第28話 遺恨


 「よし、これで解体は終了だ」



 オレリアンはじっくりと時間をかけて3体のラパンを解体した。内蔵も全て取り出して、今すぐにでも解体職人になれるほどの腕前であった。



 「ラパンの肉以外は私がもらっておくね」


 「ああ」



 レアは売り物にならない部位などをエスパスにしまった。



 「ギルドに提出する肉はサミュエルが持っておいてね」


 「わかったよ」


 「レア、ジャンク品をどうするの」



 ※冒険者は買取されない部位をジャンク品と呼んでいる。



 ポールは不思議そうに問いかける。



 「新しい魔道具の研究よ!私は魔獣の素材には無限の可能性があると思っているの。今はジャンク品として捨てられる部位なども、研究が進めば値打ちモノに変わる可能性があるの」

 

 魔道具技師はあらゆる素材を掛け合わせて、未開発の魔道具を作る事を探求している。もちろん、既存のレシピで魔道具を作るのが本業であるが、レシピを管理している国に利用料を支払わないといけないので儲けは少ない。しかし、自分で開発した魔道具のレシピの権利を国に提供することで、莫大な富を得ることが出来る。(開発したレシピは個人が独占することはできないので、国に提供して対価を得る)そして、自分で開発したレシピには利用料は必要ない。魔道具技師を目指すものは、新たなレシピを作り出すことに人生を捧げている。


 レアの母親は、いくつかの画期的な魔道具を開発して、国にレシピを無償で提供した。レアの母親が開発した魔道具は、すべて治癒魔道具である。レアの母親は、戦争や魔獣などに襲われて負傷した者の治癒に役立たせてもらいたい一心で研究に没頭して新たな治癒系魔道具の開発に成功し、安価で作れるように無償で国に提供したのだが、国はレアの母親が提供したレシピを一般には公開せずに、王国魔道具技師が独占したのである。そのため、レアの母親が開発した治癒系魔道具は、高貴な身分の者にしか使用されず、また破格の値段で取引されるようになった。さらに、王国魔道具技師以外の者がこの魔道具を作る事を禁じて、開発者であるレアの母親さえ作る事が出来なくなったのである。

 

 

 「研究熱心だね」


 「魔道具には未知の可能性があるからね」



 明るい笑顔でレアは答える。



 「よし、解体も終わったし町に帰ろう」


 「そうね」



 サミュエル達は馬車に乗り込みパステックに戻って行った。


 1時間後


 サミュエル達は町に到着するとすぐにギルドへと向かった。ギルドに入ると、数組の冒険者がギルド内にある酒場で酒を飲んでいた。



 「買取をお願いします」



 サミュエルはエスパスからラパンの肉を取り出した。



 「新人さんなのにきれいに解体をされているんですね」



 買取職員がにこやかな笑顔で対応する。



 「問題点はないでしょうか?」


 

 乱雑に解体されていれば買取価格は下がってしまう。



 「完璧ですよ。さすが期待の新人冒険者さんたちですね」



 学生時代から成績優秀の4人が冒険者になるとギルドでも噂にはなっていた。特にサミュエルとレアの優秀さは町でも有名である。



 「期待に応えられるようにがんばります」



 サミュエルは新人らしく元気に答える。



 「6体分のラパンのお肉ですね。では査定しますね」


 「お願いします」


 

 買取職員が6体分ラパンと発言した時、ギルド内が騒めいた。



 「あいつら今日が初の魔獣の世界だぜ。いきなり6体も退治するなんて新記録じゃないのか?」


 「いや、2年前の記録と同じだ。でも、パンジャマン達は夕方まで狩りを続けたし、解体もギルド任せだったから、サミュエル達の勝ちかもな」



 酒を飲んでいた冒険者達は、噂の新人の成果を知って驚きを隠せない。



 「ガチャーン」



 酒場の床にグラスを叩きつける音がした。



 「パンジャマンさん、何をしているのですか!」



 酒場の店員がグラスを叩きつけたパンジャマンに注意をする。



 ※パンジャマン 17歳 肩まで伸びた金色の髪、瞳の色は黒 190㎝とかなり背丈のある冷たい表情の男性。顔には大きな傷がある。



 「またアイツか!」



 パンジャマンは、学校の射撃大会で3年4年とブロンの部で2連覇を成し遂げ、射撃の才能を高く評価されていた。しかし、5年の時に圧倒的大差でサミュエルに敗れてから、だれもパンジャマンの射撃の腕を讃える者はいなくなり、代わりにサミュエルが注目を浴びる結果となる。



 「落ち着け。ここで問題をおこすわけにはいかない」



 仲間のエリオットがパンジャマンを止めに入る。



 ※エリオット 17歳 耳が隠れるほどの黒髪のセンター分け 一重の切れ長の茶色の瞳 



 エリオットはルージュの部で3年連続優勝したが、対戦相手が棄権したりなど不可解な事があったので、あまり評価はされていない。



 「わかっている。かならず決着を付けてやる」



 パンジャマンは怒りを抑えて席を立ちギルドから去って行った。 



 「何か騒ぎがあったみたいですね。査定が終わりましたので報奨金を支払います」


 「報奨金は全て飲み代の足しにしてください」


 「え!全てですか?」


 「はい」


 「しかし、挨拶金は報奨金の半額が通例となっていますが?」


 「構いません。今後お世話になる先輩方へのお気持ちですので」



 挨拶金とは、新人のノルマル冒険者が、初めて魔獣の世界へ行き報奨金を手にした時に、先輩冒険者(ディピタンは含まない)にお酒をおごるお金の事である。これは、今後、魔獣の世界で何かあった時に、お互いに助け合う事を意味する習わしである。挨拶金をケチると評判が悪くなり、何かあった時に助けてもらえない可能性がある。



 「わかりました。きちんと私どもから良いお酒を配らせていただきます」


 「お願いします」



 サミュエル達がギルドを去ると同時に、ギルド職員が酒場にいる冒険者に酒を提供する。いつもより高価なお酒をおごってもらった冒険者たちは、サミュエル達の心意気に大いに感謝するのであった。




 

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