第14話 オレリアンに気付かせたい

 レアが去った後、残された私は再び射撃の練習をする気力を失っていた。それは、オレリアンも同じだった。オレリアンは射撃練習スペースから離れて公園のベンチに座る。私も同じように向かい側のベンチに座る。



 「くそ!くそ!くそ」


 『なんで?なんで?なんで?』



 オレリアンは悪態をつくが、レアに言われたことがショックで目が赤く充血していた。私はレアがなぜあのような事を言ったのか理解出来ずに戸惑っていた。



 「俺だって・・・俺だって・・・一生懸命頑張っているんだ。なぜ、みんな俺ばかりを責めるのだ」


 『オレリアン君は態度も口も悪いけど、魔銃の腕を磨く為に頑張っているのに・・・』



 オレリアンは下を向いて顔を隠す。私も同じように下を向く。



 『あの優しいレアさんが、突き放すような言葉を口にするなんて信じられない?オレリアン君はレアさんを怒らせるような事したのかな?もしかして、ポール君が止まって射撃したことをバカにしたこと?いや、ちがうわ。それならあなたの目は節穴なんて言い方をしないはず。レアさんは怒ったのではなく、何かをオレリアン君に伝えたかったのかもしれない』



 私は昇格試験の時の事を思い出してみる。レアのソテーステップ(ジャンプ撃ち)は初級冒険者とは思えない程精度が高かった。後ろから見ていると魔弾がクレーに直撃した瞬間が綺麗に見えて、あまりにも美しい姿だったので見惚れてしまった。


 ポール君は足を肩幅に開き、膝を少し曲げ、体を40度回転させて射撃位置に立った。アイアンサイトでエイムを定めながら右手でグリップを握り指をトリガーにかけ、左手でフォアグリップ(先台)を持ち両手で魔銃を安定させた姿勢で射撃をしていた。レアと同様に後ろから見ていると、魔弾がクレーに直撃した瞬間が綺麗に見てとれた。


 オレリアン君のクラブステップは疾風のように爽快感があった。あの素早い左右の動きがあれば、実戦でも魔獣を翻弄して活躍すること間違いないと私は思った。射撃の腕も高く片手でブレることなく全弾クレーを破壊していた。後ろから見ていると、他の二人のようにクレーが破壊される瞬間は見えなかったが、見えなくてもクレーが破壊されたのは音ですぐにわかった。


 この3名の射撃方法は違ったが全弾クレーを破壊して満点合格であった。射撃方法が違うのでオレリアン君だけおかしな部分を探す方が見当違いのような気がした。



 『う~ん・・・う~ん。レアさんはオレリアン君に何を伝えたかったのかな?』



 私は何度も何度も3人の射撃方法を思い返して考える。



 『射撃術が違うから比べる必要あるのかな???射撃術以外に何かヒントがあるのかな・・・』



 私は考え込む。



 『違いかぁ・・・レアさんとポール君は後ろから見ててクレーが破裂する瞬間が見えて綺麗だった。オレリアン君の時は背中が邪魔でクレーが破裂する瞬間が見えなかったなぁ・・・・あ!!!!そういうことか』



 私はレアが伝えたいことがわかった。たしかにレアの言う通りだと納得した。私とオレリアンは大事な事を見落としていた。



 『オレリアン君にこの事を教えてあげないと』



 私はオレリアンの元へ駆けよりレアの伝えたかったことを教えてあげたかったが、コミュ障かつ極度の人見知りの私にそんなことが出来るわけがない。そんなことが出来るようなら学校でも孤児院でもみんなと仲良く生活ができたはず。



 『どうやってオレリアン君に伝えればいいの』



 私が悩んでいるとオレリアンは射撃練習スペースに戻って行く。


 「くよくよしてても何も変わりはしない。俺はもっと努力して力でレアやサミュエルを納得させる」



 オレリアンは行き場のない怒りと苦悩をぶつけるように射撃の練習を再開する。



 「クラブステップは問題ないはずだ。やはりクラブスコッターをマスターするぞ」


 『オレリアンくん、違うのよ。レアさんが伝えたかった事を考えて!』



 私は心の中で叫ぶがオレリアンに届くことはない。



 『どうしたらいいの。どうやったらオレリアン君は気づいてくれるの』



 オレリアンは左右に移動しながら射撃する時にしゃがみ込む。しかし、リアサイトとフロントサイトと的の頭部は一直線にならずに安定した射線は確保できない。


 

 「くそ!エイム(標準)がブレブレだ。しゃがんでからエイムを合わせるからいけないのか?相手の動きを想定してエイムを定めながらしゃがむのか」



 オレリアンは何度もクラブスコッターの射撃術を練習する。



 『えい!』



 私はオレリアンの背中に小さな石を投げた。



 「???」



 オレリアンは振り返る。



 「誰だ!俺に石を投げたのは」



 オレリアンは怒鳴りつけるが、振り向いても誰もいない。もちろん私が居てるのだがオレリアンには認識出来ない。



 「気のせいか・・・」



 オレリアンは練習を再開する。


 

 『えい』



 私は再び石を投げつける。



 「誰だ!」



 オレリアンは怒鳴りつけるが背後には誰もいない。私はオレリアンが練習を再開するたびに背中に石を投げ続けた。



 「くそ!くそ!後ろが気になって射撃に集中できないぞ」



オレリアンは苛立ちがつのるばかりである。



 『オレリアン君!気付いてよ』



 オレリアンは背後が気になって射撃術の精度がさらに悪くなっていく。



 「後ろばかり気にとられて練習にならないぜ・・・あ!」



 オレリアンは何かに気付いたようだ。


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