第3話

「……来たな。待ちくたびれたぞ」


「兄者……。見れば分かる」


 城の外に、孫策軍が陣を張っている。

 俺は、それを見下ろしていた。


『先鋒は董襲だな~。その部下も強いのが多数いるじゃん。結構ピンチ?』


 だが俺は、王なんだ。涼しい顔をしなくては……。

 中二病的態度で、配下を威圧し続けなければならない時代だ。


 ここで、敗軍の将たちが来た。

 東呉は、そもそも独立自治で成り立っていた。相互不可侵の同盟を組んでいた状態だったんだ。

 それを、孫策が駆逐して行きやがった。


 正直許せない。

 しかも俺は知っている。孫策は、この後大粛清を行うことを。

 許せる所業じゃないよな。

 後世に英雄として称えられるのかもしれないが、駆逐される雑魚キャラとしては、この上ない悪役だ。

 そして、孫策は残党に襲われて死ぬんだ。自業自得だ。


 だが……、今ならまだなんとかなるかもしれない。


「徳王殿……。皆を集めたぞ」


「陳瑀殿と王朗殿。恨みもあるだろう。だが今は、我に従って欲しい。必ずや、孫策を討ってみせる」


「「おお!!」」


 二人が敬礼してくれると、配下たちの歓声が上がった。

 いいね、いいね。士気は高いね。

 ここで一人前に出て来た。


虞翻ぐほんと申します。軍略を解く機会を与えて頂きたく……」


 おう? 知ってる、知ってる。今は王朗の配下のままだったか。

 いいね、いいね。軍師じゃん。


「聞こうか」


「ここは、許昭殿に援軍を求める場面かと」


 ほうほう……。


「いいだろう。行け、ケツは持ってやる。存分に働け」


「「「……徳王様?」」」



 虞翻が、援軍を求めに行った。これで、孫策本軍が出て来ても対抗できる可能性が出て来た。

 さて、俺は出陣するか。防衛一方だと舐められるからね。

 馬に乗った時だった。


「兄者……。董襲の旗を見ると逃げ出す軍もいるほどだ。ここは、防備を固めようぜ。せめて、援軍が来るまでは」


「安心しろ。一撃喰らわせて戻って来るだけだ。騎兵を五百騎ほど連れて行く。それと、城を頼んだぞ。弟よ」


「お……、おう」





「ひゃっは~! 董襲~! どこだ~! 出て来い~!」


「徳王様~~!? 先頭に立たないで~!!」


 図らずも、錐型の陣で特攻する。もちろん先頭は俺だ。

 もうね、某人気戦国春秋漫画の将軍クラスに武威を示す。この時代ではあり得ない戦法だよな。

 俺が矛を振るうと、数人が吹き飛んでるよ。

 現実じゃあ、あり得ないけど、ここは、三国志演義の中だと割り切ろう。

 それに、【遼来遼来】の史実もある。できないとは限らない。


 董襲軍に雪崩れ込んで雑魚を屠って行くと、一人の騎馬武者が立ち塞がった!


「てめぇが、董襲か~!」


「勝負じゃ~! 厳白虎~!」


 ――ブオン、ガキン


 数合打ち合う。膂力は、互角だ。

 董襲の矛を躱すために、俺は、馬に横乗りの状態になる。この時代だと、あぶみがないので、曲芸と言えるな。

 董襲には、初めて見る動きだろうな。

 そして俺の矛が、驚いて硬直している董襲の喉を切り裂いた。


 周囲は静まり返っている。

 気の利いた俺の護衛が、名乗りを上げてくれた。


「東呉の徳王が、董襲を討ち取ったり~!」


「ふっ……。当然の帰結だ。俺と対峙した瞬間に決まっていた未来だ。当たり前すぎて、名声を高めるに値しない」――キラン


 その日、董襲軍は敗走した。

 俺は、陣の武器兵糧の接収を命じて、城に帰る。


「兄者! 流石だ。東呉の各地が恐れた、董襲を王自らが討ち取るなんて!」


 厳輿は、大泣きだった。


「小物だったな。小物としか言えない。言わざるを得ない。そして、本番はこれからだ。皆の者頼むぞ!」


「「「「「おおお! 勝ち鬨だ~!」」」」」


 部下も、俺の王威にあてられて、士気が上がったらしい。

 ふっ……。これが天命なんだろう。

 いや、定められた運命か。

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