可哀想だからデートぐらいね①

「勇〜私先お風呂入るねー」


 夕食を食べ終えた千咲がそう言い残し、風呂場へと向かう。

「はいはーい」と返事をした俺は食べ終えた二人分の食器を洗い出す。

 日にちにもよるが、千咲が料理を作ったのなら洗い物は俺。もちろん逆もあるし、両方やるときもある。


 洗い物も終え、リビングに用事がなくなった俺は部屋へと戻る。

 部屋のドアを開けたタイミングで「MINE♪MINE♪」と静かな部屋に通知の音が鳴り響く。


「MINEから通知なんて珍しいな。母さんからか?」


 そんな独り言をつぶやきながらスマホに手を伸ばして画面を見てみると、


「星澤から?なんの用だよ」


 思わぬ相手に顔をしかめながらも、送られてきた内容を読む。


『夜分遅くにすみません。明後日の日曜日、一緒に遊びに行きませんか?』


 その内容を見て更に顔をしかめてしまう俺。


 だってそうだろ?好きでもないやつとデートなんてしたいだなんて思わない。でも、優しい優しい勇様はデートを許可してやろう。せっかくあのブスが勇気を出して言い出してくれたのだからそれを称してデートぐらいしてやってもいいだろう。手を繋ぐ、ハグをするとかはお断りだがな。


 心の中で自分の器の広さに誇りを持ちながら画面に指を滑らす。


『いいですよ』


 俺が返信すると、既読がついてから数分後に星澤からMINEが帰ってくる。


『ありがとうございます。では、一時に駅の改札口前にあるピアノ横に集合ということでお願いします』

『了解です』


 俺が最後に返信を送り、数秒間星澤の連絡を待ってみたものの返ってくる気配はなし。

 ひとため息を吐いた俺はスマホの電源を落とし、静かにクローゼット前へと移動する。


「デートって何着ていけばいいんだ?あんな見た目でいつもの服着たら怪しまれそうだしな……」


 部屋を見渡しながら頭を悩ませていると、小説や漫画が入っている本棚が目に飛び込んでくる。


「陰キャの服装について少し勉強するか」


結局、ついつい勉強に夢中になってしまった俺が服を決めるのは翌日の夕方だった。

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