第5話 初めの一歩


  『違うわ。いきなり魔獣の世界の探索なんて、私の考え方がまちがっていたわ。そうよ、私は学校を卒業したばかり、王国騎士団に入隊していても、先輩従騎士の下で訓練をするはずだったはず。だから、冒険者になったとしても、デピュタンとして雑用業務をしなければいけないのよ』



 私は神様からギフトを授かって有頂天になっていたのかもしれない。物事には順序があり段階を経て次のステップに上がる必要がある。私は冒険者として飛び級して魔獣の世界を探索しようとしていたことを恥じた。生きるために食料の確保は必要不可欠であるが、ディピタンの依頼でも何か食べるものを手に入れるチャンスがあるはずだ。



 『デピュタンの依頼をしてみよう』



 私は再び掲示板を確認してデピュタン向けの依頼を確認した。



 『冒険者ギルドでの解体の手伝い・・・これは冒険者として必要な技術だわ。それに、食べ物にもありつけるチャンスかもしれない』



 冒険者ギルドでは魔獣を買取してくれるが、解体費用は買取価格から引かれてしまい、しかも解体費用は高額である。なので、解体は冒険者自ら解体をした方がお得なのである。解体はただ魔獣を斬ればいいという簡単なものではない。


 たとえば腕を斬る、頭を斬るなどは誰でも簡単に出来そうに思えるが、コツがいるのである。しかも、魔獣の毛皮を綺麗に剥ぎ取る。必要な内臓などを損傷なく切り取るなどは、知識と経験が必要である。なので、デピュタンの間に解体技術を身につけることは無駄でない。


 しかし、人間には向き不向き、好き嫌いがあり、ノルマルに昇給した冒険者でも自分で解体せずにそのままの状態でギルドに持ち込む者や、解体は得意だが戦闘は苦手な者を仲間にしたり、また、ギルドで解体専門の冒険者を臨時募集をしたりする。



 『解体作業ならギルド内でしているはずね』



 私はギルド内にある解体場へ向かうことにした。




「おい!何度言ったらわかるのだ。サングリエの背骨の挟んだ左右の肉が一番高価なんだ。そんな雑な斬り方をすれば価値が下がってしまうぞ。価値が下がった分はギルドの損失になるのだ」



 解体職員からデピュタンの男性が注意を受けていた。



 ※ サングリエとはイノシシに似た魔獣であるが、体長は150㎝程で、30㎝の鋭い二本に牙がある。皮膚は石のように頑丈で解体するのは大変であるが、食べれる部位が多く食用に討伐される。



 「申し訳ありません。皮膚が頑丈なので力が入り過ぎました」


 「皮膚の繋目をきちんと見分けるのだ!サングリエの皮膚は間接ごとに繋目がある。そこにナイフを差し込んで、上手く皮を剥ぎ取るのだ」


 「はい。でも、繋目を探しているのですがわかりません」


 

 私はサングリエに近づて皮膚の繋目を探してみた。男性の言うとおり見た目では皮膚の繋目なんてわからない。



 「さっきも言っただろ!目でなく手で感じるのだ」


 「でも、ゴツゴツしていて気持ち悪いです」


 「バカヤロー!そんなことで魔獣の解体なんて出来るわけないだろう」



 解体職人に男性が怒鳴られる。



 私は他の解体職員の作業を観察することにした。別の解体職員はサングリエの肌を触りつつ簡単に皮を剥いで肉を綺麗に切り分け部位ごとに並べている。解体場には3名の解体職人とお手伝いのデピュタンが5名いた。ディピタンの3名は解体する魔獣を運び、解体された肉や素材を倉庫に戻していた。残りの1名は、解体職人と同様になれた手つきで解体をしている。


 デピュタンはいきなり解体をさせてもらえるわけではない。はじめは魔獣を倉庫から解体場に運び、解体された魔獣を倉庫に戻す。そして、価値の低い部位や食べる事も出来ず、素材にならない部位を捨てる作業をしている。様々な作業を通じて魔獣の解体の仕方を学び、必要な部位の見極めを取得する。勉強熱心な者は捨てる部位でナイフの使い方の練習をしている。もちろん、自主的に頑張っている者には解体職人もアドバイスをして、知識の研鑽を高める手伝いを惜しまない。


 今回は初めてサングリエの解体をしたデピュタンは、いままで雑用業務を何も考えずに作業していたので、1からの指導になるので要領をつかむのに時間がかかっている。もう1人の解体の手伝いをしているデピュタンは、雑用を担当している時に自主的に練習をしていたので、実際に解体作業を任された時には、簡単に解体を出来るまでの技術を身に着けていた。



 『私も頑張らないと!』



 コミュ力0の私が人から教えを乞うのは無理である。なので、見て学ぶ事、調べて学ぶ事は得意である。学生の時、わからない事があっても先生に聞く勇気がないので、自分で図書館で調べて解決していたからである。


 私は解体作業が全て終わるまで、解体職人の横に座って解体の作業の仕方をずっと見ていた。



 「サングリエはカタロース、背ロース、内モモ肉、外モモ肉、スネの肉、ヒレ肉、バラ肉、ウデ肉とほとんどの肉は食べれることが出来る。これをきちんと綺麗に切り分ける事が出来るようになれば解体職人にもなることが出来るが、冒険者希望のお前たちはそこまで出来る必要はない。頭、胴体、前足、後ろ足をきちんと切り分けるくらいまでになっておくと解体費用もかなり抑えることができるはずだ」


 「はい」


 「そして、部位の繋目を感覚でわかるくらいになるまで、いろんな魔獣を解体しろ。繋目は魔獣の弱点だ」


 「はい」


 「よし、今日はこれで終わりだ!解体技術を身につけたいなら毎日通うのだぞ」


 「はい!」



 解体作業終了時には、解体職人からのアドバイスをしてもらえる。このアドバイスには魔獣の倒し方なども教えてくれるので非常に役に立つ。私はデピュタンの依頼は雑用だと思っていたが、ノルマルになるための必要不可欠な準備段階だとあらためて思い知らされた。

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