第23話 掌握

俺はグリッソの手を取るために近付いたが


「待て、少年」


俺を見てあと数歩といったところで俺の歩みを止めてきた。


「なにを、隠し持っている?」


バレた、か。


手に持っていたナイフをカランとその場に落とした。

それを見て呪術師たちが喚き出した。


「ぐ、グリッソ様!こやつ、グリッソ様を殺害しようとナイフを!」

「そうですぞグリッソ様!このような者は即刻排除ですぞ!」


口々にそうグリッソに進言する呪術師達。

その言葉を受けてもなおグリッソは満更でもなさそうな顔をする。


「まぁ、待ちなさい、あなたたち」


そう言ってグリッソは俺に目を向けてきた。


「最後に一矢報いたかった彼の気持ちは痛ましいほどに分かります」


馬の上から降りてくるグリッソはそのまま俺に再度質問してくる。


「最後のチャンスです。私の下にきませんか?ネクロマンサーは本当に貴重だ」

「条件がある」

「ほう、条件ですか」

「フェル、獣人を見逃してやってくれ」

「獣人を、ですか?まぁいいでしょう。あなたのようなネクロマンサーが手に入るのであれば、あのような獣人どうでもいい」


そう言って今度は質問してくるグリッソ。


「ところで少年、なぜ、私がここまでペラペラと話を続けたのか、分かりますか?」

「なぜ?」


グリッソが顔を歪めたそのとき、ガサッ!!!


フェルの隠れにいった方の茂みから音が聞こえた。


そちらを見ると


「うぐっ、ゆ、ユーカ様!お、お逃げ下さい!」


フェルが男に後ろから、首筋にナイフを当てられていた。


「動くなよ、獣人。首が飛ぶぜ?」


その光景を見ていたグリッソが笑う。


「ははははは。獣人は確保しました。そして、あなたは、死刑です」


そう言って笑うグリッソだったが、急に顔を歪めて俺の顔を覗き込んでくる。


「あなたなんて要りませんよネクロマンサー。獣人ではなく、死体と遊んでいなさいな」

「分かったよ」


俺はそう答えてから、満足そうな顔をするグリッソに向かって口を開く。


「俺の負けだ、でも、フェルの奴だけは……」

「敗者の言うことなんて聞きませんねぇ?!」

「ふふふ、なんて言うと思った?」


伏せていた顔を上げて笑ってやる。


対面ではグリッソも笑っていたが、最早俺の勝ちは揺るがない。


「そこのお前、ご苦労。もういいぞ」


俺はフェルの後ろに立ってフェルを拘束している人物に口を開いた。


「はっ?」


意味が分からないのか聞き返してくる男。


その男はフェルと同じく獣人だった。

ウルフのような耳を持つウルフと人間のハーフ。


そいつに確かな殺意を込めて告げる。


「死ね」

「イエスマイロード」


男はなんの疑問も抱かずに、フェルに当てていたナイフを首筋から外す。


そしてフェルに血がかからないように少し離れてから、自分の首を掻っ切った。


倒れる男の体。


それを見て場は混乱を極める。


「ど、どういうことだ……な、なぜ味方が……」


グリッソが俺を恐れるような目で見てくる。


そして


【ポイズン】


グリッソが呪術を使ってきたが、首のなくなった先程の男が壁としてやってきた。


「……」


声帯がなくなり、声が出ないが俺を守る壁として機能する。


「どこ狙ってんの?死体に魔法撃つなんてな。お前も死体と遊びたかった?」

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


【ポイズン】

【ポイズン】


呪術師たちは俺に魔法を撃ってくるが全て俺の肉盾に吸収されていく。


それを見ながら俺は、更にグリッソの後ろにいた獣人達に告げる。


「殺し合え。そしてグリッソを残して死ね」


先程と同じように俺の命令1つでグリッソを残して呪術師達は全滅した。


「な、……なんだこれは……」


その場で座り込むグリッソ。

その周りを今度は腐ったウルフが周りを囲み始める。


呪術集団【カーズ】はこれで壊滅、か。


その前にひとつグリッソに伝えておこう。


「白竜騎士団を壊滅させた奴について話しておこうか、グリッソ」

「ま、まさか……」

「俺さ。冥土のみやげにしなよ」


その後ウルフたちにより食われ始めるグリッソ。


それを見届けてからフェルの近くに戻ると、ガクガクと足を震わせていた。


「すまない。刺激が強すぎたかもしれない」

「い、いえ、フェルは大丈夫です」


そう答えてくれるフェルを連れて俺は禁断の地に向かうことにする。


その道中でフェルに謝っておく。


「先に伝えておかずに悪かったね。怖かったろう?ナイフを当てられて」


フェルには自然な演技をして欲しくて何も伝えていなかった。


フェルの演技力ではグリッソのやつに演技がバレてしまうかもしれない、と思ったからだ。


「どこから、考えていたんですか?」


フェルに聞かれて答える


「初めからだよ。グリッソという男は君も知っての通り切れる男。だから俺がナイフを持っていることにも気付くと思った」


だからグリッソのやつに有利なように動いているように錯覚させた。


何度も何度も自分の思った通りに動くことにグリッソの中で満足感が溜まる。

そして奴はこう思う。


『すべて、自分の手の中だ、と』


実際原作でもそういった描写はあった。

グリッソは参謀キャラで頭も切れていた。


ずっと、主人公達をその持ち前の頭脳で補佐していたキャラ。

だから立てる作戦全てに自信があったはず。

そして生まれる慢心。


そこは絶好のチャンスになる。


「だから結局、最後まで俺が獣人共をコントロールしていたことに気付かなかった」

「な、なるほど。それはグリッソをある程度信じて、ということなのですね?」

「そうだね。俺は奴の頭がキレるのを信じたってわけさ」


だが、キレるからこそこうして罠にハマる。


すべて、自分の思い通りに進んでいる、という錯覚に陥る。


「で、でも獣人の操作なんてそんなことできるんですね?」


これについてもフェルには明かしておこうか。


「俺は魔人だ」


そう言って赤い目を見せる。


「体内にはウルフの血が流れている。だからだろう。この世界のウルフに近い血を流している種族はコントロールできるんだ」

「そんなことができるんですか?!」


俺は頷いた。

勿論死んでいる、とか生きている、とか状況によってコントロールの難易度に差は出るみたいだけど。


だから今回も、完全に獣人たちをコントロールするまでに時間がかかっていた。


そこで気付いたような顔をするフェル。


「ふぇ、フェルもコントロールされてたりしますか?」

「してないよ」


胸を撫で下ろすフェル。


そのとき、


「ついたよ」


フェルに声をかける。


「こ、これが……禁断の地」


今俺たちの前には禁断の地への入口が口を開けていた。


そばに立っている看板がそれを教えてくれる。


【ここから先、立ち入り禁止。禁断の地。あらゆる常識が通用しない地】


それを見てからフェルに声をかける。


「さ、行こうか」


この先にクソ女神クオンとやり合ったと言われている大魔術師がいる。


ついにあのクソ女神の七色のヴェールを破れる、そんな力を授かることができるはずだ。

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