第44話 油断の大敵


 『私がやらなければいけない。いえ、私しか出来ないのよ』



 私は覚悟を決めてサージュオークを倒すことにした。狙うのは首の繋目、威力が弱いエタンセルでも何発か打ち込めば、動きを封じることができるはずだ。そして、動きを封じることが出来れば、魔核に魔弾を撃ち込むことも可能になる。いきなり正面の魔核を攻撃するのは危険だから、後ろから攻める事にした。


 私は姿を消してサージュオークに気付かれる事無く距離を縮める。サージュオークとの距離が5mとなった時、私は両手でしっかりとグリップを握り、エイムを首の繋目に合わせて間髪入れずに射撃した。



 『バン』



 一発目を発射すると、その銃撃音を待っていたかのように、サージュオークは魔核を両手でガートしながら振り返る。サージュオークの動きは早くない。しかし、いざという時の瞬発力は尋常でない。



 『バン・バン・バン・バン』



 私はサージュオークの行動に咄嗟に判断することが出来ずに、棒立ちのまま残りの4発を放った。当然ながら、サージュオークのガードの前に私の魔弾は全て弾かれる。サージュオークは、魔弾が切れたとすぐに感じ取り、両手を振るって竜巻を発生させた。



 『私だってあなたの行動はわかっているわ』



 サージュオークには私の姿は見えてはいない。しかし、魔弾が発射された場所に誰かいると考え、魔弾が発射された場所に向かって竜巻を発生させた。しかし、私も射撃後、サージュオークがなにか仕掛けてくることは予測することはできた。なので、射撃後すぐに右方向にジャンプしてでんぐり返しをして逃げたのである。


 竜巻が私が居た地点を襲うが、草が舞い散るだけに終わってしまう。



 『魔弾は全く当たらなかったけど、私の有利は変わらないわ。それに、サージュオークは、私を誘う為にわざと逃げたフリをしたようね。ビビっているのは私だけじゃない。サージュオークも姿が見えない私にビビっているのよ』



 私の考えは的中していた。サージュオークは姿が見えない敵に恐れを抱いていた。いつどこからか襲ってくるかもしれない敵に、細心の注意をはらい、どのように反撃すべきか考えている。オークは知能は低い。しかし、人間を喰らうことにより賢くなったサージュオークは、短絡的な行動を避けてじっくりと熟考して、最善の手を模索している。


 もし、サージュオークが私のことを侮っていたら勝機はあったはず。しかし、私の事を強者として認めたサージュオークには油断はない。それに対して、私はサージュオークの慎重な行動をビビっているという愚かな判断をしてしまった。相手を強者と認めた者と相手をビビっているという下卑した者、どちらに勝利の女神が微笑むかは考えるまでもない。



 『あの竜巻も範囲はそんなに広くないわ。ジャンプでんぐり返しで避けれる事も確認済みよ。次こそは当てるぞ』



 私は、両手で魔核をガードしているサージュオークの背後に回り込み、再び射撃する。



 『バン』



 先ほどと同じように一発目の銃声がなる。



 『振り向いてガードをするのね』



 私はサージュオークの行動を予測して、二発目はすぐには発射せずにサージュオークの動きを見る事にした。しかし、サージュオークは振り返らない。一発目の魔弾は見事にサージュオークの首の繋目に的中し。サージュオークは膝をついた。



 『もしかして、疲れているのかしら。これはチャンスだわ』



 魔獣だからといって体力が無限にあるわけではない。サミュエル達との戦いでサージュオークは疲労困憊で、動きが鈍くなったのだと私は判断した。



 『これはチャンスよ!』



 私はサージュオークとの距離を縮める。その距離は1m。



 『キャー―――』



 私が近寄った瞬間、サージュオークは瞬時に振り返り、私が魔弾を発射するよりも先に竜巻を発生させた。私は竜巻に飲み込まれて5mほど打ち上げられた後、地面に落下した。



 「ドスン」



 激しく地面に叩きつけられた私は意識を失った。地面には小さなくぼみができ、私の姿は見えないが、そのくぼみに私がいることは、誰の目から見ても明らかである。



 「ウォォォォーーーーー」



 サージュオークは勝利を確信して、両手を上げて雄たけびを上げる。サージュオークは見えない敵を相手に、あえて魔弾に当たることによって相手の油断を誘うことにした。私の魔弾に当たって膝を落としてのは演技ではなかった。私の推測通りサージュオークは、サミュエル達との戦いで体力も魔力も消耗していた。竜巻を発生させることが出来るのは最後であった。なので、サージュオークは捨て身の作戦にでたのである。


 わざと魔弾に当たって、私が距離を縮めてくることを予測し、私の位置を特定したのである。私はまんまとサージュオークの罠にハマってしまったのである。


 サージュオークは、大きな手を空高く突き上げて、拳をハンマーのように見立てて力強く振り落とす。



 「バン」


 「ドスン」



 一発の銃声が鳴りサージュオークの魔核を破壊した。



 

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