第25話 街道での遭遇戦

ワインの試飲を終えると馬車の中は酒談義となった。


「やっぱり基本的にワインは富裕層向けの嗜好品の扱いですか?」


「安いワインなら庶民も飲めますが毎日飲めるほど安くは無いですからね。」

「ラムやエール、はちみつ酒、りんご酒、梨酒あたりがよく飲まれます。」


「なるほど・・・ウィスキーやブランデーはフランスではあまり作られないんですか?」


「ブランデーは作りますね。やはり高級品で、がウィスキーはあまり作られてないと思います。」


「ボルドーとロンドンでワインとウィスキーを運ぶだけで結構儲かりそうですね。」


「儲かるのは間違い無いでしょうが、今は戦争中なので両国が認めた一部船舶しか行き来できません。」

「その限られた量の積荷だともっと稼ぎやすい物を交易品にされてますが・・・」


メッセとしては自分のワインを交易品に選んでもらえることは有り難い。

だがフランスとイングランド間行き来できるなら儲かる商品はいくらでもあるのだ。

なぜソーマが必ずしも効率的とは言えないワインを選ぶのか不思議であった。


「他の交易品というとどんなものがありますか?」


「そうですね・・・イングランドでは魔術師用の高品質な装備品が手に入ります。」

「逆にフランスではイングランドより剣や鎧の武具は品質が良いです。」

「他にはフランネルとサテンの交易とか・・・・」


「でもそれらは既に大きな商会とかが取り扱ってるんですよね?」

「今から私がそこに入っていくのは難しいと思うんですよ。」

「需要はあるけど取り扱いの少ない商品。」

「それに欲しい人はお金をいくらでも出す嗜好品の酒ってきっと商売になると思うんです。」


「たしかに・・・新規参入の商売としては狙い目かもしれません」

「でも定期船に乗るのも簡単じゃないと思いますけど大丈夫ですか?」


「そこは何とかするので!なので是非良いワインを譲っていただければと。」


その後は雑談となったが、異邦人の事もメッセは知っていた。

フランス内でもソーマがこちらへ来た日を境にかなりの数がいるらしい。

イスパニアと同じように集められているようだった。

しばらく異邦人について話していると人と獣の叫び声のようなものが聞こえてきた。


「ボルドーが近いみたいですね。」

「あれはボルドーのハンターが魔獣を狩っているんですよ。」

「この辺りだと朝から狩ればその日のうちに街に戻れますからね。」


「なるほど。私も折角だから交易の準備が整うまでボルドーを拠点にハントするのもいいかもしれないですね。」


「いいと思いますよ。この辺だと猪や狼の魔獣が比較的狙い目ですかね。」

「少し奥に行くと出る熊の魔獣は強いので危険ですが。」


「ゴブリンとかアンデットは出ないんですか?」


「魔の森から遠いボルドーでは魔物はほとんど見ることはないですね。」


(魔獣と魔物・・・獣か人型の違いか?常識だと聞きづらいから落ち着いたら調べよう。)


そう話してる最中に狼だろうか。獣の遠吠えが聞こえてくる。


「今のは狼ですか?鳴き声は比較的近くで聞こえたようですが・・・」


「たしかに狼みたいですね。おかしいですね・・・この辺りで出ることは無いんですが。」


ソーマの問いにメッセが答える。


「大丈夫だとは思うが早くここから離れたい。速度を上げるから揺れに気を付けてくれ。」


御者の男が荷台に声をかけ、加速しようとするが直後に前方をふさがれ急停止する。


「おい!危ないだろ!早く道を空けろ!」


「すまないが街まで乗せてくれ!仲間が危ないんだ!」


ソーマは身を乗り出し様子を見るとハンターと思われる4人組が御者の男と話していた。


「おいおい血を流してここに来るなんて何考えてるんだ!」

「巻き添えはごめんだ。自分たちで何とかしてくれ!」


「今なら街で治療すればたぶん助かるんだ!金なら払うから頼む!」


「4人も乗られたんじゃ足も落ちるし無理だ!早くそこをどいてくれ!」


重傷者のいるハンターは必死に頼むが、御者は無情にも拒否する。

しかしハンターたちも馬車の道をふさぎ動く気配は無かった。


「とりあえずこれを使ってください。」


ソーマは交渉していたハンターへポーションを投げて渡す。


「すまない!だがこのままだと俺達じゃ助からないんだ!なんとか馬車に乗せてもらえないだろうか・・・」


「・・・・狼の魔獣ですか?数は?」


「そう・・・魔狼だ。2~3匹なら俺達だけでも倒せるが10匹以上の群れで逃げるので精一杯だった・・・」

「途中でダイがやられて・・・だからもうすぐ血を辿ってこっちに来る!早く逃げないと!」


「おいおいおい!あんたらが見捨てた仲間食べ終わったら次はこっちだと!?」

「自分たちで何とかしてくれ!頼むから巻き込まないでくれ!」


「このままじゃ全員が危険です。俺が残って狼の相手をするんで皆さんは早く行ってください。」


ソーマの発言に全員が驚く。


「魔狼は群れになるとCランク以上に危険です!一人では無理ですよ!」


ハンターから心配する声が出るがソーマは表情も変えずこたえる。


「では誰か残りますか?時間の無駄です。仲間の怪我も早くしないと危ないんでしょう?」


ハンター達は顔を見合わせると申し訳なさそうにソーマへ頭を下げる。


「街へ戻ったらギルドへ来てください。今日のお礼を必ずさせてください!」


メッセも続けてソーマへ声をかける。


「ソーマさん。私の店にもお立ち寄りください!」


馬車が出て間もなく、森の木々から複数の気配を感じソーマは集中する。


(スケルトンの時より数ははるかに少ないが油断出来る相手ではないか・・・)


ソーマがそう思ったのは魔狼はソーマに気づいているがすぐに襲い掛かっては来ず、

連携して囲むように動いていたからだ。


(少しずつ範囲を狭めてるな・・・)


木々から街道の見える位置に何匹か出てきてソーマの周囲をぐるぐると回り始める。

真後ろにいた一匹が背後から首筋めがけて飛び込むんでくるが、ソーマは体をひねって躱す。

するとすぐに別の一匹がまた死角から飛び掛かってくるも再び躱す。


(動きは見える・・・次は反撃してみるか・・・)


次に攻撃してきた魔狼へ、避けずに剣を振る。

魔力を全力で込めた刃は体を縦に真っ二つにする。


(念のため全力を出したがそこまでの力はいらなかったか・・・)


ソーマは力を調整し襲ってくる狼を次々と斬り伏せる。

魔狼は首や腹を裂かれ次々と数を減らしていく。

7匹目を倒したところで諦めたのか残りは逃げていく。

逃げる一匹へソーマは風魔法ウインドカッターを放つ。

直撃すると魔狼は吹き飛び木へ体を叩きつけられるも起き上がって逃走しようとする。


(今のウインドカッターの威力じゃ斬るというより殴るだな・・・)

(これくらいの魔獣で2~3発当てたら倒せるか?)


もう一発を逃げる魔狼へ放つと、再び身体を吹き飛ばし今度は動かなくなる。

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1万人の転移 百年戦争は混沌へ 和谷幸隆 @klein360

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