軍内談

※エリナたち泥棒チームの作戦会議の話。第60話の裏側です。



「で、どうする? あたし絶対掃除はやりたくないから」

「俺もだな。暑いし疲れるだろ」


 エリナとまことの言葉に、貴一きいちは言葉を返す代わりにため息をつく。

 八尋やひろたちとは別室で、エリナたち泥棒チームは作戦会議をしていた。


「こっちは警察チームのリーダーを捕まえたら勝ちっすよね。てことは、四人で一斉にリーダーを狙えば勝てるんじゃないんすか?」

「それはあまり得策ではない。リーダーが分からない上に、仮に狙った奴がリーダーではなかった場合、他から一網打尽にされて負ける。そこは慎重に行くべきだ」


 貴一の言うことはもっともで、恭平きょうへいは「なるほど……」とつぶやいて次の作戦を考えていた。

 頭を悩ませる恭平を見て、窓際で外の風に当たっていた誠が声をかける。


「それなら、一人ずつ相手にさせる環境を作るとかはどうだ? それで誰かがリーダーを捕まえられたらおんの字ってことで」

「いいんじゃない? こっちなら一人ずつでも相手にできる実力はあるだろうし」


 誠の問いに、ウォーミングアップと言わんばかりに、魔術の『風』を具現化してエリナは言う。

 誠の作戦はそれなりに筋が通っていて、貴一も否定せずにうなずく。


「向こうが固まるのは間違いない。そうなると、相手チームをどうやってばらけさせるかだな」

「それだけど、貴一が最初に待ち構えてるってのはどうだ?」

「俺が?」

「貴一がいれば誰かしら止める奴が出てくるだろ。いきなりリーダーが捕まるわけにはいかないし、そこで確実に一人は引き離せると思う。あと貴一が最初に来るって想像しないだろうからな」


 誠の言葉に恭平は苦い顔をした。


「たしかに、青山あおやま先輩がいきなり来たらビビるっすね……」

「だろ? あと、その時点で貴一に立ち向かう奴がいたら、そいつはほぼ確実にリーダーじゃない。灰谷はいたにだったら分かんないけどな」

「それで、残った三人を俺たちが相手にするってことっすか?」

「そうそう。もう一回同じようにできれば二対二になる。これがうまくいけば、俺の予想では残った二人のどっちかがリーダーになるはずだな」


 誠の提案は思い切っているが相手の行動を踏まえた上の作戦で、それを聞いた恭平が嬉々ききとして手を挙げる。


「その引き留める役、俺やりますよ! 運動神経は自慢じゃないけどいい方ですし、親戚の家行ったときとかはいつも山で遊んでたんで!」

「引き受けるのはいいが、もし二人で向かってきた場合は対応できるのか」


 貴一に言われ、その可能性を考えていなかったであろう恭平は弱々しく手を下ろして目をそらした。

 その反応が面白かったのか、誠は笑いながら仲裁する。


橙野とうのにとってもいい機会だから任せてもいいんじゃないか? せっかくの合宿だからな」

「じゃあ、あたしと緑橋みどりばしで残りの二人を相手にするってこと?」

「そういうことだな」

「いいけど、魔力切れだけはしないでよね」

「任せろって。逃げるだけなら異能力を使わなくても問題ないからな」


 エリナと誠はその場で作戦会議を始め、話が進んでいく二人を貴一が止める。


「それはあとでやれ。大まかな動きは決まったから、残りの時間は誰を相手にした場合の動き方を決める」

「作戦会議もいいけど、リーダーが誰か予想するのはどうだ? 俺は順当に灰谷だと思う」

「あたしは赤坂あかさか。誰かに推薦されたら断れなさそうだし」

「じゃあ俺は桃園ももぞのさんっすね。意外と立候補しそうかなって」


 作戦会議より盛り上がる三人を見て、貴一は諦めたのか黙って話を聞いていた。


「貴一は誰だと思う? 黄崎きさきか?」

「誰がリーダーでもいいだろう。向かってきた奴全員がリーダーだと思え」


 期待した返答ではなかったのか、誠だけでなく恭平とエリナも不満そうにしていた。

 その後は貴一によって軌道修正がされ、エリナと貴一という学年主席二人と、それに引けを取らないほど頭がいい誠の会話がサクサクと進んでいき、恭平は頭がパンクしながらもついていった。


「じゃあそんな感じで。あとは各自臨機応変にな」


 誠の言葉で作戦会議は終わり、エリナたちは八尋たちがいる部屋に戻っていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

色彩の守護者+ 桜井愛明 @tir0lchoco

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ