第27話
“今なんか聞こえなかった?”
“悲鳴っぽいの聞こえたくね?“
”なんかやばくね?“
”何今の声“
「…?他の探索者?」
ダンジョンの奥から聞こえてきた悲鳴のような声に俺は首を傾げる。
コメント欄も突然聞こえてきた切羽詰まったような声にざわついている。
うゎあああああああ!?
誰か助けてくださぁあああああい!!
まただ。
また聞こえてきた。
今度は明確に、「助けて」とそう聞こえた。
“助け求めてね?”
“他の探索者がモンスターに襲われてるとか?”
“様子見に行ったほうがいいんじゃねーの神木“
”見に行ってみようぜ!!“
”もしかしたら美少女がモンスターに襲われてるかもしれない…!今こそ神木ハーレムに新メンバーを迎える時…!“
”いやどう考えても男の声じゃなかったか?“
”男ならハーレムにはいれられねーな?助けなくてよし“
“男なら無視で“
”いやお前ら薄情すぎやろw w w“
「一応様子を見に行ってみますね」
コメント欄では男の声だったから助けなくていい、なんて辛辣なコメントも見受けられるが、どのみち悲鳴が聞こえていた先は進行方向だ。
もし探索者がモンスターに襲われていたりしたら大変だし、俺は様子を見に行ってみることにした。
「ちょっと本気で走ります……画面がブレるかもしれないのでご注意を」
”ん?本気?“
”おう、お前の配信の手ブレはいつものことだぞ“
”おういけいけ〜“
”神木くんやっぱり優しいね。大丈夫かどうか見に行ってあげるんだ“
”おい男だから見捨てろとか言ってたやつ、神木拓也の爪の垢煎じてのめよ“
”俺見捨てろなんて言ってないけど、神木拓也の爪の垢煎じて飲みたいです。ちょっと強くなれそう“
”私も神木くんの遺伝子体に取り込みたい…“
”なんかやべー女視聴者湧いてね?“
何やらよくわからん会話が繰り広げられているコメント欄は一旦無視だ無視。
俺は手遅れになる前に、悲鳴の聞こえてきた
現場に急ぐことにする。
「ーーーッ!!!」
コメント欄に断りを入れ、しゃがみ、そして地面を蹴った。
ヒュゴォオオオオオオ…!!!
狭いダンジョンの通路を、壁に当たらないようにしながら全力疾走する。
”速ぇええええええええ!?!?“
”うぉおおおおおおお!?!?“
”か、風の音すげぇええええええええ!?“
“イヤホンからめっちゃビュォオオオオオって聞こえてくるw w w”
”車に乗っている時以上のスピードで景色が流れていくの草“
“やばすぎやろw w w”
“陸上の世界大会で無双できるやんw w w”
「…っとと」
スピードゆえ何度も入り組んだダンジョンの壁にぶつかりそうになる。
そう言う時は、無理に地面を走ることなく、壁を走ったりもしてなんとか勢いを殺さずに突き進む。
“なんか画面が反転した!?”
“どうなってんだ!?”
“こいつ壁走ってね?w w w”
“壁走ってるw w w”
“やばすぎやろw w w”
“ファーw w w”
“ギャグ漫画でしか見たことないやつやんw w w”
“物理法則壊れる〜w w w”
”もうめちゃくちゃw w w“
地面を蹴り、壁を走り、スマホを持ってない方の腕を振って俺は全速力でかける。
その結果、おそらく悲鳴の出どころだと思われる現場に時間をかけずにたどり着くことができた。
『シュルルルルル…』
「ひぃいいい!?」
「誰か助けてぇええええ!?」
“お、誰かいるぞ…!”
“悲鳴あげたのこいつらか…?”
“ダンジョンスネークだ!!襲われてね?”
”すげぇ…w間に合った…w“
”これ間に合ったっぽいな“
”結構遠くから聞こえてきた悲鳴だと思ったけど、普通に間に合ってて草“
「あのー、大丈夫ですか?」
「へ?」
「うぇ?」
果たして、そこにいたのは、探索者っぽい若い見た目の男二名とダンジョンスネークと呼ばれるモンスターだった。
ダンジョンスネークは長いしたをチロチロとだし、今にも二人に襲い掛かろうとしていた。
そして探索者と思しき二人の方は、完全に戦意を喪失しているのか、武器を投げ出し、地面に尻餅をついたまま絶望の表情を浮かべている。
これは……一応間に合ったのか?
俺はどう見てもピンチの二人に声をかける。
「助けたほうがいいですか?そいつ、俺が倒します?」
”いやなんだその質問はw w w“
”助けたほうがいいに決まってるやろw w w“
”ここまで何しにきたんだよw w壁まで走ってw w w“
”一応ね?獲物の横取りになったらいけないしマナー違反がないか心配してんだろ?“
”ピンチを装った作戦の可能性も微レ存だからな“
“いやそんなわけあるかw w w誰がどうみてもただのピンチやろw w w”
”この状況でそんなこと心配してんのかよw w w“
”まぁ、攻撃モーション見た後でも対応できることからくる余裕だろうな“
”ダンジョンスネークなんて神木にしてみれば一瞬だもんな“
“まぁ所詮中層のモンスターだしな。結構強い方とはいえ、こいつにとっては上層の雑魚と変わらないんやろ”
“つかこいつら若いな。高校生ぐらいか?”
一応二人がダンジョンスネークを出し抜くために演技をしている可能性もある。
何も聞かずにモンスターを倒してしまっては横取りとなり、探索者の間でマナー違反とされる行為になってしまう。
そう思って俺は、同年代ぐらいに見える二人の若い男に念の為そう尋ねた。
二人は一瞬ぽかんとしたあと、目を見開き俺を指差して大声を上げた。
「えぇええええええ!?神木拓也ぁああああああああ!?!?」
「なんでここにぃいいい!?!?」
「え?俺のこと知ってるの…?」
“視聴者きたぁああああああ!!!”
“いや神木のこと知ってるんかい!!”
“そりゃ知っててもおかしくないやろ探索者なら”
“よかったな有名人”
“神木知られてるやんw w w”
“こいつらまさか視聴者か…?w”
二人は俺のことを指差して口をぱくぱくとさせている。
そしてそんな二人に近づきつつあるダンジョンスネークは、美味しそうな獲物を見つけたとばかりに口をぱくぱくさせている。
いや、前みろ前。
「あのー、前見たほうが…」
「うわぁあああああ!?」
「ひぃいいいいい!?」
すぐ近くに近づきつつあったダンジョンスネークの顔に、二人が今更ながら気づき、悲鳴をあげる。
うん、これはどう見ても演技じゃないな。
完全に捕食されかけている獲物だ。
“そろそろ助けてやれよ神木w w w”
“おーい、神木ー?食われそうになってんぞー?”
コメント欄もそう言ってせかしてくる。
わかってるって。
「もう俺が倒しますね」
俺は大口を開けて捕食しようとしている地面を蹴ってダンジョンスネークに肉薄。
「うりゃ」
俺の動きに反応すらできていないダンジョンスネークの頭部を思いっきり右足で蹴りあげた。
バコォオオオオン!!!
ズガァアアアアアアン!!
「「えぇええええええ!?!?」」
蹴り上げられたダンジョンスネークの体は空中に持ち上がり、ダンジョンの天井に激突する。
潰れた頭部は一瞬天井にめり込んだが、プラーンとなった胴体の重さで取れて、体ごと地面に落ちてきた。
ズゥウウウウン…
「死んだ、かな?」
地面に落ちてきたダンジョンスネークは、すでに死体となっているようだった。
粉砕された頭蓋は、原型を留めていない。
足で突いてみたが、ピクリとも動かなくなっていた。
“やっぱ一撃だったなw w w”
“めっちゃ打ち上がったw w w”
“頭部ぐしゃぐしゃやんw w w”
“粉砕してやがるw ww“
”頭部の勢いで体まで持ち上がってたぞw w w脚力どうなってんだw w w“
”こいつにサッカーボール蹴らしたら地球一周して帰ってくるやろw w w“
「大丈夫?怪我はないかな?」
ダンジョンスネークを仕留めた俺は、唖然としている二人に手を差し伸べる。
二人はしばらく俺と死んだダンジョンスネークを交互に見て口をぱくぱくとさせていたが、やがてハッと我に帰ったように言ってきた。
「か、神木さん…助けてください…!」
「も、もう一人いたんですっ…!」
「もう一人…?」
「お、俺たちの仲間が…」
「そ、そいつに食われてしまって…!」
二人がダンジョンスネークを指差した。
「あー、なるほど」
みればダンジョンスネークの胴体のお腹あたりが、不自然に膨らんでいた。
どうやらここにくるまでに一人丸呑みにされてしまったらしい。
”うせやろ…“
”一人食われちまったんか…?“
”そんな…“
”マジかよ… ;;“
“おわた…;;
“間に合わなかったんか…”
“いや、まだ生きてるやろ”
「わかった。すぐに助ける」
俺は絶望ムードの漂っているコメント欄を横目に、二人に向かって頷いた。
そしてダンジョンスネークの死体まで歩いて、膨らんでいる部分で屈む。
そこまで時間はたっていないはずだし、おそらくまだ生きているだろう。
「ちょっとこれ持っててくれる?」
「は、はい…っ」
「わかりました…っ」
俺はスマホを一旦二人に渡した。
二人はおっかなびっくり俺のスマホを受け取る。
「ほいっ」
ズボッ!!
スマホを二人に渡した俺は、フリーになった両手をダンジョンスネークの体内に思いっきり突っ込んだ。
”手差し込んだw w w“
”鱗貫通w w w“
”生きててくれぇええええ!!!“
”窒息死してない限り大丈夫やろ”
“これ助けたら英雄やぞ”
“死んでたらまずい…死体が映っちまう…”
“やべぇ…ご飯中なんだけど…死体だけはマジ勘弁…”
“生きろ名も知らぬ探索者!!!”
“神木早く助けてやってくれぇえええ!!”
「お、お願いします神木さん…」
「神木さん…お願いしますっ…」
「ちょっと待ってくださいよー…ほいっ」
望みを託すように俺のことを見てくる二人。
ダンジョンスネークの体内に手を突っ込んだ俺は、中に人の手ごたえを確認する。
よし、まだ溶かされてないな。
あとは中から引っ張り出すだけだ。
「とりあえずこれをこうして…」
ベリベリベリ…!!
“引き裂いたーw w w”
“やっばw w w”
“お!!出てきた!!”
“生きてるか!?”
“間に合ったのか!?”
邪魔なダンジョンスネークの体を俺は引き裂いた。
そして空いた穴から飲み込まれた体を取り出す。
「ぷはぁ!!…はぁっ…はぁっ…はぁっ…」
「け、健二ぃいいいい!!」
「健二生きてたのかぁああああ!!!うおおおおおおお!!」
「ふぅ…よかった…間に合った…」
俺は額の汗を拭う。
中から出てきた男は、まだ溶かされても窒息死してもいなかった。
ずっと息を止めていたらしく、助け出した瞬間に、苦しげに何度も呼吸を繰り返す。
すでに若干消化されかけていたのか、服がところどころ溶けていたが、しかし命の別状はないようだった。
「うぉおおおお健二ぃ…てっきり死んだものとばかり…」
「よかった…よかったぜ健二ぃいい…」
「お、俺…助かったのか…?」
泣きつく二人。
若干戸惑う一人。
俺はそんな三人を、返してもらったスマホで撮影する。
“うぉおおおおお!!生きててよかったぁあああああああ!!”
“セーーーーーーフ”
“っぶねぇ!!”
“間に合ったのか…”
“めっちゃハラハラした…”
”めっちゃ仲良しやん…死ななくてよかった…“
“グッジョブ神木”
“また命救ったやん神木拓也。すごいなお前”
“お前ら神木に感謝しろなー?^^”
「あ、ありがとうございます神木さん…!」
「神木さんありがとうございます…!」
「え…神木…?って、うおおおお!?神木拓也ぁ!?どうしてここにぃ!?」
しばらくして、ダンジョンスネークの腹の中から出てきた親友の無事をひとしきり噛み締めたらしい二人が、俺に感謝の言葉と共に頭を下げてきた。
そして助け出された一人…どうやら健二というらしい男が俺を見て驚く。
「ま、まさか神木拓也が俺を…助けた…?」
「そうだぞ!!」
「ダンジョンスネークを倒してお前を腹の中から助け出したんだ…!お前も神木さんに感謝しろ!」
「マジでありがとうございました…!」
比喩抜きで地面に頭を擦り付ける三人。
“めっちゃ感じいい奴らやな”
“ちゃんとお礼が言えるの偉い”
“いい子達やん…“
”神木と同年代ぐらいか?なんであんな状況になってたんだ?“
”イイハナシダナー“
”やさしいせかい”
”やさいせいかつ“
「も、もういいよ…とにかく無事でよかった…」
俺はちょっと照れくさくなって頭をかきながらずっと疑問に思っていたことを尋ねる。
「三人は…もしかして俺の視聴者だったりするの…?」
「「「はいっ!!」」」
「おおう、そうなのね…」
即答だった。
めっちゃ勢いのいい即答だった。
俺は自分で聞いておきながらちょっと驚いてしまう。
「視聴者というかファンです!」
「憧れです!!」
「神木さんまじでリスペクトです!!」
「あ、ありがとう…」
何気にこんなこと言ってくれる純粋なファンに遭遇したの初めてかもしれない。
俺はなんと言っていいかわからず、キョドってしまう。
“大ファンやんw w w”
“よかったな神木w w w”
”好きな配信者に助けてもらうとか運のいやつ…“
”どんな確率だよw w w“
”偶然がすぎるw w w“
“こんなことってあるのかw w w”
「そ、それで…どうしてこんな状況に?」
俺は照れくさいのを誤魔化すように三人にそう尋ねた。
三人は顔を見合わせてバツが悪そうにボソボソと喋り出した。
「お、俺たち…実は神木さんに憧れて…」
「つ、つい最近ダンジョン探索始めたんです…」
「神木さん見て…同じ高校生なのにすごいなって…俺たちも強くなりたいってそう思って…」
「え…」
“ファーw w w”
”お前のせいやんけ神木w w w“
”なるほど神木に憧れた口かw w w”
“そういうことだったのかw w w”
“神木に憧れて探索者始めるとかw w w気持ちはわからなくもないがw”
“まぁこれだけ視聴者がいたらこんな奴らが出てくるのも仕方がないよなw w w”
“神木の配信見て感覚麻痺したんやろな。俺たちにも出来るかもしれないって…”
”まぁ同年代の連中はそりゃ憧れるだろうな。自分とほとんど変わらない歳でこんなに人気があれば“
「お、俺に憧れて…?」
「はい!」
「神木さんまじパネっすもん!」
「俺たちの学校でヒーローみたいな存在っす」
「そ、そう…」
嬉しいと思う反面、複雑な気持ちだ。
俺への憧れの気持ちが、この三人を命の危機に誘ったのか…
「か、神木さんのせいじゃないっすよ!?」
「本当に俺らがバカでした!!」
「か、神木さんみたいになれるかなって…浅知恵で何も考えずに…本当にご迷惑おかけしました…!!」
「あ、いや…うーん…その…」
俺は三人にどう言葉をかけていいか迷う。
謝る?のも違うよな。
忠告、とかした方がいいんだろうか。
もう中層には潜らないほうがいいって…
「あっ」
俺の顔を見て言わんとすることを察したのか、三人が慌てて行った。
「も、もう俺たち、ここには来ないんで…」
「もう中層には潜らないです…」
「今回のことでよくわかりました…実力不足って…」
「そ、そう」
ちょっと安心。
多分、ダンジョンスネークも倒せないまま中層に潜り続けていたら、遠くない未来、また今日のようなことが起こるだろう。
「同じって言ったけど…君たちも高校生?」
「はい、そうっす」
「高1っす」
「神木先輩の一個下っす」
「そうなのか」
現在俺は高2。
この三人組は一個下の高校一年生のようだった。
「へへへ…マジでバカでした俺ら…」
「三人でパーティー組んでダンジョン潜って神木先輩みたいになるんだって…」
「勢いのままに探索者になったんす…本当にバカでした…」
「い、いや…バカってことは…」
「いえ、マジでバカでした」
「今回のことで痛いほどわかりました。俺たちには上層ぐらいがちょうどお似合いって」
「もう中層には絶対に潜らないっす」
”やっぱ高校生だったかw“
”そうしろ。お前らは神木じゃないんだからもう中層に潜るな”
“マジでそうしたほうがいい。その程度の実力で中層攻略できるわけがない”
“神木見てると感覚麻痺しそうになるが、中層ってやっぱ素人が潜ると普通に死にかけるような危険地帯だよな”
“まぁ流石にこいつらはこれで懲りたやろな。
もう潜らんやろ“
”若気の至りってやつか。まぁ今日で身の程を思い知っただろうが”
“神木が来なかったら全員仲良くダンジョンスネークの腹の中だからな。流石に懲りたやろ”
「そう、だね…上層だけにしたほうがいいかも」
上層のモンスターなら、彼らでも死ぬようなことはないだろう。
俺は今回の件で十分に懲りたらしい三人に言った。
「よしわかった。それじゃあ…念のため、上層まで送るよ」
「いいんすか!?」
「いや悪いっすよ!!」
「大丈夫っすよ!?今ダンジョン配信中っすよね!?」
「いやいや、送るよ。そんなに手間でもないし」
まだ中層の深くまで潜ったわけじゃないし、三人を上層まで送り届けた後でも下層まで潜る時間は残されているだろう。
俺は三人が帰りにまた中層のモンスターに襲われて死にかけることを危惧して、彼らを上層まで送っていくことにした。
「本当にご迷惑おかけします…」
「でも神木さんに会えて本当に嬉しいっす…」
「マジで神木さんにリアルで会えるなんて信じらないっす。ちょっと死にかけてよかったかも…」
「おいおい、そんなこと言っちゃダメだろ…」
ちゃんと反省しているのだろうか。
ちょっと心配になってきた。
「か、神木さん…今配信中っすか…?」
俺が三人がまた喉元過ぎれば熱さ忘れるかのように、後日中層に潜ったりしないだろうかと少し心配していると、一人が恐る恐る聞いてきた。
「ん?そうだよ。配信中だよ」
俺はスマホの画面を見せる。
「ど、同接70,000人!!」
「す、すげぇ…!!」
「お、俺たちマジで神木拓也の配信に映っちゃったんだ…!」
配信画面を見て、三人が興奮した声を上げる。
“やあ^^“
“みてるー?^^”
“見えるかー?^^”
“よお、高校生ども”
“おいお前らマジでもう中層に潜るなよ?”
“命を救ってもらった神木に感謝して一生配信見続けろなー?^^”
“お前らマジで神木に感謝しろよ”
“よかったね。三人とも助かって”
“運のいい奴らめ”
いつもより若干同接が多いな。
七万人を超えるのは大体下層に入ってからなんだが……どうやらこの三人を助けたことで同接が増えているようだった。
「か、神木さんの配信に映れるなんて…」
「も、もう思い残すことねっす…」
「明日学校でマジで自慢しまくろ…」
「いや、君たち反省してる?」
さっきまで死にかけいたとは思えないような元気さだな。
これが思春期、これが高校生。
いや、俺も高校生なんだけどさ。
「は、反省してるっすよ!」
「反省はしてるっす!もう中層には潜らないっす!!」
「反省はマジでしてます!!ところで…今日の配信のアーカイブってもちろん残りますよね…?俺たちが出てるところ後で見返したいんですけど…」
「いややっぱり君ら反省してないだろ」
俺が一年先輩としてちょっと三人に命の大切さとか、自分の実力を知ることの重要性とか、色々説教してやろうかと思っていた最中…
『ブモォオオオ…』
「「「ひっ!?」」」
「ん?」
ダンジョンの通路の先から低い唸り声と共にモンスターが現れた。
「オークか」
「かかか、神木さんっ」
「どどど、どうしましょう!?」
「か、神木さん、助けてっ…」
通路のむこうから出てきたのはオークだった。
ここへ来るまでにはモンスターに遭遇しなかったから、ダンジョンスネークと戦っている間に近くでポップしたのか。
よかった念のため三人を送り届けて。
俺がもしあそこで別れていたら、こいつらこのオークに殺されていたんじゃないだろうか。
「下がってて」
「「「はいぃい!!」」」
ダンジョンスネークに殺されかけて中層のモンスターがすっかり怖くなったのか、縮こまって俺の背後に隠れる三人。
俺はそんな三人を背に庇いながら、オークと対峙する。
「こいよ」
『ブモォオオオオオ…!!!』
「「「ひぃいいいいい!?」」」
俺の挑発に乗ったかのようなオークの突進。
「見てて」
「「「…?」」」
「モンスターってのはこうやって倒すんだ」
三人の俺の視聴者、というかファン。
そんな彼らの前で配信者としてちょっとでもかっこいいところを見せたいと思ってしまった俺は、ちょっとばかり力を入れた攻撃をオークに対して行った。
『ブ…モ…?』
こちらに向かって突進しつつあったオークが、動きを止める。
「え?」
「一体何が?」
「神木さん…?」
背後で三人が疑問の声を上げる中、俺はいまだに自分の身に何が起こったのか理解していないらしいオークにゆっくりとちかづいていく。
「気づかないか?」
『ブ…モォ…?』
「お前、もうすでに死んでるぞ」
俺がオークの体に少し指先で触れた。
その次の瞬間…
バラバラバラバラ…
「「「ええええええええ!?!?」」」
無数に切り刻まれ、サイコロステーキのように細切れになったオークの死体がバラバラと崩れていった。
「どうかな?」
ちょっと格好つけすぎたかな…?いや、これぐらいはファンサービスの範疇だろ。
そう思いながら俺は背後を振り向く。
「すげぇ…!」
「ぱねぇ…!」
「やべぇ…!」
三人がキラキラした目で俺を見ながらいった。
「「「生の神木語録だぁ…!!」」」
「いやそっちかよ!!」
オークを倒したことに驚けよ!
あとさっきのは語録じゃねぇよ!!
そう突っ込もうとしたが時すでに遅し。
その日
『モンスターってのはこうやって倒すんだ』
と
『お前、もうすでに死んでるぞ』
が
新たな神木拓也語録として追加されてしまったのだった。
……マジで何やってんだ俺。
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