彼方を想いて

 それは、光を拒む闇の中からそっと見守っていた。

 大きな金色の瞳を瞬いて、名残惜しげに覗いてくるおかしな生き物を。

 やがて足音が遠ざかり、しばらくの静寂ののちにそれはようやく暗闇から這い出た。


 雪と同化するほどの白い体毛に覆われた四足の獣。尾は体と同じ程に長く伸び、先っぽにはふさふさとした毛が生えている。足先には鋭い爪が並び、その背には二対の鳥のような翼を携えていた。

 しかし、獣でも鳥でもない。

 それは、自分たちのことを星竜しんりゅうと呼んでいる。

 偉大なる竜より賜った名だ。


 ぷるぷると体を震わせて、纏わりついていた雪を落とすと駆け出す。目指すは、先程のおかしな生き物のところだ。

 くっきりと残る足跡を追っていく。

 楽勝だ。


「か※※ー※!」


 少し遠くから音を拾った。

 その方角を確かめるようにして静止し、だっと駆け出す。

 遠目から、その場所を雪に紛れるようにしてうかがうと、そこにはあのおかしな生き物たちがたくさん集まっている。


 ここが巣か。

 あれらは何という生き物なのだろう。

 

 しばらく様子を見ていると、やつらはそれぞれ少数に別れて、なにやら木で作った箱のようなところに入っていく。

 どいつもこいつも二足で歩いていて、昔に見た猿という獣の姿を思い出した。


《ああ、さっきのやつはもう出てこないのかなあ》

 

 なんだか無性に気になる存在だったのだ。

 だが、未知の生物の巣に単身乗り込もうなどと思えず、それ以上の深追いはできなかった。

 残念に思いながら、長老ならばあれが何なのか知っているだろうかと。


 そう考え、今日のところは一先ず帰ることにする。


 また会えるといい。

 そうしたら、次は何をしようか。

 

 わくわくする思いをおさめながら元の暗闇まで戻ってくると、くるりと体をまるめて蹲る。そして、表面を透明な膜が包んでいき硬化した。

 また、眠りにつくのだ。

 いっときの好奇心につい外に出てしまったが、本来ならばまだ眠りの時期だった。

 だが、目覚めのときは近い。

 そう本能に急かされて、それは期待に胸を踊らせた。

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