魔法少女は本を取る。

「それで、君は?」


 思考が止まった。


 昨晩、夢で出会った人とその日の朝に出会うなんて誰が想像できようか。

少なくとも私にはできない。


「ねえ、聞いてる?」


 望月桜、と名乗った少女が少し距離を詰めてくる。


「あっ、えっと……」


 しかし、こちらは混乱して即座に答えることが出来ない。


 その時、焦りで手元が狂ってしまい魔導書を落としてしまった。


「あしまっ……!」


 魔導書は大きめの辞書並の大きさがあるため、そこそこ重量がある。

ゆえに、きちんと持っておかないとすぐに手から落ちてしまうのだ。


「あわわわわ……っ」


 慌てて魔導書を拾う。

こんなもの持っているのを見られたら、まず変質者と疑われるだろう。


「あ、あれ……?」


 しかし、足元に落下したはずの魔導書はそこに無かった。


「一体どこに……」

「魔導書……ね。ふぅん……」

「い、いつの間に……!?」


 いつの間にか私の後ろまで移動した望月桜。

その手には私の足元にあったはずの魔導書があった。


「そ、そそそそそれはわわ……」


 まずい、見られてしまった……!

それもよりによって同じ高校の人に見られてしまった……!!


 せっかく高校生になって厨二病から目覚めたというのに、学校にこんな怪しい代物を持ってきているなんて知られたらどうなる事か……。


 これが、知らない者からすれば他の厨二病と同じ。

そして何も知らない厨二病からは「同志同志!」とよってたかられる。


 なんにせよ一般人からしたらただのやべー奴だと思われてしまう。

それだけは阻止せねばならない。


「え、えとこれはその別に自分が厨二病だからとかじゃなくぅ……」


 苦し紛れの言い訳を連ねる。

しかし、背中を向ける望月桜は予想外の言葉を口にした。


「……うん、これは本物だね。紛れもない本物の魔道書だよ。」

「…………へ?」


 え、いきなりなに言ってるのこの人……。

黒い辞書並みの厚さで重厚感があり、「魔導書」というタイトルの書かれた本のことを、「本物だね」っておかしなこと言ってるんだけど。


 私はその魔導書の所持者であることを棚上げしてそんな事を思った。


 すると望月桜は少し声のトーンを下げて言う。


「……だからこそ、やっぱり君は。」

「……? く、くろ……?」


 ──くろとはなんぞ?


 意味がわからず首を傾げる。


 途端、さっき感じた殺気が再び刺さる。

それはこちらに背中を向ける少女、望月桜から発せられるものであった。


「ひっ……」


 戦うか逃げるかを決めなければならない。

しかし、肉弾戦となれば私が負けるのは必至だろう。

頭一個分も身長に差があるし、何より私は運動が得意では無い。


 となれば魔術で戦うしかないのだが……。


「……あの、それはそうとしてその本魔導書返して貰えませんか……?」

「返すという行為がありえない」


 ──あ、やっぱりダメですか?


 理由は分からないけど、望月桜は私を敵視しているようだし、それもそうか……。


 ただ、魔導書が無いと私の戦闘力はゼロに等しい。

だから白々しく言って説得を試みてみよう。


「えぇ、どうしてですか……!」


 私悪いことした覚えありません!

ていうか、そもそもあなたは何者??


 望月桜は魔導書を握りしめながら言い放った。


「そもそも私は勇者。神に与する者として、君みたいな魔術師に魔道書を返すなんていうのは自殺に等しいよ……!」

「…………?」


 …………急になに言ってるんだこの人。


 神に与する……? なんだそりゃ。


 再び自分が魔導書の所有者であることを棚上げして、苦笑いしながら聞く。


「…………ちょ、ちょっとなに言ってるのかよく分からないんですけれど……」

「とぼけないで。魔道書を持っていて知らないとは言わせないよ。」


 そう言って振り返った望月桜は、眉間に皺を寄せていた。


「いや、本当にに知らないんですが。何なんですか神に与する者とか魔術師とか……」


 ──まあ魔術師は知ってるけど。


 魔術師といえば魔道書を使って魔術を行使する人達のことを指し、基本的に私たちの間では「魔道師」と呼ばれる存在だ。


 まあ、「魔術を使う」という観点から見れば魔道師も魔術師も違いはないだろう。


「おちょくっているのかな。私、一応は勇者だし、君たちみたいな神に仇なす者たちに肩入れするわけにはいかない。もしそれで何か悪さをされたら夜しか眠れなくなる。」


 前髪をいじりながらそう言う望月桜に、「夜しか眠れないのは正常では……」と冷静にツッコミを入れる。


 ていうか勇者ってどういうこと……?


「ともかく、君に魔道書これを返すわけにはいかない。」

「うぅ〜…………あ、でもそれって窃盗ですよね!?」

「────」


 そう言うと少しの沈黙の後、望月桜さんはぷいっと視線をずらす。


「………………あ、遅刻する」

「誤魔化さないでください!!」


 くるりと身をひるがえし、この場から去ろうとする望月桜の服を掴んで阻止する。


「それは大事なものなんです。内容はどうあれこの本は、し、親友が私に贈ってくれた宝物なんです!」


 勇者という存在がどんなものなのか分からない。

もしかしたら魔道師とかに敵対する存在なのだろうか……?

そうなると私は狙われる対象になる。


 湧き上がってくる恐怖を力にして声を出す。

泣きそうだけれど、本を取り戻すためと自分を鼓舞して、望月桜の胸ぐらを掴む(持ち上げられない)。


 目線を合わせようとしない望月桜に訴えかける。


「どうしたら返してくれますか……!」

「……ともかく、君に信用が置けるまではこの魔道書を返すわけにはいかない。」


 こちらを向いた望月桜は、涼しい顔をしていた。


「……?」


 そして目が会った瞬間、送ってくられてくる視線に違和感を覚えた。


 それは「絶対に返さない」と言っているわりに後ろめたさや、申し訳なさがある。


 ──もしかしてあんまり乗り気でない?


 ……ならばっ。


「もし強引に奪い返そうとしたりしたら──」

「うおりゃあー!! 先手必勝っ突撃ー!!」


 意を決して相手の懐に突撃。

相手の懐に飛びつき、そのまま押し倒した流れで魔導書を取り戻し、直ぐに距離を取ってから逃走する。

よし、この作戦で行こう。


 とりあえず最初は突撃の勢いで望月桜を押し倒そう。


「お……りゃ……!」

「……?」


 押し倒して──


 片足が着地したが、再び地を蹴って寄りかかる。


「こ、の……ぉ!!」

「…………」


 勢い──


 両足が着地し、そのまま寄りかかる。


「まど、しょを……ぉ!!」


 ぐぬぬ……なかなかやるな。

これだけ押して倒れてくれないと、大木か何かを押してるような気持ちさえ湧いてくる。


「………………これって、倒れた方が良い?」


 頭上でそんな声が聞こえた。


「……うぅ……」


 大木のようにそびえ立つ望月桜を見上げる。

目に水滴を浮かべながら。


「…………まどうしょ……がえしてくだざい」

「いや、それは無理だけど」

「ぅ……っ!!」


 そのままバッと距離を空けられてしまう。


 私の渾身のタックルを受けて微動だにしないとは。

あ、身体能力が低いんだった……。


 どうしようこれから。

魔導書は取られたままで、身体能力も絶望的な差。

勝つどころか足一歩動かす事できないのは検証済み。

そして望月桜は悪さを働かない限りは殺さないっぽかったが、たった今攻撃(?)をしてしまった。


 つまりどうなるか。


「こ、殺されるごろざれる……」


 目から滝のように涙が流れる。


 あぁ、15年間っていう短い人生だったけど、楽しいことも悲しいことも後悔することも……色々あったなぁ。

……死にたくない!


 そんな反応を見た望月桜は、驚いた表情をした。


「い、いや、殺さないよ? べつに」


 ……およ?


「み、見逃してくれるんですか……?」

「う、うん。見逃すけど……」


 え、マジですか……?

でも今私攻撃したのに、なんで……??


「こ、こんなこと私から聞くのも変ですけど……なぜ見逃すんですか……? 魔術使う人は敵だーって言ってたのに……」


 そう質問を投げかけると、望月桜は単純明快であっさりとした答えを返した。


「君に脅威を感じなかった。」

「へ……?」


 きょ、脅威を感じないとは……?


「さっきのタックル、多分本気だったんだよね? 気合が声に出てたし、すごい形相だったし」

「ま、まあ……はい」

「やっぱり。だからまぁストレートに言うと、たとえ暴れられても大した事にはならないかなって思ったから。」

「…………っ」


 ──


 そんな、非常にも正しい言葉が脳内を駆け巡り、私はフリーズする。


「………………自分で分かってても他人に言われるとさらに傷つきます……」


 かなり心が傷つけられた。

ここまで言われるのは久しぶりかもしれない。

こうもストレートに言われると分かっていても悲しくなる。


 しかし、どうやら私を殺さないようだ。

身体能力低いと役に立つこともあるんだな……。


 ……ってあれ? 今彼女から送られてくる目線は……なんだこれ、「可哀そうに」……?


 もしかして私、いたわれてる?

名前と制服だけじゃわからないけど、同じ年代で同じ高校の生徒に?


「っ────!」


 急に自分の弱さと情けなさ、そして近い年代の女性に同情された悔しさと恥ずかしさが湧き上がってきた。


 なおも流れる涙。

そんな様子を見かねたのか、望月桜はスタスタと歩み寄ってくる。


「な、なにを……」

「はい、これ」


 そういって出された右手には、純白の生地に桃色の刺繍が入った可愛いハンカチがあった。


 ……可愛いハンカチだな。

どこに売ってたんだろう。


「か、可愛いハンカチですね……」

「そ、そう……って違う! これ、あげるから。」

「え……!? い、良いんですか!?」

「いいから!!」


 かなり気が引けたが、ズイズイと渡そうとしてきたため、恐る恐る受け取る。


「あ、ありがとうございます……! こんな可愛いハンカチ……大事にします!」


 思えば小学生の時から厨二病で、可愛いとは無縁の生活をしてきた。

だから家に白系のハンカチなんて無いし、あるのは黒とか紫とかばかりだ。


 正直、無茶苦茶嬉しい。

これは家宝にしないと……。


「そ、そう……って違うっ! それで涙を拭いてってこと!!」

「え……? あっ、ありがとうございます」


 渡されたハンカチで目元を拭う。


「これ、後で洗って返しますね」

「……いいよべつに。……そういえば、君もあのマンションに住んでるんだよね?」


 そう言って指を向けられた場所は、さっき出てきたマンション。つまり自宅だった。


「そうですけど、あ、つまりご近所さんって事ですか?」

「……これまでに犯罪じみた事を起こしたことは?」

「あからさまに人を疑うのやめてくれません!? それに、悔しいですけど私に犯罪を起こす力はありませんよ!? さっき身を以て分かったでしょうに!」

「それは分かってる。」

「えっ」


 せめて否定してほしかった。


「私が聞きたいのは魔法……いや魔術関係で、だよ。魔術は上手く使えばどれだけ非力な人でもマンション一つ壊滅させられる。そんなことも知らずに魔術師やってるの?」


 怪訝そうな表情で言う望月桜。


 たしかに魔術を使えばマンション一つくらいは壊滅させられる。

それゆえに、危険視されるのは当然か。


「それくらいは知ってますけど……わ、私ほとんど人前で魔術使ったこと無いですし、使っても、命の危険にさらされた時しか使ってません!! ……攻撃魔法は」


 これは胸を張って言える。

厨二病を患っていた時は魔術を使う頻度が高かったが、どれも事件性は無いし物を破壊したなんて記憶は無い。

自慢になるけれど、人を助けた事もあるんだ。


「それにわざわざ暴れる理由ありませんし、厄介事は増やすだけ無駄に──」

「いま異形の怪物って言った!?」


 言葉の途中で、食い入るように望月桜が割り込んでくる。


「えっ、ま、まあ……正しくは化け物って言いましたけど」


 肯定しつつ訂正すると、望月桜は今まで以上に深刻そうな表情をした。


「……ちなみに、どれくらいの頻度で襲われる?」

「んー、月に1回2回くらいです。」

「なっ……………………うん。それを全部1人でさばいてるの?」

「そうですけど……もしかしておかしい事なんですか?」


 ……何気なく会話をしているけれど、傍から見たらただの厨二病変人だろう。

しかし、「異形の化け物」や「月に1、2回襲われる」というのは事実だ。


 現在、日本では年に数万人の行方不明者が出ているらしい。

それが自然災害によるもなのか、はたまた人間の手によるものなのかなど、理由は様々だ。

その中でも、少なからずの割合を「人ならざる者」の手によって占められているのもまた事実だ。


 世間一般的に魔力等の、いわゆる非科学的な現象を起こしえる物質や要素は存在しないと言われている。

しかし、それは事実では無い。

実際に魔力は存在し、それを操り神秘的な現象を起こす人々もいる。


 だが、同時に魔力を感じ得る力、素質が低い人がいるのも事実。

そしてそれらの素質がある人間はごく一部で、特に自身の体内に魔力を溜め込んでおける、いわゆる「魔力持ち」の人間はその更に一部だ。


 そして、それを操る人間がいるということは悪用しようとする人間も出てくるわけで、彼らは同じく魔力を感じ取る素質を持った人間を集めて、彼ら中心の世界を構築しようと考える者もいる。


 それらを世間一般的(魔力知ってるヒト界隈内)において、「闇の勢力」と呼ばれているのだが……。


「……ねえ、君ってもしかして魔力持ちなの?」

「…………」


 赤桃グラデーションヘアーのこの人、自称「神の使いの勇者」って言ってるのに魔力知ってるヒト界隈こっち側の事情をあんまりご存知でない?


 そもそも「神の使い」とか「勇者」とか初耳だし、そんな人達は魔術使える人たちを見境なしに敵対しているの……?


「……質問を質問で返しますけれど、貴女の方こそ何なんですか? 神の使いの勇者を自称する割にはこっち側の事情、もとい魔力知ってるヒト界隈の事情とか知らないじゃないですか!」


 そう詰め寄ると、望月桜は案の定目線を逸らした。


「……恥ずかしながら、最近こっちの世界に戻ってきたばかりだから、よく事情を知らないんだ」

「最近こっちの世界に戻ってきた……??」


 ──それってどういう事ですか??


 そうこちらが言う前に、望月桜は「あ、そうだ」と手を打った。


「君、こっちの世界の事情に詳しそうだし教えてくれないかな?」

「えぇ……まあいいですけど……お返しに貴女も勇者とかについて教えてください!」

「……めんどくさい……」


 相手に教えを乞いながら自分はめんどくさいとはそれでも勇者か!


 しかし、そういう事なら好都合。

絶対に無理な条件を突き付けてやろう……。


「ぐぬぬ……なら魔導書返してください」

「うん、いいよ。」

「嫌だったらそちらの情報も……えっ……!?」


 驚く私に、「はい」と魔導書を差し出す望月桜。


 てっきり拒否してくると思っていたのだけれど、凄くすんなりと返してくれた。


「あ、ありがとうございます……」

「よし、じゃあ教えてくれるかな?」

「えっ、い、今からですか!?」


 そういえば、とスマホの時計を見る。

すると、時計の針はすでに8時を過ぎて10分を示していた。


 まずい。

高校は8時20分までに教室に入っておかねばならないのだ。


 私は急いで魔導書をバックに戻す。


「ご、ごめんなさい。そろそろ学校に行かないと遅刻しちゃいます」

「え、そう? 走れば30秒程度で行ける距離だけど」


 さも当たり前かのように言う望月桜。


 学校まで300メートルは離れているんだけど……。

単純計算でも100メートル10秒……トップ選手でも難しい速度なんですが……!?


「…………私そんなに早く走れません」

「えっ…………まあ、そっか」

「そっかってなんですかそっかって!!」

「じゃあ歩きながら話そうか」


 そう言うと、望月桜は学校とは全く別方向に向かって歩いていこうとする。


「そっち学校じゃないですよ!?」

「え、そうなの?」

「そです。……私が先導するので着いてきてください」


 慌てて声をかけて道を正す。


 この人、魔力知ってるヒト界隈の事はともかくとして、この辺りの地理も知らない?

そういえば最近来たって言ってたな。


 そんなことを思いながら先導して歩く。


「…………」


 気配が遠いので後ろを振り返ると、望月桜はその場に呆然と立ったままだった。


「? どうしました? 早く行かないと遅刻しちゃいますよ」

「……うん」


 ──あれ……?


 その時、一瞬だけ今までにない視線が背中に刺さる。

その視線は、なんというか寂しそうな感じだ。


「…………」

「…………」


 シーン。

互いに言葉も出さなければ、顔も向けない。


 ──なんか、気まずい……。


 そのせいで望月桜の前を先導して学校に行く間、話し出すタイミングを掴めずにいた。


 最初は殺気立っていて、今度は憐れみの目を向けて来て……、そして今は寂しそうな視線を向けてきている。


 ──どうして悲しそうな視線で見てくるんだろう……。


 その三つの中でも、一番強く気持ちが込もっていたのは「殺気」でも「憐れみ」でもなく、「寂しい」というのが一番大きかった。


 ──もしかしたら寂しがり屋、とか……?


 結局、私に向けられる寂しげな視線のせいで、学校に着くまで話を切り出すことができなかった。


 生徒玄関に着き、靴を下駄箱に収める。

どうやら転校生だったらしい望月桜は、左手に靴を持ったまま校舎に入った。


「結局お伝えできませんでした……」

「いいよ。魔術師にもいい人がいるんだって分かったから。」

「…………そういえばなんですが、勇者も魔術師じゃないんですか?」


 「いい人」と言われて動揺してしまい、慌てて話題を作る。


 勇者といえど、なにも剣だけで戦うわけではないはずだ。

魔術を使う相手に魔術無しで戦うのは無理に等しいし、「魔術師や魔道師」というくくり方であれば勇者も含まれてしまうのでは?


「いや、勇者は魔術を使わないから魔術師じゃないよ」


 魔術を使わない……?

一体どうゆコト……?


 私は頭に「ハテナ」を浮かべる。


「ほい」


 望月桜がそう言って右手を掲げると、どこからともなく魔法のステッキみたいな物が出現した。


「な、なんですかそれ……!?」

「これはマジカル・ステッキ。勇者は魔術じゃなくて魔法を使うんだ。」


 ステッキをなぞりながら語る。


「魔術を使うためには魔道書が必要不可欠なように、勇者……いや、魔法少女とか魔法少年とか呼ばれる魔法使いが魔法を使うには、その人専用のステッキが必要なんだ。」

「魔法少年……?」

「うん。もちろん勇者は女子だけじゃなくて男子もいるからね。」


 すっ……とステッキを消滅させ、時計を見た望月桜は「じゃあこれで」と去っていく。


 まだまだ聞きたいことは山ほどあるが、時間が圧倒的に足らないのでまた次の機会に聞こう。


「ま、また色々教えてくださいね!!」


 返事は帰ってこない。

悲壮感漂う背中を見送りつつ、私は教室に向かった。

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