後編・ガラスの靴の持ち主は?

 翌日からガラスの靴の持ち主探しが始まった、という話を聞きました。

 慌てたのはシンデレラ。

 ガラスの靴は魔法使いのおばあさんの所へ戻るという話だったのに、どういうことでしょう?セカンド王子が箱か何かに入れてるからでしょうか?

 どうしましょう?そんな言葉がいくつも浮かぶだけで、名案なんて浮かびません。


 シンデレラが借りていた方のガラスの靴は、ドレスや小物、馬車と一緒に屋敷に帰って少ししたら消えてしまったので、多分、おばあさんの所へ戻っていることでしょう。

 名乗り出るべきだとシンデレラは思っていましたが、証拠もないですし、手違いなのに図々しくも舞踏会に行ったのは、何か罪になるのかも、と名乗り出ることは出来ませんでした。


 それに、あのガラスの靴はマジックアイテムです。

 持ち主は魔法使いのおばあさんであり、シンデレラは借りただけ。持ち主とは言えないのではないでしょうか。


 そもそも、ガラスの靴は今は魔力切れで単なる靴になっているのでしょうか?

 噂によると、ガラスの靴を履けないご令嬢ばかりなので、登録した人にしか履けないようにはなっているようです。


 シンデレラも履けないかもしれませんが、少しホッとしました。

 片方だけでもガラスの靴が違う人に渡ってしまうと、やはり、おばあさんの所へ戻って来ないでしょうから。



 噂が流れて三日後。

 とうとうシンデレラの所までお役人が来て、ガラスの靴を履けるか試してくれ、と依頼されました。

 断るワケにも行かず、シンデレラは覚悟を決めてガラスの靴にそっと足を入れると、ぴたりとサイズが合いました。


「あなたでしたか!ご都合がよろしければ、今すぐ王宮へ来て下さいませ」


「い、今ですか?」


「はい。そのままで結構です」


 これは連行では?

 不敬罪でしょうか?

 それとも、すぐ名乗り出なかったせいで余計な手間をかけさせ、費用も使ったので賠償でしょうか?

 真っ青になりながら、王宮へ向かう馬車に乗せられたシンデレラ。

 悪い考えしか浮かびません。

 シンデレラが案内されたのは王宮の牢屋ではなく、応接室でした。

 お茶を出されて待っていると、セカンド王子が入って来ました。


「やぁ、シンデレラ。驚いたかい?」


「は、はい。このたびは、誠に申し訳ござ…」


「謝る必要はないよ。頑張る君にサプライズ。素直に驚いてくれてよかったけど、もう少し人を疑うことを覚えないとね。危なっかしいな」


「は、はぁ…」


 シンデレラは何のことだか分かりません。


「何がなんだか分かってなさそうだね。あの魔法使いのおばあさんの雇い主はわたしだよ。あんな凄腕の魔法使い、王家が目を付けないワケがないだろう?

 おばあさんに化けてたんだけどね。実際はかなり若い外見なので、返って警戒されるかと思って」


「…はぁ。そうなのですか。

 …って、王子様が依頼主なんですか?」


「そうだよ。磨けば光るとは思っていたけれど、予想以上だったね。君なら領主も頑張ってくれそうだ」


「頑張るつもりですが…」


 シンデレラはセカンド王子の考えが分かりませんでした。


「『セカンド王子はガラスの靴の持ち主が忘れられず、その令嬢と結婚したい』という噂は聞いているかな?」

「初耳です…」

 てっきり、落とし物を届けたいだけかとシンデレラは思っていました。

 セカンド王子はソファーから立ち上がり、シンデレラの側で片膝を付き、シンデレラの手を取ります。


「わたしと結婚して下さい、シンデレラ」


 シンデレラは聞き違いかと思いました。


「招待状が君に届いたのは間違いじゃないよ。わたしがそう手配した。婿養子がわたしでは不安かな?」


「い、いえ、そんなことは!ですが、うちは伯爵家で殿下にふさわしくありません」


「そんなことないよ。自慢じゃないが、わたしは優秀だからね。次の王にと推す派閥もあって苦労しているんだよ。王位争いを回避し、兄をスムーズに国王にするためには、わたしは臣下に降った方がいい。

 出来るなら派閥は関係ない所へね。すると、君が最適だったワケだ。領主は君でわたしは補佐。仕事も楽出来るし言うことないよ!」


「…そ、そうですか」


 条件に合ったから求婚して来た、という事実にシンデレラはショックを受けた。


「もちろん、君が素直で可愛いからというのも大きいよ?」


「…え?」


「わたしと結婚して下さい、シンデレラ。わたしを幸せにしてくれ」


「逆じゃないですか?それ」


「君は自分で幸せを掴んだのだから、これから先もそうだろう?」


 そう言われてみればそうでした。

 笑顔のセカンド王子にシンデレラも笑います。


「はい、頑張ります。頑張る子はお好きなんですよね?」


「もちろんだ。シンデレラ、成人したら結婚してくれるかい?」


「はい。よろしくお願いします」


 こんな優しい王子様と結婚出来るなんて、シンデレラにとっては夢のようでした。

 本当に夢でも見ているのではないかと疑いましたが、現実でした。

 すぐに正式に婚約する書類を作ったからです。

 いつの間にか、後見人のユージン侯爵も呼ばれており、書類に快くサインをしてくれました。



 セカンド王子とシンデレラの婚約は、ガラスの靴が結んだ縁だと大々的に噂を流されたおかげで、民たちは好意的に祝福しました。

 王位争いから降りたセカンド王子を歓迎する貴族はもちろんいましたが、セカンド王子を推したかった貴族は複雑でした。

 セカンド王子の后を望んでいた令嬢たちはがっかりしましたが、ガラスの靴が結んだ縁は素敵なエピソードなので、ガラスの靴を作らせました。

 何らかの力が働いたのか、令嬢たちも素敵な出会いがありました。

 いよいよ、ガラスの靴は有名になりました。



 一年後。

 シンデレラは成人すると同時にトアルー伯爵になり、セカンド王子と結婚しました。いえ、セカンド元王子で、新しいトアルー伯爵の夫で伯爵補佐です。

 セカンド伯爵補佐は本当に有能でした。

 手付かずだった山の調査をして金山を発見し、トアルー領はますます発展しました。


 シンデレラとセカンドも仲良く過ごし、子供にも恵まれて、いつまでもいつまでも楽しく幸せに暮らしました、とさ。


                   おわり

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【異世界版シンデレラ】トアルー伯爵家 蒼珠 @goronyan55

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