第21話  いざ魔獣の世界へ


 日差しが差し込む隙間のないほどの木々に覆われた森の中を進むと、突然と眩い太陽の光が差し込んできた。



 「着いたよ」



 森の中腹部に300㎡ほどの草原地帯があり、その真ん中に直径40mの太さの大木が聳え立っていた。その大木の高さは100m以上あり天にまでとどきそうである。しかし、その大木には一枚の葉もなく太い幹と枝だけであった。これが魔獣の世界への扉である常夜の大樹である


 常夜の大樹の周りは3mほどの塀で囲まれており、魔獣が侵入しないように措置がとられている。そして、塀から少し離れた場所には大きなログハウスが二つ並んでいる。1つはサブギルドで、パステックのギルドから派遣された職員が絶えず6名配属されており24時間体制で管理業務などをおこなっている。もう1つは冒険者用の解体場兼休憩場である。



 「先客がいるみたいね」



 サブギルドの繋ぎ場には3台の馬車が止まっていた。1台は5人乗りで荷台も広く立派な馬車なのでベテラン冒険者の馬車であろう。残りの2台は冒険者ギルドからレンタルされた年季の入った馬車であった。


 ※魔獣の世界へは馬、馬車、徒歩の3パターンで侵入をする。馬車や馬を魔獣に破壊されないように徒歩で侵入することもあれば、移動距離が長い時は、馬車や馬で侵入し、1人に馬車や馬を守らせて1名減で戦う方法、もしくは馬車の運転をディピタンに任せる方法などある。


 ※魔獣の世界は王国騎士団やギルドの依頼により簡易の馬車道や繋ぎ場が整備されていて、その馬車道を頼りに魔獣の世界を探索する。


 

 「この大木が魔獣の世界への入り口なのか!」



 ずっと俯いていたオレリアンがぼそりと呟く。



 『すごーく大きな木だわ。でも、葉っぱがないのは不気味よねぇ~』



 初めて見る常夜の大樹は綺麗とは真逆の存在である。



 「オレリアンは初めて見たのね」


 「ああ」


 「この大木が魔獣の世界と人間の世界を行き来できる常夜の大樹なのよ」


 「不気味な大木だ」


 「そうね。葉が生える事はないらしわ。この不気味な大木は、触れるモノ全てを魔獣の世界へ吸い込んで行くのよ。だから、馬車のままでも魔獣の世界へ行けるわ」


 「そのようだな」


 「レア、手続きに行くよ」


 「わかったわ」


 『私は待っているね』


 

 サミュエル達は馬車から降りてサブギルドへ向かうが、私は1人繋ぎ場に残って常夜の大樹を見上げていた。


 

『この大木に触れると魔獣の世界に行けるのね。とても緊張するわ』


 

 私は天にまで届きそうな大木を見上げながら、体の震えを抑えるように深呼吸をした。一方サミュエル達はサブギルドに入って、冒険者証を掲示し魔獣の世界に入る手続きを済ませた。



 「みんな、馬車は置いて行こう。獲物は俺とレアのエスパスに収納出来るし、岩場エリアまではそんなに遠くないから、馬を休ませよう」


 「賛成よ」


 『はぁ~い』



 みんなサミュエルの案に賛成した。もちろん私も賛成する。



 「俺たちの魔獣の世界のデビュー戦だ!気合を入れていこう」


 「オーーーー」


 『おぉ~』

 


 サミュエル達は円陣を組んで掛け声をあげた。私もみんなの後ろに立って掛け声をあげる。もちろん心の声で。


 サミュエル達は、常夜の大樹を囲う塀に設置されている門に近づき、門兵に再度冒険者証を見せる。門兵が冒険者証をスキャンすると、OKの文字がパネルに表示され、門に入る事を許される。全員がこの手続きを済ませると、門が開き中へ入ることが出来る。


 私は門が開くとすぐに駆け出して、門を潜り抜ける。見事!不法侵入に成功した。



 『やったわ!上手く侵入できたわよ』



 私の後からサミュエル達も門を通過して入ってきた。



 「俺から入るよ」



 サミュエルが大木に触れると、吸い込まれるように姿を消した。



 「次は俺が行く」



 サミュエルに続いてオレリアンが大木に触れて姿を消した。



 「次は私ね」



 レアの姿が消え、最後にポールの姿が消えた。



 『私も行くよーーー』



 常夜の大樹に触れると、大きな力が体を引っ張るように感じられ、大木の中に引き込まれていく。大木の中に引き込まれた瞬間、視界は一旦真っ暗になったが、すぐに、まばゆい光が差し込み、見知らぬ平原に辿り着いていた。



 『ここが魔獣の世界なのね』



 転移した先は、先ほどとよく似た風景の場所である。草原地帯の真ん中に常夜の大樹が聳え立ち、私は常夜の大樹のすぐ側に居た。先ほどと大きく違う点は、魔獣の世界の常夜の大樹は、緑豊かな葉が満開だったことである。



 「南へ進むぞ」



 岩場エリアに行くには、スタート地点である常夜の大樹から南へ2㎞進めばよい。



 『待ってぇ~。私を置いてかないでぇ~』



 サミュエル達は準備運動を兼ねて2㎞先の岩場エリアに向かって走り出した。冒険者で大事な事は射撃の腕だけではない。筋力、俊敏性、持久力などの身体能力の高さも重要である。10㎞くらいなら息を切らさずに走っていけるくらいの体力は必要不可欠である。


 

 『私だって毎日マラソンをして鍛えているから離されないよぉ』



 ジョギングは持久力を鍛えるには一番効果的だ。持久力には2種類あり全身持久力と筋持久力である。全身持久力とは体のスタミナのことであり、長時間にわたり全身を動かすことで鍛えることができる。ジョギングで会得できるのが全身持久力であり疲れない体を手にすることで、長時間安定した動きを保つことが出来るようになる。


 筋持久力とは筋肉を長時間使い続けられる能力である。全身持久力と違って負荷がかかっている部位の筋力しか鍛える事ができない。メニューとしては腕立て伏せやスクワット、腹筋なとが道具も必要なく場所も択ばないので、誰にでも出来るトレーニングである。筋持久力を鍛えると骨にまで刺激が入るので、筋肉だけでなく関節や腱などが強化され強い体を作れ、ケガもしにくくなる。


 射撃の練習、マラソン、腕立て伏せ、スクワット、腹筋は、冒険者を目指すものなら幼い頃から持続してトレーニングしているのが常識である。そして、孤児院では誰もが自発的にしている。


 

 「着いたぞ」


 「そうね」


 「みんな息を切らしていないか?」


 「大丈夫だよ。これくらいの距離で息を切らすようなら冒険者として失格だよね」


 「ああ」


 『もちろんよ』


 

 4人と私は呼吸を乱すことなく岩場エリアに辿り着いた。



 岩場エリアは、大小さまざまな岩が無数に転がっているので、とても移動しにくい。そして、お岩場エリアを越えると川があり、ラパンは草原エリアの草を食べた後、川の水を飲むために岩場エリアを通る。今回は岩場エリアに訪れたラパンを退治するのが目的である。





 

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