第13話 レアが伝えたかった事

 私は4人が冒険者ギルドを出て行った後、学校の近くにある大きな公園に来ていた。この公園には大きな射撃練習場があり、空砲だが射撃の練習ができる。射撃練習場にはリュージュ用に10㎡のスペースが6マスあり、スペースの中心には人型の的が置いてある。そして、ブロン用に50m先に人型の的が置かれたスペースが2つある。冒険者を目指す学生たちが放課後に、この射撃練習場に来て、魔力を補填せずに魔銃を構えてイメージトレーニングをする。


 以前なら人目に付くのが嫌なので、公園での練習はしなかったのだが、今は【無】のスキルがあるので、人に見られる心配がないので立ち寄った。


 私が公園に着くとルージュ用の射撃スペース6マスのうち4マスは埋まっていた。



 『よかったわ。2マス空いているから練習ができるわね』



 私は開いているスペースに入ってエスパス(空間)からエタンセルを取り出した。公園の射撃練習場では、人型の的のボタンを押すと的が左右に動き出す。私はボタンを押したいが、誰もいない射撃スペースで人型の的が動き出すと不自然に思われるので、ボタンを押さずに静止した人型の的に向けてエタンセルを構える。



 『クラブスコッターを練習しようかしら』



 私は左右に移動しながらしゃがみ込み、瞬時にアイアンサイトで的の頭部にエイムを合わせてトリガーを引く。しゃがんだ瞬間にリアサイトとフロントサイトそして的の頭部の射線(照準線)が一直線に合わせる技術が難しい。しゃがんだ後に射線を合わすようでは遅すぎる。しゃがむと同時に射線が一直線になれば、クラブスコッターをマスターしたといえるだろう。



 「くそ!くそ!」



 私が射撃の練習をしていると、となりのスペースから怒鳴り声が聞こえて来た。



 「射線が合わねぇ!なぜ俺には出来ない」



 さっきまで空いていたスペースにオレリアンが居た。オレリアンはクラブステップでクレーを全弾当てるほどの射撃の腕はある。しかし、クラブスコッターでクレーを射撃しなかったのはクラブスコッターをマスターしていないからである。クラブスコッターは中級レベルの技術なので、卒業したての新人冒険者が習得することは難しい。


 オレリアンは、何度も何度もクラブスコッターを練習するが、納得できる動きが出来なくて大声を上げて悔しがっている。



 「くそ!くそ!くそ!」


 「今日もここで練習をしているのね」


 

 奇声をあげているオレリアンにレアが優しく声をかける。



 「うるせぇ!」



 オレリアンは、うっとしいそうに声を張り上げてクラブスコッターの練習を再開する。



 「隣を使わせてもらうわね」



 レアはオレリアンの横の空いている練習スペースに入り的のボタンを押す。



 『えーーーー私が使っていたのに!』



 レアが入って来たスペースは私が使っていた場所である。私の姿はレアに見えていない。



 『どうぞレアさん』



 私は姿を見せて使用していることをアピールする事が出来ないので、渋々譲る事にした。そして、クラブスコッターのコツをつかむために2人の練習を見学することにした。


 レアは的のボタンを押してイメージ射撃を開始した。リズミカルに左右に移動しながらしゃがみ込み、フラムのトリガーを引く、魔弾は発射されないが、フラムのフロントサイトが的の頭部に一直線になっていることは、誰の目から見ても明白だ。レアは5分程クラブスコッター射撃法を練習するが、全弾的の頭部に当たったと私は感じ取ることが出来た。



 『すごーい』



 私はレアの完璧なクラブスコッターを見て心から感動した。



 「くそ!くそ!」



 オレリアンもクラブスコッター射撃法を練習していたが、レアの芸術的なクラブスコッターに、いつしか心を奪われて見惚れていた。そして、我に返って悔しさが込み上げて来て悪態をつく。



 「オレリアン、クラブスコッターを練習するよりもクラブステップの制度を上げた方がいいわ」


 『え!オレリアン君のクラブステップはとても上手よ』



 私はノルマル昇格試験で見たオレリアンのクラブステップは完成度は高いと思っていた。



 「テットショットの制度を上げろって事か!」



 ※ テットショットとは魔獣の額にある魔核を当てること。


 

 オレリアンはきつい口調で答えた。



 『そっかぁ~レアさんに比べたら確かにクレーの芯を捕えてなかったわね。でも、上出来だと思うんだけどなぁ~』



 私は二人の会話に心の声で参加する。



 「違うわよ。テッショ(テットショットの略)よりも重要な事があるでしょ。静止して受ける事が出来る試験を、あえてクラブステップで挑んだのは実戦を重視したってことよね」


 「もちろんだ。止まって撃つなんて、冒険者としてありえない」


 「そうね。その点は理解できるわ」


 「だから、ポールが止まって試験を受けた事には腹がたった」


 「オレリアン・・・あなたの目は節穴ね」


 『え!どういうことなの?』


 「どういうことだ」



 オレリアンは顔を真っ赤にしてレアに詰め寄った。


  

 「そのことに気付かないうちは、魔獣の世界に入る資格はないのかもね」



 レアは突き放すように言い放ちその場から立ち去ってしまった。



 『え!え!』



 私は二人のやり取りを見てオロオロしてしまい、オレリアンはやり場ない怒りを抑えるために拳で地面を殴りつけた。



 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る