第5話 鋼化のマスク

 カウンター、とボソッと聞こえる。

 またしても衝撃波はヨムを避けるように軌道を変えていた。さらに、軌道は変わり、変わってワニゲイターに向かっていった。

 強烈な衝撃波がワニゲイターを襲う。

 それは思わず前側が後ろへと吹き飛ばされそうになった。それを立夏は見逃さない。

「お腹を狙うわよ。」

 前足を糸が捉える。鋼と化した糸を動かしてワニゲイターを倒した。それは思わず仰向けとなる。

「あいよぉ!」

 地面に向けて思いっきり踏み込む。

 食いちぎってやるぜ。

 その勢いで進んだはいいものの、肝心な所でクラシンゴに邪魔をされる。俺は長い足で抱きつかれるように拘束された。

「くそっ。こんな時にっ!」

「クシブ君。うちに任せて!」

 七五三が超近距離に来る。

「私が空高くまで吹き飛ばすから、回転した牙攻撃で倒しましょう。いきますよ。」「え? はぁ?」

 至近距離から放たれる力を溜め込み放った強烈な一撃がクラシンゴを襲った。絡められてる俺を道連れに空高くまで吹き飛ばされる。吹き飛ばされた後の最高地点で拘束がとける。後は落下するだけだ。

「あっ、もう、やってやるぜ。回転牙攻撃をな!」

 俺は体を捻って回転を加えた。落下中の重量によるスピードアップに加えて、勢いつく回転。

 まるでミニ隕石。

 小さなスモール隕石ドリルがワニゲイターの腹を貫通した。

 人間離れした頑丈さと治癒力のお陰で無事に地面にぶつかった。一方で、攻撃を受けたワニゲイターはビクともしなくなった。

 そう──勝ったのだ。

「さぁて、勝利ね。持ってくもの持ったら、このままホームに戻るわよ。」

 俺らは受付に納品物を渡して、今日の任務を終えた。終わった、終わった、と肩を鳴らしていった。



 コンビニで買った惣菜を温める。

 近所迷惑の大きな音。ドアが壊れそうだ。

「おい。クシブぅ。早よ、金、払えやぁ!」

 うるさいな。

「いるんだろ。出て来いや!」

 飯が不味くなる。

 このままバックレようと、俺は煩わしい中で目をつぶる。はぁ、うるさい。

 そんな中、ガチャリ、の音。

 なぜか開くドア。

「やっぱり、いたんだな。クソ野郎よぉ。」

 取り立てのヤクザ。その後ろに家主もいる。

「まさか多額の借金を背負っていたとは思いもしなかったよ。こちらもこれ以上は背負いきれない。返済しないのならば、ここから退居することも検討してくれ。」

「とも言ってるぜ。こっちが間違ってんのか? 違ぇよなぁ? 借金返せない、お前さんが悪いんだよなぁ?」

 だからと言って、すぐに返せる訳がない。

 与えられた期日。

 俺は無理だと思いながらも承諾した。


 着々と進む返済日。もう一週間は経つ。一向に目処のつかない懐のお金。もう諦めるしかない。では、どうしようか、俺は考えた。

 相談しよう。

 いつもだったら隠してたよろしくないこの話も、ここなら話せる気がした。

 忙しい中、ほんの僅かだけ時間を取って貰った。シロクマさんは優しく頷いた。

「それはそれは困ったねぇ。」

「バイトを増やせませんか? それか給料が上がる方法はありませんか?」

「うーん。それにしても返済額が異次元過ぎるね……。」

 そこに立夏がやってきてしまった。

「こらこら、来る時はノックをしなさい。」

「はぁい。何を話してるの? 教えてよ。」

 わざわざ対面の場を設けたのに、という気持ちが出てくる。けど、俺は話すことにした。もう何とかなれという気持ちだった。

「なるほどねぇ。あんた闇金に手を出してたんだ。キャハッ。あたしが潰してあげようか? その組織さっ。」

 冗談に聞こえるはずなのに、どこか本当のように思えてしまう。俺が切羽詰まっているからだろうか。

「大丈夫。あたしならすぐに特定できるし。すぐに殲滅できるからさぁ。」

 肉食獣が獲物を見つけた時のような鋭い瞳をしている。心の底で楽しんでいるのが分かる。

「やめなさい。洒落にならないからね。」

「洒落じゃないよ。本当だよ。」

「本当なら尚更だよ。」

 話についていけない。俺はシロクマさんに助け舟を出した。それを知った立夏が喋る。

「あっ、言うの忘れてたね。あたしさ、暗殺業やってるんだよね。ホントだよ。平日は朝鮮で雇われ暗殺者やってるんだ。最近はね、個人の暗殺ばかりでちょっと飽きちゃったから、久しぶりに組織の暗殺やりたいんだよねっ。」

 俺は一瞬彼女に頼ろうと思ったが、出る言葉をグッと堪えた。

「やめなさい。あまり暗殺は勧められたことではないよ。」

「はぁ~い。」

「良かったら、ここから退散して欲しい。私からクシブ君に伝えたいことがあるからね。」

 立夏が部屋から出ていった。

 騒がしさが消えた。静まり返った部屋に二人。

「クシブ君。君はアルバイトの身だね。」

 つまり非正規雇用。正規雇用者ではない。

「危険度は上がるが、社員になれば給料は上がるだろう。しかし、君から聞いた所だと、その額は返せない。」

 シロクマさんは優しく微笑む。

「いい事を思いついたよ。条件を飲めば、私がその返済を何とかしよう。私なら無茶な請求も強引の取り立てもしない。さらに、返せるようなプランを考えておくよ。」

 俺は彼なら信用できると思った。

 そう思わせるほどのオーラがあった。

 俺は縦に首を振る。条件を言われたが聞いていなかった。何やらリポ払いと呼ばれる方法で返して欲しいのとことだった気がする。もう首を縦に振るのは決まっていたからだ。

 そのまま部屋を後にした。

 数日後、シロクマさんから呼び出しをくらった。

「君が持っていた借金は全て返済しておいたよ。君は、今度、私に返済しなければいかないね。なぁに大丈夫さ。返済は月に一回でいいんだよ。それもたった三万だけ返してくれればいいよ。いわゆるリポ払いという奴だよ。」

 借金問題は粗方かたが着いた。

 借金の相手がシロクマさんに代わった。返済の仕方が楽なリポ払いという方法で返せばよくなった。家も戻った。そして──

「さぁ正社員になるための試験を受けるためには署名が必要だよ。ここに名前を書けば受けられるよ。」

 俺は自分の名前を書いた。

 俺は返済ができるまでこの「ホープ」で働くことになった。折角長く働くことが定まったのだ。非正規よりも正規の方がいいに決まっている。

「受け付けたよ。さあ、試験の日は──」

 俺は覚悟を決めた目をしていた。

「クシブ君も受けるんだ。テスト。」

「お前も受けるのか。」

「うん。私もそろそろランクアップしたいと思ってたからね。」

 七五三も受けるみたいだ。

 どこか心強い。


 テスト当日。

 七五三とともに試験会場にやってきた。

 シロクマさんが手配したスタッフに連れてこられたのは寺がどっしりと建つ荘厳な場所だった。

「ここは覚王山。ここに何匹かのズリアンが放たれている。あなた達は今から、ズリアンを──」

 どうせ倒せばいいんだろうと思ってた。

「檻まで誘導して貰います。誘導した数で得点を競います。ズリアンには各点数が設けられており、檻に入れたら得点が与えられます。もちろん、倒しても構いませんが得点にはなりません。何か質問はありますか?」

 まさか、倒すのじゃないのか。ちょっとばかり驚いた。

 シーンとした空気。

 ああ、緊迫している。

「質問はなさそうなのでこれから試験を行っていきます。」

 落ちていく地面。広いエリアが電光の青で光る。そこにズリアンを持っていけばいいようだ。

「では、初め!」

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