」
深々と頭を下げるミカエルに、大人らしい対応を取る父さん。そこは素直に尊敬出来る。
「それより父さん、アレ持ってきてくれた?」
「ああ、はいこれ」
四角いクッキー缶をガムテープでぐるぐる巻きにして厳重に封印されたアレを父さんが俺に手渡してくれた。ちなみにガムテープには、母さんの手書きの文字で『開けたら離婚』と書いてある。久々に見たが異世界でもお目にかかれない程の『圧』を放っている。
「なぁユウ、本当にこのイケメン君に『アレ』を貸すのかい……?」
父さんの言いたい事はわかる。この異世界から来た純真無垢なミカエル君に、俺は『アレ』を貸そうとしているのだなら。
「わかってないな、異世界から来たイケメンだからこそ気軽に会話できる『アレ』が必要なんじゃないか」
だがアレはこれからの日本の生活に役に立つと、俺はそう確信している……少しぐらいは。
「ちなみに誰を選ぶと思う?」
「姉の性格が強烈だったから、それ以外」
「……わかったら教えてくれよ」
父さんは俺の肩を叩くと、また新しいタクシーを捕まえた。自分の出番はここまでだとわかっていたのだろう。
「そうだヒナ、折角だし父さんとタクシーで帰ったらどうだ? 今日は疲れたろ」
さて、ここまで付き合ってくれたヒナには申し訳ないがここから先は異世界人同士の話がある。
「え? 別に疲れて」
「帰ろう、ヒナちゃん」
流石父さん、わかってくれたか。
「男同士、腹を割って話さなきゃいけない事が……この世にはあるんだ」
……ちょっと違うなこれ。
「何を持って来たんですか?」
「内緒」
アレを通学鞄に仕舞えば、ミカエルがそんな事を聞いて来た。俺の父親が勇者かもしれないという期待が裏切られたんだ、内心穏やかじゃないくせに。
「さて、と」
さっさと本題を切り出すとしますか。
「父さんに会わせたんだ。これで『俺』と俺の家族には手出ししないよな?」
なんて事はない、俺が確保したかったのは俺自身の身の安全だ。せっかくこの世界で楽しく暮らしてたんだ、処刑なんて真平ごめんだ。
「……それは」
「クライオニールの名に誓っただろ?」
へらへらとした俺の態度が気に入らなかったのか、ミカエルが俺を睨みつける。まぁ家名の侮辱は殺されても文句言えないからな向こうだと。
「おいおい睨むなよ、その目つきは本当に」
息を吸い込み、吐いて。こいつが言葉一つで納得しない事なんて初めからわかっていた。だから魔法をいくつかかける……隠匿、遮音、そして最後は。
「お前の親父にそっくりだぞ」
「貴方がっ」
咄嗟に構えるミカエル、だがもう遅い。
「……転移」
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