第10話:結婚式
「それではみなさんの前で誓の口づけを」
神父にそう言われ青柳清太と青柳雫は皆の前で誓の口づけをかわす。
『おめでとう!』
途端に周りから祝福の言葉と同時に拍手の音が上がる。
緊張をした、顔を真っ赤にしながらのぎこちない口づけ。
しかし二人はものすごく幸せそうな顔をしてた。
参席した顔ぶれは親戚一同、友人一同、会社の同僚や上司、そして知人やお世話になった人たち。
清太と雫の今までの人生で関わって来た人々を呼ぶ、かなり盛大な式であった。
電報で「おめでとう」と一言だけの匿名があったのを聞いた時は流石に雫も涙を流した。
今日のこの日はきっと二人にとって忘れる事の無い日になるだろう。
そしてここからが新たな幸せをつかむためのスタートとなる。
この先苦しい事も辛い事も、そしてもちろん楽しい事もうれしい事も一緒に過ごさなければならない。
まったくの赤の他人。
それでも一つの家族になる。
そしてその家族の顔ぶれもそのうち増えて行くだろう。
当たり前の事。
でも今はその当たり前の幸せも手に入れられない人が多い時代。
そんな中、この二人は「結婚」と言う選択肢を選んだ。
この先何十年と一緒に居る事になるだろう。
それでも互いに助け合い、そして寄り添って生きて行く。
そんな当たり前をこれから続けて行く。
願わくばこの二人に良き未来を……
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
―― 二十七年後年後 ――
「わ、私に静香さんをください! きっと幸せにして見せます!!」
清太の前にスーツ姿の青年が頭を下げていた。
その隣に愛娘の静香も同じく頭を下げていた。
「あなた、ほら」
清太の隣にいた雫はにっこりと笑いながら言う。
苦虫をかみつぶしたような清太だったが大きく息を吸いこんで深いため息を吐いてから口を開く。
「分かった、静香をお願いします」
断腸の思いとはこの事かと今更ながらにそう思いながらも清太は愛娘の結婚を許可する。
こんな古風な事ではあったが、けじめはけじめ。
清太は常々娘にそう教えて来ていた。
「お父さん!!」
清太の言葉を聞いて最初に顔を上げて嬉しそうにしたのは愛娘だった。
隣にいる彼氏はこんな古風な事をさせられるとは思いもしなかったが、許可を得て一世一代の大立ち回りと挑んだ結果が良かったので安堵の息を吐く。
しかしそんな二人に清太は言う。
「結婚は認めるが、今後二人は一つの家族になる。辛い事も苦しい事もあるだろう、赤の他人同士の者が一緒になる。喧嘩もするかもしれない。しかし願わくば末永く支え合って生きていってほしい、私たちのように」
そう言って清太は隣にいる雫を見る。
年相応に白髪も出て美しかった顔にはしわも目立つようになっている。
それでも雫は嬉しそうに清太を見ながら何も言わずに頷く。
そんな雫に清太はにっこりと笑う。
「姉さん良かったな!」
「ほんと、おめでとう!!」
隣の部屋で長女のその様子を見ていた弟や妹もやって来てこの二人を祝福する。
清太たちの家にまた明るい声がこだまするのだった。
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