第32話 退くか進むか

「――本当に凄まじいな」


 円状に転がったゴブリンに死骸を目にしブレブが言った。感心してるようでもあり同時に驚目を瞠らせていた。

 

「これだけのゴブリンを一掃出来るのだから凄いわね」

「でも、それはみんなの協力があったからこそだからね」


 先程使用したロータリーの標識はあくまで相手をぐるぐる周らすだけの効果だ。攻撃を加えるなら仲間の援護が必要となる。


「だとしても脅威的だ。本当に君が味方で良かったよ」

「同じ志を持つ冒険者である以上敵になることなんてありえないにゃ」


 ブレブの発言にフェレスの耳が前後しブレブの発言に意見した。僕も冒険者登録しているし、まともにやっている冒険者と敵対することはない。


「へっ、どうやらリーダーもわかってきたようだな。こいつの力は異端だ。俺が怪しむのもわかるだろう?」


 だが、そこでまるでブレブが同調したかのようにアグレイが発言した。我が意を得たりといった笑みも浮かべている。


「何勝手な解釈してるのよ。ブレブはただ仲間で良かったと言ってるだけじゃない」

「そうですよ。それに私も二人が一緒で良かったと思ってます。ウルもそう思ってるはず」

「ガウ」


 ユニーがアグレイの解釈に異を唱えた。アニンも僕たちがパーティーにいたことを喜びこそすれ嫌がってはいないようす。


 ウルも追随するように吠えていた。フェレスがいい子いい子と撫でてあげている。


「どうやら誤解を招くような言い方をしてしまったようだな。ただ君たちが仲間で良かったと伝えたかっただけなんだ。アグレイも妙な解釈はやめてくれ」

「……フンッ」

 

 ブレブに指摘されて鼻を鳴らし不機嫌そうにアグレイが目を逸した。


「あいつやる気あるのかにゃ」

「まぁまぁ」


 フェレスが不機嫌そうにしていた。態度が態度だけに色々と思うところもあるのだろう。

 

 僕も気分は良くないがいちいち揉めていても仕方がない。


「あの、この後はどういたしますか?」


 僕たちが話しているとエベが心配そうに聞いてきた。かなりの数のゴブリンを退治したが、これだけの数がある程度統率した動きでやってくるのは脅威だ。


 エベが不安になるのもわかる。


「もしかしたら一度戻ってギルドに報告した方がいいのかもしれないね」

「おいおい冗談だろう? ここまで来たのによぉ」


 ユニーが顎に手を添え一考した後、発言した。近くで聞いていたナックルは納得出来ないと顔を顰めた。


「でも、あまり無理して失敗したら意味ない気がします」


 アニンがウルの毛づくろいをしながら意見を述べた。深追いして手痛い反撃を受けるのを恐れているのかもしれない。


「――俺はこのまま先に進むべきと思う。これだけのゴブリンが動いている以上、巣窟が現状どうなってるか調べるのも大事だろう」

「は、急に饒舌だなおい」


 淡々とこれからすべきことを語るキリンをアグレイが茶化した。キリンはあまり気にしてないようだがアグレイの態度に不快そうにしているのも多い。


「俺もキリンの意見に賛成だ。危険は伴うが冒険者であればそれぐらいの覚悟は持つべきだろう。ただ何も考えず闇雲に動き回っても仕方ない」

「それは確かにそうね。巣窟の場所がわかればまた違うだろうけど」


 キリンに同調するブレブだがやるにしても計画的に動く必要があると考えたようだ。それにはマジュも同意しており、何か手がかりが欲しいところなようだ。

 

「それなら気になることがあるにゃ」


 フェレスが会話に加わった。獣人のフェレスは感覚が鋭い。ゴブリンの群れの動きから何かヒントを得たのかもしれない。


「足音から察するにゴブリンの動きは向こう側からまとめて来たような感じだったにゃ」

「ガウガウ」


 フェレスが指をさすとウルも追随するように吠えた。


「ウルもフェレスと同じように思ってるみたい」


 アニンがウルの気持ちを代弁して語った。ブレブがふむ、と口にしフェレスが言っていた方向を再度眺めた。


「なるほど……確かに向こうの山は岩場が多い。ゴブリンが潜めるような洞窟もあることだろう」


 ブレブが思い出すようにしながらフェレスの指摘した場所について語った。


「それなら行ってみる価値もあるかもな……」

「決まりだな!」


 キリンがそう口にしナックルは拳を力強く叩き合わせながら声を張り上げた。


 他の皆もリーダーであるブレブの決定には従う様子だ。僕やフェレスにも異論はなく、そのまま先へと急いだ――

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