港町「イリスタンプール」へ

第2話 荒野虫

 どこまでも広い荒野、見渡す限り何もない土地、こんな場所はさっさと通り抜けようと飛行能力を使うためデータを出す。そこに点滅する光が一つあることに気づく。

 あいつらは飛ばされた、残っていたやつがいたのか? そんな疑問を抱き点滅を拡大させると、映っていたのは女子だ。


 ――が、俺は泣きじゃくる女子より彼女を追い掛けている巨大な芋虫……の形をしたエイリアンみたいなやつの方が気になっていた。体外に見える鋭い棘、真っ赤な目とよだれを垂らしながら怪獣みたいな声で鳴いて女子を追い掛けている。

 その変な生物と女子はまっすぐ俺の方へ向かってくるようだ。遠目だろうと分かる、地の唸る音が聞こえてくるし巨大な生物の鳴き声は姿が無くとも聞こえている。


「こいつの能力は……映像越しでは分からないのか。こいつのは分かるのにな……助けるつもりはないが、この芋虫には興味ある」


 俺は女子が来る方へ近付いていく。段々と地鳴りが大きくなる、俺は飛行能力で宙へ浮かびそのまま一直線に向かっていく、――と。

 さらなる地響きが聞こえてくる。一つや二つじゃない、しばらく様子を見ていると……。


――ギィシャアアアアアアアア!!!


「うわああ!!!」


 地面から温泉でも噴き出したのかと思うぐらい、黒い芋虫型のエイリアンが地面から飛び出してくる、ざっと見ても30以上は居る。恐らく、女子を追い掛けていた芋虫エイリアンの鳴き声に反応して仲間が来た可能性が高い。

 飛行する俺と同じ高さ、今は50メートルほどの高さにいるがこいつらは相当でかい。


「さっきの女子は……」


 映像で確認すると砂に埋もれて倒れている。怪我はない、たぶん気絶している。俺はすぐにその女子の元へ行きその体を抱き上げると近くの岩陰に身を潜める。

 この女子の名は、遠山とおやま陽向ひなた。能力を見て納得する。こいつが持っているのは魔物を怒らせるフェロモンを分泌する能力みたいだ。そんなもの何の役に立つのかは謎でしかないが、戦闘では敵を攪乱するのにちょうどいいのかもしれない。


「……っ、あれ」

「目が覚めたか。あの魔物、お前のフェロモンに反応して怒ってるみたいだぞ」

「えっ。あなた、誰……はっ、わ、私まだ死にたくないの! だから命は!」

「知るか。けど選べよ、俺があいつらを倒してその後お前を殺すか、あの化け物に食い殺されて終わるか、死にたい方選べよ」


 そう問うと遠山は青ざめた顔になった。最悪な選択を迫られているんだ、どっちみち死ぬ事に変わりはない。食われて死ぬか、同じ人間に殺されるか、大した違いは何もない。


「どうした? 早くしないと、化け物がこちらに勘づいてしまう」

「……っ、だったら一緒に……逃げようよ」

「逃げる? 逃げたいなら一人で逃げろ、言っておくが俺はお前を助けたりしない。今ここでお前を殺した後、あの化け物に食わしてやってもいいんだぞ」

「……何よそれ、貴方も同じ生徒でしょう? 本当にこんな馬鹿げた殺し合いをするつもりなの?」


 目を疑う、いや耳を疑うそんな雰囲気全開で俺を睨んでいる遠山、正直こういう正義じみたことはやらない。弱者はいつだって弱者、いい人ぶっている奴になる気はない。俺はそんなに見える奴らに散々裏切られてきた。だからそれがたとえ俺とは関係なくとも、受けた仇は人間に返す。どれだけ貶されたっていい、それだけの事を俺は罰のように受けて来たんだ。


「やるよ、全員殺せば帰れる。しかも俺は魔王クラスだ、この体は傷つかないし、ほんのわずかでも攻撃すればあのエイリアンは死ぬ、そしてお前も死ぬ。この力で誰かを助けようとは思わない。少なくとも、お前ら生徒に対しては執着も愛情もないんだ。誰が死のうと別にいい」

「……最低な人間ね、いえ人ですらない。貴方みたいなやつが、さっさと死ねばいいのよ――」


 俺はこの女の態度に腹が立ち、腹部に風穴を開けてやった。恐怖に怯えた顔が俺を見る。


「お前が死ねよ、無様に。このままあのエイリアンの餌にしてやるよ」


 俺は首を振る女子を無視してエイリアンの方へ投げ飛ばす。餌が来たと言わんばかりに女子を咥え、他の奴らと引っ張り合いっこをしているらしい。四匹は、それぞれ手足を食いちぎり、胴体は別のエイリアンに食われていた。そして再び土の中へ奴らは帰っていく。


――ピコン

『遠山陽向、荒野虫こうやちゅうに食され死亡、残り443名』


「へえ、死んだら残り人数が減っていくのか。便利だなこいつは、あのエイリアン荒野虫っていうのか。やっぱ……殺すのって楽しいじゃねえの、魔王の素質あるかもな、つって」


 俺はそんな独り言をつぶやいて、町へ向かって再び足を進めた。

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