魔導少女は元厨二病。クラスメイトは──


 高魔が丘高等学校の教室がある第一校舎の主な内装は、一階が職員室など、二階が一年生教室と二年生教室、そして三階に三年生教室がある。

それらは中央階段と、それぞれ専門科目の教室が備えられた第二校舎をつないだ長方形の四隅にある階段によって行き来できる。


 中央階段を登り、一年生教室のある右の廊下に向かう。


「…………」


 もう1ヶ月近くこの道を歩いてきたが、足取りの重さは変わらない。


 私は中学生の時、高校に入るまではいわゆる厨二病であった。


 今でこそ目が覚めて普通の女子高生として生きているつもりだか、それでも中学生時代に築いた傷口が塞がることは無い。


 勿論、中学校と同じ校区にある高魔が丘高校には、同じ中学校出身の生徒も沢山いるわけで、彼ら彼女らは私の黒歴史を知っている。


 ゆえに、厨二病では無くなった私は、彼ら彼女らと顔を合わせにくいのだが……。


 一年A組、一年B組と教室をまたいで、一年C組の教室の前に立つ。


「……はぁー…………よしっ」


 一呼吸おいて気合を入れてから、教室のドアに手をかける。

なぜならこのドアを開けた先には──


──────────


「──じゃあまた分からないことがあったら何でも聞いてね! 望月さん」

「はい」


 「じゃあ教室に行きましょうか」そう言って先導する教員、佐藤魔保の後ろをサクラはついて行く。


 ──ここが高校……随分と広いな。まるで王都の宮殿みたいだ。


 、物珍しそうに眺める。


 ──そういえば朝あった子はどの学年なんだろうか。


 身長は164センチのサクラより頭一個分小さく、おおよそ150センチ程度。

となればサクラと同じ高一だと思われる。

まさか上級生ということはあるまい。


 最初、闇の力を感じたため警戒モードで近づいたものの、どうやら彼女は邪悪な存在ではないらしい。

それにたとえ敵になったとしても、生身であの程度の身体能力ではさして脅威にはならない。


 ……なんというか、可愛そうなくらいに貧弱だった。

彼女が全力だというタックルを正面から受けても、体が動くこともふら付くこともなかったし。


 魔術を使ったらどうかわからないものの、戦闘経験も知識もサクラの方が上だろう。


 ──戦うことは無くても、守ることはあるかも……。


「……守る……か」


 職員室から歩いて中央階段を上がる。

中腹からは交差しており、そこにある窓を除くと、綺麗に整備された中庭があった。


 サクラは自分から「守る」という単語が出たことを不愉快に思った。


 自分だけの為に生きてきたくせに今更誰かを守る資格なんて無いし、人と関わる勇気も無くなった。


 今朝合った少女とも情報を聞くだけで極力関わらないでいよう。

もしクラスが一緒になった場合も情報交換くらいしか話さない。


 そんな事を考えていると、二階の教室の正面までついた。


「じゃ、先生が呼んだら入ってきてね」

「わかりました」


 とりあえず、魔力は認知されていないから、自分が勇者……いや、魔法少女だということは秘匿しておこう。

クラスメイトとも必要最低限の会話以外はしない。


「……自分だけの為の行動も、巡り巡って誰かの為になるかもよ?」

「え……?」


 私の心を見透かしたように1年C組の担任佐藤魔保が言う。

不意を突かれたため、思わず一歩足を引いてしまった、


「な、なぜそんな事を……!?」


 まさか、この人私の心を読んでいるのか!?

そうなればこの人、佐藤魔保は私と同じ神に与する者か魔術師……最悪、その中でも神に敵対する者かもしれない。


 気づかれないように後ろに手を回し、マジカル・ステッキを出す。


「まあまあそんなに驚かなくてもー。……先生ね、生徒が暗い顔してたらだいたい何があったかなんとなく察せられるのよ。」

「…………そんなに暗い顔していましたか?」

「そうだねー。言い方わるいけど、このまま放っておいたらいつか死にそうだったねー」

「……人間はいつか死にますよ?」

「ふふっ、その返し方。……まぁねともかく、知らない場所で一人っていうのは寂しいよ? だからこれからいっぱい友達作ってね! 目指せ100人!」

「小学生じゃないんですから……」

「まあまあ〜、いちいち細かい事気にしてたら人生楽しくないのよー?」


 そう言うと佐藤魔保は「じゃ、待っててね」と教室に入っていく。


「……警戒しすぎ、かな……」


 そうだ、ここは日本なんだ。

殺伐とした異世界ではない。

平和な日本。平穏は当たり前の日常としてあるんだ。


 この世界は神が言うほど魔術師が暴れているわけではないし、一括りに魔術師と言っても良い人もいる。


 すこし認識を改めなければいけない。


「望月さーん、入ってくださーい」


 しばらくするとドアの向こうから佐藤先生の声がした。


 ドアを開き、佐藤先生に促されるまま教卓の後ろに立つ。


「望月桜です。漢字は望むに月、サクラは桜です。よろしくお願いします」


 一礼して教室全体を見渡す。


「……………………は?」


 そしてあまりの異常さに絶句した。


 まず、眼帯をつけた人。

次に、白いタオルをハチマキにして巻いた人。

そして、何故か学校に扇を持ってきている人。

さらに、前述した眼帯を付けた人よりもさらに派手派手しい眼帯を付けた人。

その他の生徒の多くも、何かしら奇抜な特徴を持っていた。


 ──あれ、ここってまだ異世界だっけ……?


 そんなはずがないのは分かっていても、このあまりに奇抜な光景を見たらそう思わずにはいられない。


 ──なんだこのクラス……!?


 全員とはいかないまでも、教室にいる生徒のほとんどが何かしら奇抜な格好をしている。


 服装だけではない。

机の上に置かれている筆箱等の筆記用具もいびつな形をしていたり、黒や紫、はたまた純白色や空色の分厚い辞典が積み重ねられている。


 明らかに普通じゃ……いや、これが普通なのか?

私が居たのは10年くらい前の事だし、その期間の間に文化が多少変わっていても不思議ではない。


 ……しかし、この状況この価値観を私の価値観で例えるとしたらそう、だ。


 しかし、どうやら一見して魔力持ちはいようで……。


「────!?!?!?!?」

「あ…………っ!?!?」


 一人の女子生徒に目がいった。


 頭の頂点にアホ毛を伸ばし、長い白色の髪の前髪に特徴的な銀色の花の髪どめを付けた少女。


 彼女……朝会った魔力持ちの少女と目が合うと、あちらも自分と同じように驚愕に目を見開いている。


「じゃあ間陽野さんの後ろの席に座ってね」

「え……っ!?!?」


 そう言って示された席は、朝あった少女の後ろの席。

そこは佐藤先生の言う通り、空席があった。


 ──こんな偶然あるものなのか……!?

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