第24話 ロードオブダーク


フェルの案内によって俺はついに大魔術師と呼ばれる人物に会うことができた。


今俺の目の前には大魔術師と呼ばれた人物がいるのだが


「生きてる、のか……これは」


フェルに問いかけると、フェルが答えてくれた。


「辛うじて、です」


大魔術師と呼ばれた人物はボロい布を1枚その身にまとっただけで、大木に鎖で巻き付けられていた。


「なんでこうなってる?」

「女神クオンが巻き付けたのですよ」


そう言ってフェルは説明してくれる。


「ここに来るまでにも狂化したモンスターがいましたよね?あの噴き出るガスの抑制を、大魔術師のイリーナ様が行っているのです」


そのとき弱った目を見開く大魔術師。

俺に目を向けてきた。


「やっときたか。遅いぞ」


まるで俺を知っているかのような口ぶりだった。


「あんた、俺のことを知ってるのか?」

「君を召喚したのは私だからな」

「え?」


俺は呆気に取られてそんな返事をしてしまった。


「俺を召喚したのは女神クオンだろ?」

「あの術式には細工がしてあるのさ。本来キミは呼ばれないはずのイレギュラーだった。それを強引に私が割り込んで呼び出したのさ」


明かされた真実に空いた口が塞がらなかった。


でも、そんなの関係ない。


どうでもいい。


「俺は女神クオンを地獄に送れたらそれでいい。ヴェールを破る方法を知っていたら教えて欲しいんだ」


黙り込む大魔術師。


やがて、重く口を開いた。


「あれはもう破れん」

「もう?」


聞き返した。


もう、ってどういうことだ?


「七色のヴェールはひとつひとつ属性がある。火属性、水属性、雷属性、風属性、土属性、光属性、闇属性」

「それが?」

「ヴェールを破るためにはこの7つの属性のヴェールに対して相性有利のアタッカーを一人ずつ用意しなければならない。つまりヴェールを破壊できる7人が必要なのだ。それが、七星剣と呼ばれる存在だ」


その言葉を聞いて背筋が凍った。

7人?


まさかここまで来てお使いさせられるのか?


世界を旅して七人の剣士を集めてこい、とか?


「もちろん生半可なものではヴェールを破れない。あれは現状世界最強の障壁と呼ばれているものだ。もちろんこちらも各属性世界最強で挑まなければならない」

「それで、その7人はどこに?探せってこと?」


この世界のこと何も知らないのにそんなこと言われても困るんだが、こういうお使いってやらせるならやらせるで基本的に情報を教えてもらえるイメージがあるのだが。


「私の隣にいるさ」


そう言われて俺は疑いながら、今まで見ていなかった大魔術師の横を見た。

そこには左右に3つずつ墓が置かれていた。


正直ちらっと目に入った時から気になってはいた。

何の墓だ?と思っていた。


「ヴェールを破壊できる7人は既に死んでいる。だから無理だ。諦めろ」


そう言って顔を伏せて皮肉げに笑っている。

こいつはもう、どうしようもないと思っているのだろう。


だが、俺はもう一度大魔術師の顔を見て、可能性として考えられることを口にする。


「【トリプル】の先【フォース】を目指す、というのは?」


大魔術師という存在なのだ。魔族化に関して説明するまでもないだろう。


現状のトリプルのギフトで俺は死体を操ることができる。


その先の【フォース】なら?というのは考えていた。


もしかして、既に死んで時間がかなり経過したような、過去の人物を呼び出すこととかできるのでは無いか?とそう思ったのだ。


「正気か?お前。トリプルまで魔族化したことでも天文学的な数字なのに更にその先を目指すなど、頭がおかしいのか?」


でも俺にはこれしかないように思う。


それに今からまた世界を旅するのなんてやりたくない。


そのことを伝えてみると


「まぁ、現状できる事がないからな。強制はせんさ。自分の好きにするといい」


そう言って大魔術師はフェルに目をやった。


「フェル、伝えてある通りだ。血が必要なら私のものを渡してやりなさい」

「待て。あんた人間じゃ?」

「私はお前と同じく【トリプル】だ。人の身では女神に勝てないと思い、魔族化に手を出したのさ」


フェルに目をやり自分でやると言いイリーナに近付く。


すると、突如光のオーラに包まれた、女が目の前に現れた。


俺が女神に廃棄されて訪れたダンジョンで見たような光景だ。


「イリーナ様。このようなものに世界を託すおつもりなのですか?」


そんなことを言われてイリーナは頷いていた。


「あぁ。私はこの者に託そうと思う」

「で、ですが!」


とごちゃごちゃ言い始める2人を


「黙れよ」


空気が凍ったが知ったことではない。


「世界を託す?知らんな」


そう答える。


「なっ……お、お前」


俺を見てくる女。


「あの邪神を倒して世界を救う勇者ではないのか?お前は」


なんの話をしているんだこいつら。


世界を救うとかそんなこと興味無いんだよ俺は。


「だから知らないって」


そう言うと驚いたような目で見てくる女だったが、実体は無いので素通りできる。

そしてイリーナの前まで来た。


彼女までもが驚いたような顔をしていた。


「な、何を考えているのだ?お前は。世界を救うつもりが……ない?」

「世界とか知らない。俺はただあのクソ女神クオンを地獄に落としたいだけだよ」


そう答えてイリーナから血を抜きだす。


今までに見せたことの無い表情を見せる大魔術師。

大魔術師とまで呼ばれた存在が俺を恐れるような目で見ていた。


その横でこいつの血液を口から喉に流し込んだ。


いつものような拒否反応を起こしたが、いつもより早めにそれは終わった。


「これが新たな位階レベル、か」


俺の前に文字が現れた。

それは俺が新たなレベルに到達したことを示すもの。


【適性が魔人から魔王へと変化しました】

【特性が変化します】



さっそく、確認してみようか。


「ステータスオープン」



【千葉 優華】


 LV1790


 HP:+27000

 MP:+27000

 攻撃:+27000

 防御:+27000


【適正:魔王】

【称号:闇の王ロード・オブ・ダーク

【特性:ロード・オブ・ダーク】



俺は特性の確認をするために呟いてみた。

とは言ってもこの特性の効果はなんとなく、分かる。


今俺の目にはこう映っている。


【ギフトの対象です】

【ギフトの対象です】

【ギフトの対象です】


墓の上に文字が浮かんでいた。


俺はもう死者を完全に自分の配下と出来る。

それから全種族のモンスターを配下にできることをこの視界が教えてくれた。


血を入れているとか、いないとか、そんな制限はいっさいなくすべてを使いこなせるようだ。


「ロード・オブ・ダーク」


先程俺の行く手を阻もうとした魂がいつの間にか実体を持っており、俺の前でしゃがみこんだ。


右手を膝に左手を胸に、それは。


俺への敬意を表するものだった。


「ロード、これよりこの身はあなたに」


更にいつの間に現れたのやら。

同じように残りの5人が俺に忠誠を誓う。


「ロード、我ら七星剣を存分にお使いください」


その光景に静かな興奮を覚えた。


魔王の名に恥じない能力。


だが七星剣、か。

七色のヴェールを破るために必要な七人のことだろうが、


「もう1人足りないよな?」


大魔術師にそう聞いてみた。

七人と言う割には墓が六つしかないことが気になっていた。


「もうひとりは?墓もないよな?」

「もうひとりは生き延びている。それと、最後の一人はお前も知っている人物のはずだが」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る