第14話 レヴィン、勧誘する
シーンを紹介し、アシリアとシーンの装備品を渡したレヴィンは、シュタッ!と手を上げると、家から飛び出した。後ろでは「忙しない子だね」とリリナがボヤいている。
「さぁ、お次はダライアスだ」
レヴィンはそう言うと、勢い込んでダライアスのお宅訪問に向ったのだが、あいにく家は留守であった。ちなみに住所は小学校の時の名簿を見て確認した。掘り起こした記憶によれば、彼の一家は農家なのである。家族構成は、父、母、ダライアス、妹の四人家族だったはずだ。と言うことは農業区画に居る可能性が高い。約束していた訳ではないので留守なのは仕方がない。レヴィンはすぐに切り替えて王都西側へ向かうことに決めた。グレンから農民や農奴は、西のトータス地区に多く住んでいると聞いていたからだ。
「ねぇ、レヴィン。ダライアスの居場所に心当たりはあるの?」
「ないんだな。これが」
アシリアがこっそりと囁いてくるが、レヴィンはまだ思い出せていなかった。現場に着いたら農家の人たちに片っ端から聞いてみる他ないだろう。しばらく歩いて三人はようやく西門付近に到着した。そこには一面のリラ麦畑が広がっていた。とは言っても、まだ穂が実っている訳ではなく、出芽したばかりの状態のようだ。お陰で、どこに農家の人がいるのかすぐに把握できた。早速、ダライアスの名前を出して聞き込みを開始すると、あっさりと畑の場所が判明した。西の城門からそれほど離れていないようでレヴィンはホッと胸をなで下ろす。結構な距離を歩いたので、アシリアたちが疲れていないか心配だったのだ。
三人で教えてもらった場所へ向かって歩いていると、レヴィンは少し離れた場所で作業する少年の姿を捉えた。レヴィンの脳に電気信号が走る。どこか見覚えのある顔だ。恐らく彼がダライアスだろうと判断したレヴィンは大声で呼び掛けた。
「おーい! ダライアス!」
「おう。レヴィンじゃないか。久しぶりだな。どうしたんだ?」
顔を上げてこちらに手を振るダライアス。レヴィンは人違いではなかったことに安堵し、手を振りかえした。頼むから探求者の件も覚えていてくれよ!とレヴィンはこの世界のまだ見ぬ神へ祈りを捧げる。
間違ってもあの自称神には祈らない。祈るつもりもない。
「昔話してたろ? 探求者になるって。んでパーティを組もうと思って仲間を連れてきたんだ」
その言葉にダライアスの表情が曇る。それを見てレヴィンの心拍数が跳ね上がる。
「どうかしたのか?」
「いや。実は親父に反対されていてな……」
「いつから反対されてんだ?」
「十二歳の誕生日の時からだよ。あれから何度も頼んではいるが、今日(こんにち)に至るまで説得できず……と言う訳さ」
取り敢えず、約束の記憶が確かであったのは喜ばしいが、三年間も説得に応じない父親の存在は想定外だ。レヴィンはダライアスに近づくと、そっと耳打ちした。
「えっと……父ちゃんの名前って何だっけ?」
「名前? ああ、ノーブルだよ。忘れたのか?」
「いや、ちょっと頭の調子がおかしくてな」
「ハハッ! 何だよそりゃ! と言うかしばらく会わない内に何か変わったな」
ダライアスはレヴィンが冗談を言ったと思ったのだろう。変化にも気付いたようだが、レヴィンとしてもわざわざ誤解を解く必要もないので言葉を濁して誤魔化した。既にレヴィンの思考はどうやってノーブルを説得するかに移っていた。彼は、三年間もダライアスが探求者になることを許さなかったほどの頑固者だ。農家の長であるノーブルとしては貴重な働き手を失うのが嫌なのだろう。危険な仕事をさせたくないというのもあるかも知れない。とにかく話しながら考えようと、レヴィンは近くにいたノーブルと思われる人物に声を掛けた。
「ノーブルさん、こんにちは」
「おう、坊主か。久しぶりだな。何か用か?」
「実はこの度、探求者のパーティを結成することになりまして……ダライアスが探求者になるのを認めて欲しいんです」
「駄目だ。農家にとって人手不足は深刻だ。見ろ。この辺り一帯は全て俺の畑だ」
ノーブルは即答すると、真剣な顔をレヴィンに向ける。ノーブルが両手で指し示すその先には広大な農地が広がっている。有無を言わせぬその雰囲気に気圧されることなく、レヴィンは真っ向から彼の瞳を見つめ返した。
「探求者になれば良いお金になります。作業効率を上げる農機具だって買えるでしょう」
「正直言って駆け出しのお前たちにそう易々と金が稼げるとは思えんな」
「僕は一度の依頼で金貨を二十枚以上、手に入れました」
「なんだと……!?」
ノーブルの手が止まり、レヴィンの方を凝視してくる。
レヴィンは喰いついてくれたと心の中でガッツポーズを決める。
「それも初任務でその額です。魔物は魔核や素材になりますので売ればお金になります」
「……」
ノーブルが沈黙する。予想以上の報酬が見込めると知って心が揺れているのだろう。レヴィンが一気にたたみ掛けようと口を開きかけたその時、ダライアスが割って入った。
「親父! 俺からもお願いだッ! デリアの学費だって稼いでみせるッ!」
それを聞いたレヴィンは思わず心の中で頭を抱えた。レヴィンにはノーブルの考えが理解できた。デリアと言うのが妹なのだろうが、ここで彼女をダシに使うのは悪手である。
「金は大人である俺がなんとかする。子供が口を挟むことじゃねぇ」
そう言うとノーブルはぷいッと顔を背けて作業に戻ろうとする。それでもレヴィンは諦めない。アシリアとシーンも成り行きを固唾を飲んで見守っている。
「他にもメリットはあります! 獣を狩ればその肉を得ることもできます」
「……」
「まずは春休み中の手の空いた時に彼を連れて行く許可を頂けませんか? それに四月からは休日のみの活動になります。農作業に支障をきたさないと約束します!」
「……」
「親父ッ!」
ノーブルは耳を貸さない。態度は頑なだ。
するとダライアスは「もういい……」と呟くと、レヴィンに言った。
「探求者ギルドに行こう。パーティ登録もしなくちゃならないんだろ?」
そう言うとダライアスは、手に持っていた雑草を放り投げて早足で歩き出した。放ってはおけないので、レヴィンたち三人はノーブルに頭を下げてダライアスの後を追った。
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