夕焼けの叙景

そうざ

Scenery of Sunset

 血の色の空が下界を覆い尽くそうとしている。人気ひとけの絶えた公園に小さな影法師。両の掌を両のまなこに当ててしくしくと泣いている。

 声を掛けずには居られない。

「お名前は?」

 首を横に振る。

「おうちは何処?」

 やっぱり横に振る。

「お父さんやお母さんは居ないの?」

 ぶるぶる。

 一瞬、捨て子という単語が思い浮かんだ。

「何処から来たの?」

 指を差した先には夕焼けしかない。

「それじゃ、一緒に交番に行こうか?」

 激しく首を振る。

「ずっとここに居るつもり?」

 ぶるぶる。

「誰かお迎えが来るのかな?」

 ぶるぶるぶる。

 段々と苛立ちが込み上げる。

「もう帰っちゃうよ」

 ぶるぶるぶる。

 大人を揶揄からかっているのか。

「本当に帰るよっ!」

 ぶるぶるぶるぶる。

「じゃあ、どうしたいのっ!?」

 泣き声が止んだ。何か言おうとしている。顔を寄せて耳をそばだてた。


「ソノ質問ヲ待ッテタヨ」


 夕焼けよりもあかい唇が熱い咆哮を伴って拡がり、下界を覆い尽くした。

 血の色の空が更に色濃く染まり、人気ひとけの絶えた公園から本当に人気ひとけが絶えた。

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夕焼けの叙景 そうざ @so-za

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