第二話 受け継がれるもの④~クライオニールの双子~

「えー転校生を紹介します。グランテリオス王国からの留学生の双子の姉弟、アリエス=クライオニールさんとミカエル=クライオニール君です」


 はい名前で確定、どう見てもあの二人の息子です本当にありがとうがとうございました。というか双子で娘もいたのかよ、知らなかったわ知るわけないわ俺死んでたわ。


「あ、さっきの」


 弟のミカエルを見て、隣の席のヒナが思わず口を半開きにする。


「クライオニール……?」


 半開きからの小首傾げ、そして俺に不審の目線。はっはっは偶然って怖いね。偶然であってくれ。


「貴様、我がクライオニール家の名前がおかしいとでも言うつもりか!」


 と、そんなヒナの態度が気に障ったのか姉のアリエス……父親と同じ真っ赤な髪を後ろで束ねた、長身でヒナに負けず劣らずの巨乳剣士が腰の剣を抜いて突きつけて来た。はいそれ異世界ハラスメントです、日本で剣を抜いてはいけません。


「あっ、いやそういう訳じゃ」

「まぁまぁ姉さん、こっちの世界だと響きが珍しいだけだから……それにニホン国は身分とかもないみたいだから、ね?」


 弟は多少常識人なのか、不躾な姉の対応を諌めてくれた。さてはこいつ母親似だな。


「それでは二人とも、自己紹介をはいどうぞ」


 顔に『何でアタシのクラスなんだよ仕事増えるだろこの異世界人共が』と書いてあるやる気のない担任――前園かよ子三十一歳独身彼氏なし――が雑に自己紹介を振るが、姉は腕を組んでそっぽを向くだけだった。


「アリエス=クライオニールだ。この国に来たのはあくまで任務の為だ……貴様らのような下賤の輩と馴れ合う気はない」


 あまりに素っ気ない態度に教室中がざわつく。はい異世界ハラスメントのイエローカード二枚目です。だれか退場させろ。


「ご紹介に預かりました、ミカエル=クライオニールです。姉の言う通り僕達に任務があるのはその通りですが……せっかくお招きいただいたニホン国です、この国の技術や文化を学びたいと思っています。異世界出身ゆえに至らぬ所も数多くあると思いますが、皆様ご指導ご鞭撻の程よろしくお願い致します」


 弟は事前に用意していたのか、澱みない挨拶を述べた後に深々と頭を下げた。


 瞬間、全女子が湧いた。


「ミカエル君、ご趣味はー!」

「ガーデニングと読書ですね。どちらも母の影響ですね」


 異世界から来た丁寧なイケメンに靡かない訳がない。姉のアリエスにビビっていた事なんか忘れて、我先に手を挙げては質問をぶつける。


「誕生日は!」

「僕も姉さんもこちらの暦で……10月10日、でいいのかな?」


 あー……十六でその誕生日ならあの時の子供か。


「好きな本は!」

「えーっと、異世界の本なので皆さんには馴染みがないと思いますが」


 ミカエルの目が動く。その先にいるのは間違いなく、偶然今朝居合わせた俺で。


「初代クライオニール家当主の波瀾万丈の生涯を描いた」


 波瀾万丈の妄想ね。


「『クライオニール英雄譚』……ですね」


 ですよね。


 異世界で物語なんてそんなに無いからね、そりゃあ読んでるよねあの本は。実家の事だし唯一のベストセラーみたいな物だし……まぁクソつまんないんだけどさ。あ、すいませんヒナさんこっち見ないで下さい本当。


「じゃ、二人共そこの皆川の後ろに座って」


 よりにもよって俺の後ろ。いつの間にか追加されていた二人分の座席はこいつらの指定席だったようで。


「ミナガワさんですね、よろしくお願いします」


 姉の方はさっさと座って踏ん反り返ってくれたのだが、弟は俺にわざとらしい挨拶をしてから右手を差し出してきやがった。


「よ、よろしく」


 本当は払い除けてやりたかったが、最低限の評判を守るため引き攣った笑顔で握手に応じる。


 ――めっちゃ強く握ってくるんですけどお。


「これも何かの縁です……後ほど学校を案内してもらってもいいでしょうか?」


 女子がまた湧く。きっと俺とこいつが並んで歩いているのが絵になるとかそんな理由なんだろうが、俺一人でこいつの対応をする気になんてなれなかったので。


「ひ、ヒナも一緒でいいかな?」


 困った時の幼馴染様。お願いします後で何でもしますから。


「えっ、私も?」

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