第45話 決着


 私とサージュオークが死闘を繰り広げていた場所から1㎞離れた場所で、望遠鏡型スコープで狙いを定めていた者がいた。その名は元王国騎士団のコメット(軍団長)であり、現パステックのギルドマスターであるヴァロテンヌ・バイカウント(子爵)・アリストロメリアである。



 「あの子は・・・たしか行方不明者のソリテ。まさか神様からギフトを授かっていたのね」



 指名手配犯である私の事はヴァロテンヌは知っていて当然である。しかし、ヴァロテンヌは私が指名手配される以前から私の事を知っていた。



 「あの子は気配を消すことに優れた子だったわね。あの時も気配を消して難をの逃れていたわ。でも、ギフトを授かって気配どころか姿を消すことが出来るようになっていたのね」



 町のほとんどの人は、私がどこかへ隠れて身を潜めているだけだと思ったいたが、ヴァロテンヌだけは、気配を消して人目につかない所に隠れる技術が高い人物だと評価していた。



 「相手はサージュオーク、サミュエルとレアによってダメージと疲労が蓄積しているようね。この状況ならあの子はサージュオークを撃ち取ることができるかもしれない・・・と考えたようね。でも、ギフトを使いこなす実力が全く伴っていないわね」



 ヴァロテンヌはスコープを通して私とサージュオークの戦闘を見て、瞬時に私の実力の無さを理解した。



 「でも、あなたのがんばりは決して無駄じゃないわ。あなたが命をかけて必死に稼いだ時間はサミュエルの命を救い、あなたの必死の抵抗は、あなた自身も救うのよ。抗うことは決して無駄じゃない。いえ、私が決して無駄にはしないわ」



 ギルドマスターであるヴァロテンヌの極秘の調査により、南の緑地エリアに災害魔獣を誘い出す作戦を突き止める事ができた。しかし、ギルドで緊急依頼を出す時間がないと判断したヴァロテンヌは、ギルドメンバーのみで南の緑地エリアに赴くことにした。


 ヴァロテンヌ達が魔獣の世界に到着すると、真っ先に逃げ出したコムとレオナードに出会い、事態は深刻な状態になっていることを知る。急いで南の緑地エリアに向かったヴァロテンヌ達は、次にオレリアン達に遭遇して、事態は最悪の状況になった事を知る。


 サミュエルを救う為、急いで先に進まないといけないが、これより先は、モール(死神)となったオーク(サージュオーク)がいるため慎重を期することになる。ヴァロテンヌは望遠鏡型スコープで、これより先の状況を確認すると、サージュオークを発見することができた。



 初めは、サージュオークが、無作為に木を投げる滑稽な姿を見て、状況を把握することは出来なかったが、次第に私の存在に気付いて状況を完全に理解した。ヴァロテンヌは詳しい事は話さずに、クロエ達に迂回してサミュエルを救出するように命令を出し、ヴァロテンヌはスコープを覗き込み、サージュオークがスキを見せる事を待つことにした。


 そして、遂にサージュオークがスキを見せる時が訪れた。



 サージュオークとの距離は約800㎞、ヴァロテンヌはニーリングポジションでエリュプシオン(ブル)を構える。



 ※ブル(スナイパーライフル) 一発の威力は絶大であり、1㎞離れていてもたいていの魔獣の魔核を一発で破壊する。しかし、魔力の消費量も高く、2発目を撃つのに   

5分間のインターバルが必要。


 ※ブルの種類 

 エリュプシオン 大きさは1m、ニーリングポジション(膝射)で射撃する中量型。右利きであれば、左膝を立てて左肘を乗せて魔銃を安定させて射撃する。より正確度を増すためにはプローンポジション(伏射)で撃つ者も多い。地面に寝転がって撃つ姿勢であり、安定性が高く魔獣からも見つかりにくい。

 タンペット 大きさ1,5mでトライポッド(三脚)を使用し固定しながら射撃する。移動に不便なため冒険者が使用することはないが、一発の威力は強大であり、魔獣の頑丈な皮膚でさえ貫通する最強の魔銃と言える。


 

 「バン」



 ヴァロテンヌが発射した魔弾は寸分の狂いもなくサージュオークの魔核に命中し、殺される寸前の私を救ってくれた。ヴァロテンヌはサージュオークが死亡した事を確信すると、急いで私の元へ駆け寄る。


 一方、ヴァロテンヌの指示により迂回してサミュエルを救いに行ったクロエは、凄惨な現場を見て絶望に飲み込まれた。頭を食いちぎられて、足を引きちぎられたパンジャマンの死体、破壊された1台の馬車、その傍らに体中を食いちぎられている2体の馬の死がい。そして、左足を失って血の海で横たわっているサミュエル。


 クロエはサミュエルの死を確信した。



 「サミュエル君・・・ごめんなさい。今回の事件はギルドの落ち度よ」



 クロエの瞳からは涙が零れ落ちる。



 「クロエ、サミュエル君は死んでいないわよ。まだ息をしているわ」



 多量の出血をしたサミュエルは意識を失っている。しかし、無意識で魔力を使って止血をし、生きる希望を捨ててはいなかった。



 「すぐにユルティムを使うのよ。そうすれば、サミュエル君は助かるはずよ」


 「わかったわ」



クロエはサミュエルに駆け寄りすぐにユルティムを使用した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る