第4話

 残酷館は縦に長い立方体の建物だった。

 周囲には小さな窓しかなく、外観は巨大な箱といった印象だ。黒い外壁は地面に厚く降り積もった雪と絶妙なコントラストになっている。


 大きな鉄の門の前に誰かが立っているのが見えた。


「ようこそお越しくださいました」

 紺色の燕尾服を着た若い女性だった。肩まである黒髪をオールバックにしていて、ノンフレームの眼鏡をかけている。

 生気のない白い顔はまるで人形のようだった。


「城ヶ崎九郎様ですね?」


 城ヶ崎は返事する代わりに、女を一瞥した。


「あんたは?」


「申し遅れました、私はこの建物の管理を任せられている烏丸からすまという者です。さあ、外は寒いですからどうぞ、中へお入り下さい」

 わたしと城ヶ崎は強引に鉄の扉の奥に押し込められる。


「こちらへ」


 館の中に通され、わたしたちは烏丸の後に続いて歩いた。


     ※


 残酷館の玄関は三階までの吹き抜けになっていて、床は赤い絨毯で敷き詰められている。天井から吊るされた巨大なシャンデリアは、かなりの年代物のようだ。


 中央には一階から三階を繋ぐ大階段がそびえ立ち、その左右には鉄の処女アイアンメイデンとファラリスの雄牛おうしが飾られている。

 わたしたちは向かって左側の通路へと進んだ。


「手紙の差出人である烏丸詩帆しほってのはあんただな?」

 城ヶ崎が胸の内ポケットから赤い封筒を取り出しながら尋ねる。


「左様で御座います。ですが私は主人に雇われた使用人に過ぎません。貴方がたをここへお呼びした人物は別にいるとお考えください」


「つまり、あんたはこの館の主人ではない。なら、これから会うのが本当の依頼人というわけか?」


「その御質問には残念ながら現在のところお答え出来ません。ゲームはあくまで公正に執り行われなくてはなりませぬ故」


「ゲーム?」


 烏丸は扉の前でピタリと立ち止まった。


「それではこちらでもう暫くお待ち下さい。詳しいルールは後程ご説明致します」


 烏丸はそう言って丁寧に一礼すると、来た道を真っ直ぐ戻っていった。


 どうにも妙な展開になってきた。

 烏丸の話しぶりではこれから行われるのは何らかのゲームのようなのだが、ルールとは一体何のことだろうか?


 それに烏丸はさっきわたしたちに「貴方がた」という言葉を使った。本来、残酷館に呼ばれたのは城ヶ崎一人だけの筈なのに、まるでわたしが来ることを予期していたかのような口ぶりではなかったか?


 城ヶ崎は一歩進み出ると、両開きの扉を一気にこじ開ける。

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