第4話会話 ことわざの話

「みなさん、本日もこんばんは。魔族を倒したのに魔物だと思われた勇者です」

「また間違えられましたね。これでは勇者さんがかわいそうです。きみは良いことをしているというのに悪者扱いされて、ぼくは不満です。遺憾です」

「仕方ありません。人は外見が重要なんです」

「ですが、角が生えているわけでも、牙が見えているわけでもありません。実は魔族要素は薄いのではないでしょうか」

「たぶん、魔王さんが原因ですよ」

「ぼくですか?」

「魔王のわりに、見た目が神の使いレベル高すぎるんです」

「神の使いレベル」

「私と魔王さんを隣に並べてどちらが勇者っぽいか訊かれたら、全員一致で魔王さんを指すくらいには見た目が正義寄りです」

「いやあ、えへへ」

「褒めてない。そもそも、なんですかその光輪。神々しさがすごいんですけど。光るドーナツですか?」

「秋の新作ですよ――って、違くて、ぼくのチャームポイントですね」

「チャームポイント」

「魔力で浮かせているので簡単に外せますよ」

「取り外し式なんですね」

「眠る時は外しています」

「腰にある剣もです。魔王さんはレイピアなんてなくても強いでしょうに」

「これは杖ですよ」

「杖」

「最近、腰が痛くって」

「魔王さんっていくつでしたっけ」

「さあ……? 一万歳を超えてから数えるのをやめましたね」

「すごいですね。私なんて赤ちゃんじゃないですか」

「お母さんになりましょうか?」

「絵面的にアウトなのでやめましょう」

「そうですか。ちょっと残念です」

「一万歳のわりには私と同じような見た目ですよね」

「一応、不老不死なので」

「へえ」

「もうちょっと反応してくれてもよいかと」

「すみません。あんまり興味なくて」

「素直なのはよいことです。ですが魔王、ちょっとさみしいです」

「では質問をしてもいいですか」

「ぜひぜひ。私生活から好きな食べ物、スリーサイズでもなんでもこいです」

「魔王さんって、生まれた時からその姿なんですか?」

「普通の疑問きましたね」

「不老不死と聞いたので、訊かずにはいられませんでした」

「お答えしましょう。ぼくは魔王なのでこの姿なのです」

「答えになっていません」

「知っていますか、勇者さん。とある国には“かわいいは正義”ということわざがあるんですよ」

「心配になる国ですね」

「つまり、可愛ければなにをしても許されるという意味です」

「誤解を招く解釈ですね」

「もちろん、倫理的、人道的の範囲内ですよ」

「魔王が倫理的、人道的とか言っていいんですか」

「上に立つ存在だからこそ、その辺はしっかりするんです」

「立派ですけど、魔王って魔なる存在の頂点ですよね」

「言葉の綾です」

「それで、なぜことわざとその姿が関係するんです」

「では勇者さん、頭も身体も筋肉しか詰まっていないような屈強な男性と、どこが顔かわからないくらい髭を生やした腰の曲がったご老人と、やたらと化粧の濃い香水まみれの年齢不詳の女性と、ハッと目を引くような儚げな圧倒的美少女、どれがよいですか?」

「選択肢のクセが濃くないですか?」

「選んでください」

「こんな時に魔王らしい圧を感じる……。そうですね、迷うまでもなく美少女です」

「そうでしょう。そういうことですよ」

「答えになっていないのに理解できた私の脳を褒めてほしいです」

「偉いです、勇者さん」

「ありがとうございます。頭を撫でるのは結構です」

「しゅん」

「でも、わざわざことわざを使わなくても、そのクセつよ選択肢ーズで言いたいことはわかりましたよ。他人のことなどどうでもいい私だって、隣に筋肉がいたら嫌ですからね」

「ぼくのためだけに使ったのではありませんからね」

「というと?」

「勇者さんも正義だと言いたかったんですよ」

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