第4話 生きるために出来る事


 王国騎士団が去り、孤児院の先生達は孤児院に戻って行く。私は誰もいなくなった孤児院の正門で地べたに座り込んでいた。



 『私はこれからどうしたらいいの・・・王国騎士団に入団出来ないどころか指名手配までされてしまった。この町・・・いえこの国から逃げないといけないのかしら・・・』



 私は泣きながら今後の事を考えていた。



 『逃げ出したらダメよ。私のせいで孤児院や町のみんなに迷惑をかけてしまっている。逃げるわけにはいかない・・・そうだ!冒険者になって孤児院や町の為に働けばいいのよ』



 冒険者とは、国・町・村の依頼によって様々な仕事をこなす何でも屋。基本平民出身者の仕事である。死の危険が高く冒険者を目指す平民は少ないが、ブラーブ以上になると爵位が授与される。与えられる爵位は男性ならバロネット(準男爵)、女性ならバロネテス(女準男爵)で、地位的にはナイト(騎士)と同格である。しかし、ブラーブ以上になれる冒険者など稀であり、グランになることが出来ればよい方である。



 ※冒険者ランク エロ―【英雄】 シャンピオン【王者】 ブラーヴ【勇敢】 グラン【偉大】 ノルマル【普通】 デビュタン【初心者】と6段階ある。


 ※貴族の階級 上から、グランドデューク(大公) デューク(公爵) マーキス(侯爵) アール(伯爵) バイカウント(子爵) バロン(男爵) バロネス(女男爵) ナイト(騎士) ノウブル (貴族)になる。




 冒険者はデピュタンからスタートする。デピュタンの依頼は雑用ばかりで、隣町に行くための馬車の運転、引っ越しの手伝い、物の運搬、ノルマルの手伝いなど多岐にわたる。人と関わる事が出来ない私にはかなり難しい仕事である。そもそも指名手配されている私は冒険者登録をする事さえできない。



 『でも・・・冒険者登録が出来ない私がどうやって冒険者になれば良いの』



 私は頭をかかえて悩みこむ。



 『ダメだわ。良い案なんて浮かんでこない』



 いくら考えても答えは出ない。



 『それよりも私はこれからどうやって生活をしていけばいいの、住む場所は今まで通り孤児院の物置小屋で過ごせばいいけど・・・食事はどうすればいいの、国から補助金がなくなったから食堂のあまり物を食べる事ができなくなってしまうわ』



 私は孤児院や町のみんなを心配するよりも先に自分の事を心配すべきであった。



 『自給自足をするしかないわ』



 お金がないので店で食べ物を買うことも出来ない。なので、自分で魔獣の世界に入って食料を入手するしかないのである。


 魔獣の世界とは、その名の通り魔獣が住む世界である。この世界では魔獣の世界と人間の世界が別にあり、森の中にある魔獣の世界へ転移できる門を使って魔獣の世界へ行くことが出来る。それは、逆もまたしかりであり、魔獣の世界から人間の世界へ来ることも出来る。


 魔獣の世界では人間界では存在しない食物・果実・鉱石など存在しているので、それを採取しに冒険者は魔獣の世界に訪れる。また、魔獣自身にも価値があり、魔獣の肉、素材、装備品などは高値で買取される。しかし、これも逆もしかりであり、魔獣も人間界にある食物・果実・鉱石や人間自体を食料として人間界に訪れるのである。


 魔獣の世界へ繋がる門は、【常夜の大樹】と呼ばれる巨大な大樹から行き来できる。常夜の大樹は至る所に存在し、国によって管理されている。パステックの周辺には2つの常夜の大樹が存在し、二つともEランクである。



 ※常夜の大樹のランク A~Eまでの5段階でわかれている。この区分は王国騎士団が調査をしてランク分けをする。新しく発見された常世の大樹はSランクとされ、王国騎士団が調査に入る仕組みになっている。また、常夜の大樹には一定の年月が過ぎると消えてしまう場合もある。



 『でも、魔獣の世界に行くにはノルマル以上じゃないとダメだわ。私のような学校を卒業したばかりの若輩者が通用する場所じゃない。でも、魔獣の世界に行って食料を確保するしか方法はないの・・・』



 お金を持っていない私が自給自足するには、魔獣の世界で魔獣を退治したり果実や食物を取って来るしか方法はない。近隣の農作物を盗むわけにはいかないし、人間界の森に生存する動物や果実などは、領主に所有権があるので、許可証を発行してもらわないと勝手に採取すると罰せられる。私はこれ以上町に迷惑をかけたくないので、魔獣の世界に行って食料を調達するのが一番良いのである。


 私は生きるために覚悟を決めて魔獣の世界に行くことにした。しかし、初めて魔獣の世界に行くのに1人では不安である。なので、私は魔獣の世界へ向かう冒険者の後を付いて行くことにした。


 私は冒険者を探すため冒険者ギルドへ向かう。


 私は【無】のギフトを絶えず発動しているので、誰にも気づかれることなく、堂々と正面から冒険者ギルドに入ることが出来た。普段の私なら絶対に出来ないことである。冒険者ギルドに入ると中央に大きな掲示板が置いてあり、その掲示板に様々な依頼が張り出されている。


 今は昼飯時なので冒険者の数は少なかった。冒険者ギルドが一番込み合うのは朝である。基本冒険者ギルドへの依頼は次の日の朝に張り出されることが多いからである。でも、人が少ない事は私にとっては気持ちが良い事であった。人に姿が見られないからといっても、人込みに入って行くのは辛い。

 

 私は掲示板を確認するとデピュタン用の雑用業務の依頼が目に入った。



 『くだらない依頼だわ』



 私はディピタンの依頼をバカにするように鼻で笑った。







 

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