第5話 孤独

 王都シャントリューゼを発ち、南に伸びる街道を進むこと数時間。


「だいぶ暗くなってきたな。よし、シュライザー。今日はここまでだ」


 道の脇でシュライザーを停止させ、ベンゼルは御者ぎょしゃ台から降りる。

 そして繋がれた馬車から外して楽にさせてから、飼葉と水を入れた桶を口元へ差し出した。

 美味しそうに食べる姿を確認すると、ベンゼルは自分の分に取り掛かった。


 慣れた手付きで調理すること数十分、料理が完成した。

 今日のメニューはクリームシチューだ。


「――いただきます」


 両手を合わせ、木でできたスプーンを口に運ぶ。


(うん、美味い)


 少し加えたスパイスがいいアクセントになっている。

 その美味しさにベンゼルは思わず表情を緩めた。


 だが、食事を続けるうちにその顔はどんどん曇っていく。


 会話一つない、静寂せいじゃくの中での食事。

 それを、ふと「寂しい」と感じてしまったのだ。



 ◆



「みんな。暗くなってきたし、今日はここまでにしよう」


 ルキウスの言葉にそれぞれ返事をすると、四人は馬車から降りた。


「えーっと、今日のご飯当番は――」

「ベンゼルだね」

「ベンゼルね。ねえ、ベンゼルー。今日のメニューは何―?」


 シュライザーに飼葉を与えているゼティアが明るい声色で尋ねてくる。


「そうだな。バターとミルクがあるから、クリームシチューにでもするか」


 馬車の中からベンゼルが言うと、外から「おおっ!」と声が上がった。


「やった! あたし、ベンゼルが作るシチュー大好き!」

「私もです!」

「僕も! いやー、楽しみだなぁ」

「フッ、そうか。待ってろ、すぐに作ってやる」


 嬉しそうな顔で調理すること数十分、具材がたっぷり入ったクリームシチューが出来上がった。

 味見をすると抜群の出来。

 小さく頷くと、今か今かと待っている三人の椀にシチューをよそった。


「はい、ベンゼル」


 自分の分もよそい終えたタイミングで、ゼティアが空のカップを手渡してくる。

 それを受け取ると、ゼティアはカップに手を伸ばす。


「【アクアボール】」


 直後、彼女の手の先に水の塊が現れ、カップの中に落下した。


「ありがとう。じゃ、食べるとするか。いただきます」

「「「いただきまーす!」」」


 ほどなくして、三人は顔を綻ばせる。


「うん、美味いっ!」

「んー、さいこー!」

「本当に! いくらでも食べられちゃいそうです!」


 その感想にベンゼルも嬉しくなって、笑みをこぼした。


「そうかそうか。おっ、そうだ。せっかくだし、お前達にも作り方を教えてやろう」

「「「あ、それはいいです」」」


 三人は口を揃えてきっぱりと断った。

 表情の切り替わりようにベンゼルは目を丸くする。


「な、なぜだ?」

「んー? だって食べたくなったら、ベンゼルに作ってもらえばいいし!」


 ゼティアの言葉にルキウスとフィリンナがうんうんと頷く。

 そんな彼らにベンゼルは苦笑した。


「お前らなぁ……。まあいい。ほら、ルキウス。お代わりを入れてやる」

「あっ、あたしもちょうだい!」

「私にも!」

「わかったわかった。順番だ、少し待て。まったく、俺はお前らの母親じゃないんだぞ」


 口ではそう言うも、ベンゼルの顔は嬉しそうだった。



 ◆



 もう二度と叶わない、仲間達と過ごす楽しい食事の時間。

 そんな記憶を振り払うように、ベンゼルはぶんぶんと頭を振った。

 そして残りのシチューをよく味わいもせずに食べ終えると、シュライザーに声を掛けてから腕を枕に目を閉じた。

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