第2話 召喚と少女たちと眼鏡4

 眼鏡ができるまでこのあたりをぶらぶらしようと決めたものの、この如月町には観光できるようなスポットなんかもないし、名物とかも特に思いつかないしで困った。あるのは山と小さな商店街、小中高の学校くらいだ。

今の季節は夏。茹だるような季節だけれど、私は夏が好きだ。冷たいものはおいしいし、太陽が元気で気持ちが良い。まあ、冬は冬で温かいものがおいしい季節で好きなのだけれど。


「モルドレッドさんは夏と冬のどっちが好き?」

「……なつとふゆとはなんだ?」

「そっか、異世界には季節とかない感じなのかな?」

「……わからない。メモには書いてなさそうだな」


 そのメモ帳は随分使い古されているようで、ボロボロで所々に血のシミがついていた。随分物騒な異世界から彼はやってきたのかもしれない。


「暖かいのと寒いのは?」

「……」


 モルドレッドさんは黙り込んでしまう。どうやらそういう感覚もわからないらしい。そういえば彼のことを何も知らずに連れだしてしまった。ゆっくり話を聞く必要があると感じた。


「ねえ、さっきの部屋での質問。モルドレッドさんは元居た世界で何をしていたの?」

「暗殺者だ」


 暗殺者。あんさつしゃ。あんさつ。暗殺ぅ???

暗殺ってあれだよね、世闇に紛れて対象を殺すやつだよね!? すごい!!かっこいい!!でも物騒!!とても物騒!!これは私はどんな反応をすればいいんだろうか!!暗殺してきた人数を聞くのはご法度!? むしろこれ私が暗殺されてしまうのでは!?


「え、じゃあナイフとか……」

「……ああ、あるが」


  モルドレッドさんは一切の躊躇いなくサバイバルナイフのようなもの、というかサバイバルナイフを懐から取り出した。物騒だ!! とても物騒!!というか銃刀法違反!!おまわりさんに見つかったら逮捕されちゃう!!不審者扱いされてしまう!!この現代日本では正当な理由なく刃物を持ち歩くことは禁止されています!!


「とりあえずソレはしまってよし!」

「わかった」


 彼はすんなり私の言うことを聞いてくれて、懐にナイフを戻す。

最初に私の言うことは絶対ってしておいて良かったと心の底から思う。


 でも、今までおとなしく従ってくれていたし、ちゃんと良識?のある暗殺者さんらしい……と信じたい。にしても暗殺者かあ……! やっぱりかっこいいな、って気持ちの方が勝つのは親ばかならぬ召喚ばかなのかな?


 そう考えていると、急にモルドレッドさんに突き飛ばされて地面に転がる。

響くクラクション音、そして衝突音。それらは一瞬のように感じられた。やけに耳についたのは今私と話していた人がゴロゴロと転がる音だった。


「モルドレッドさん!? え、嫌、ちょっと!!」


 モルドレッドさんに駆け寄った私は、彼の体を見て驚く。

左腕が変な方向に曲がっている。足も血だらけで、どう見ても重症な状態だった。

そう、そのはずだった。目はいい。見間違えるはずもない。ひき逃げなんて考えもせずに救急車を呼ぼうと手がスマホにのびた、その時だった。


「待っててね、今救急車を――」

「……人を呼ぶな、すぐに治る」


 その声は今まさに目の前に倒れているモルドレッドさんのもので。

私の動きを止めたのはその声だった。その言葉通りにひき潰された足が、骨が、肉が再生していく。私はそれを目にして、彼の能力を知ったのだった。


 私の書いた魔法陣はチート能力者を召喚するための儀式に使用するもので、何かしらの能力を持っていることが前提だった。再生能力者。どんな傷でも回復してしまう能力者……なの?


 そう考えている間に、彼の体はあっという間に回復してしまった。

血も止まり、足も生え、左腕の骨もすっかり元通りだ。


「……そういう体らしい、俺の体は。だが、カノンの体は違うだろう」

「そういう体……で、でも痛いとか、苦しいとか」

「いたい、くるしい、カノンの言っていることはわからないことばかりだ」


 そう言った彼はどこか悲しそうな表情に見える。彼の体も心も、欠落している者が多すぎるのかもしれない。それはまるで空っぽの器のようだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

チート再生能力暗殺者が現代日本に召喚されて青春を謳歌する話 @kinosizu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ