Ⅲ 高遠家での推理


 場面は変わって、此処は高遠家である。日曜日のバスケの練習後、自宅に帰った岳士は、部屋で勉強をしていたが、ベッドに倒れこむと、頭のなかに今回起こった少女の行方不明の事を考えていた。

 

 …………。どういう経過で行方不明になったのだろうか? 事故なのか? 事件なのか? 智の話を信じてみたら、事件ということになる。誰かが少女の背中を押したのだ。しかし、一体誰が? 状況が良く解らないので、親父が帰ってきたら、状況を聞いて親父と話し合ってみよう。家族にも捜査上の秘密は話せないのが当たり前だが、俺は“岳士探偵”だからな。以前にも俺の推理で捜査の手助けになったことがあった。少しは話してくれるだろう。

 

 まず、行方不明と言うことは、事件として考えたとしたら、少女を拉致目的で自宅に連れて帰り監禁して、猥雑なことをする目的で拐った、異常性格者であること。あるいは、

 本当に何かしらのアクシデントで少女を死なせてしまった場合だ。例えば自動車事故とか、突然道路に飛び出したのかも知れない。しかし、そんな場合だったら、そのまま逃げるか、車にのせてどこかに行くだろう。川に流すとは考えられない。それに現場に何かしらの証拠が残るはずだ。これはないな。やっぱり事件の可能性は低いな。

 

 となると、やっぱり事故か。しかし、一人で江戸川の川岸まで行くだろうか? いや、誰かの誘いがないと、川岸までは行けないだろうと思うな。あんなに自分の背丈以上に雑草が生い茂っているのに。しかも、彼女は発達障害と多動症があったから、小学校に行って半年たつのに、普通の児童の半分もことばが理解できなかったと、新聞に出ていた。話し掛けてもその子は鸚鵡おうむ返しの言葉しか出せなかった。ということが出ていた。なかなか、知らない人とは遊べない筈だ。

 では川に落ちて、流れたのではないのか? もともと「木2号公園」までしか来ていなくて、何か事故に遭ったのか? それとも顔見知りの人がいたのか? それで考えると、何が考えられる。そこで誰かと遭ったのか? 誰に。それだと事件だ。今は何でもありの世の中だからな。家族間、姻戚関係での殺し合いなんて、最近は全く珍しくもなくなったし。

 テレビのニュースでは、防犯カメラの映像が一ヶ所だけ出ていた。「木2号公園」に向かって、後ろを見ながら、全速力でキックスケータを走らせる姿が写っていた。そう何かから逃れるかのような感じの映像だった。誰から逃れる? 普通子供は怒られるときに、逃げるもんだ。

誰から怒られる。…………。



 #実際は、この数日後に、江戸川の下流にある中洲に女の子が引っ掛かっているのが、通行人により発見され。死因は溺死。そして警察による両親とのDIA 検査により、行方不明となっていた女の子と判明。川で死んだのは、明白となった。#

 

 

 そんなことを考えていたら、一階から、

「ご飯が出来たから、降りていらっしゃい」と言うお袋の声がした。俺は返事をすると、台所へと降りていった。そして、テレビのニュースを見ながら夕飯を食べていると、親父が帰ってきた。今日は少し早いなと、思いながら、食事が終ったら親父と話をしてみようと思った。

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