第12話 レヴィン、大いに憤る
レヴィンが神にクレームを入れて、パシリ神から意外な事実を教えられた日の午前中のことである。
レヴィンは目を閉じて眉間に皺を寄せていた。ことの真相が明らかになった今でも、『あの時』のことを思い出すと本当に腹が立ってくる。
ここはアウステリア王国と言う国の王都ヴィエナ。レヴィンが暮らす国だ。この日、レヴィンは幼馴染の少女アシリアと、その友人であるシーンと共にカフェで交流を深めようとしていた。
『あの時』と言うのは、藤堂高志が『レヴィン』と言う名の少年として覚醒した時のことだ。パシリ神に聞いて異世界転生の舞台裏を把握したレヴィンであったが、やはり腹は立つものだ。真っ白な空間の中で、あの胡散臭げな
「放置だと? 復元中だと? 適当過ぎんだろ……」
レヴィンは自我を取り戻した時のことを思い出す。
高志が目を覚ましたのは、自宅の殺風景な部屋のベッドの上であった。
取り敢えず、自分が赤子ではないと理解した高志は、すぐさま状況の把握に全力を向けた。自室を片っ端から調べ、更に家族から怪しまれない程度に聞き取りを行った。そして判明したのは、自分がレヴィンと言う名前で歳は十四の男であり現在、シガント魔法中学校に通う二年生――間もなく新三年生になると言うことであった。
家族構成は、父、母、妹で薬屋を営んでいる。両親は昔、
更に学校では毎年、国お抱えの鑑定士による能力鑑定が行われているらしいのだが、中学二年時の結果はレベル6の暗黒導士で、覚えている魔法は学校で習うものだけと言う始末であった。ちなみに加護は文字化けしており、判読不能だったようだ。その時は加護など実装されていなかったのだから当然と言えば当然である。覚醒したレヴィンの行動は速かった。魔法のことをヘルプ君を呼び出して聞き、教科書を確認した後、更に王立図書館に通い詰めて片っ端から魔法書などを読み込んだので多少は状況が理解できた。学校以外でも習得できる魔法はいくつも存在するのだ。
「インストール前のレヴィンにはダミーのエントリー○ラグでも入ってたのか?」
この事実を思い出す度に、どうしてこうなったのかとレヴィンは怒りに襲われる。生まれた時から高志としての自我があったなら、レヴィンの十四年間はもっと有意義なものとなっていただろう。あの自称神が言っていた通り、
だが、考えを巡らせていく内にレヴィンは少し冷静になった。毎年鑑定されるのなら、下手に色々な職業や能力を習得していないのは、別に悪いことではないかも知れない。痛くもない腹を探られるのは避けたいところである。しかし、何か抜け道があったかも知れないのだ。実際、パシリ神はステータスを偽装する魔法を実装してくれると言う。これで春休みに他の職業レベルを上げても今年の鑑定で騒ぎになることもないだろう。それを考えると、空白の十四年間はあまりにも惜しい。こんな葛藤がレヴィンの中で何度も繰り返し行われていた。
「あー、だけどこう言う結果になった今だからこそ言えることなんだよなー」
そう頭を掻きむしりながらレヴィンは言う。
レヴィンは思考のループにハマり込んでいた。
「……ン! ……ヴィンってば! ねぇ聞いてるのレヴィン!」
その声にレヴィンはハッと俯いていた顔を上げる。
「ん? アシリアどうした?」
「え~、急に黙り込んでぶつぶつ何か呟いてるからどうしたのかと思って……」
「えっと悪い悪い。俺から誘っておいてゴメンな」
現在は春休み中である。十四年間の記憶が曖昧なので、友人がいるかも不明な中、幼馴染がいてくれたのは大きいとレヴィンは考えていた。彼女の協力も得て過去を取り戻すべく、レヴィンは『中学三年デビュー計画』を発動したのだ。自我を取り戻したレヴィンは短時間で状況を把握し、カルマへの護衛任務を受ける前にアシリアに協力を要請していた。
強くなるために一緒に
「レヴィンが急に誘うからあたしびっくりしちゃった!」
「どうして私も……?」
「いやな、今までの俺は俺じゃないって言うか……。まぁこれから新しい自分として生きていこうって決めたんだよ」
「新しい自分? なぁに? 宗教か何かみた~い!」
「……哲学」
アシリアの少し甘ったるい笑い声がレヴィンの耳をくすぐる。
シーンは何か勝手に悟っているようで、どこか納得顔をしてうんうんと頷いている。
「それにパーティの仲間だ。俺がアシリアとシーンを誘うのに理由はいらないだろ?」
レヴィンの言葉に二人は納得の笑顔を見せる。それを見てレヴィンの心はとてつもなく癒された。今なら自称神の狼藉も我慢できそうなほどだ。
「後、アシリアは付与術士でシーンは光魔導士だろ? 魔法陣を教えて欲しいと思ってさ」
「あたしはいいよ~。」
「他の職業の魔法陣を覚えても無駄……何故?」
この国は
「もちろん、俺が強くなるためだよ」
「……?」
シーンはレヴィンの回答には納得していないようだが、レヴィンは今はまだ秘密を打ち明けるつもりはなかった。別にこの世界にいるはずの他の異世界人との接触は恐れていない。それでもまだ仲間に全てを話すには時期尚早であると思っていた。
「お~! レヴィンが燃えてるよッ!」
「熱血……」
「後は計画通り、俺たちで探求者のパーティを組む。そして世界最強を目指そう!」
聞けば二人共、十二歳の時に探求者の登録だけは済ませているらしい。
と言っても、魔物との戦闘は中学校の課外授業でしか経験がないようだ。どうやら騎士中学校と魔法中学校が合同で、生徒たちに魔物との戦闘経験を積ませているようなのだ。
「わわッ! 前に言ってた通りやっぱりパーティ組むんだねッ! シーンを誘った甲斐があったよ~!」
「でも……三人共魔導士……」
「前衛を任せられるのはヤツしかいない。ダライアスだッ!」
以前、アシリアとレヴィンの交友関係について話していた時、彼女がダラ何とか君と口走ったお陰で思い出した内の一人がダライアスである。
「小学校の同級生……? 今は……?」
シーンも彼のことは何となく覚えている様子だ。レヴィンはそう言いながら心の中で彼の名前を連呼していると、段々と思い出してくるのが分かる。やはり少しずつではあるが、記憶は戻ってきているようだ。これからも何かをきっかけに思い出すこともあるかも知れない。パシリ神は記憶を復元中だと言っていたし、その内記憶も戻るだろうとレヴィンは楽観視していた。自分の力が及ばないところにある問題に頭を悩ませても意味などない。ダライアス――農民の家に育った同い年の少年で小学生の時の親友だ。レヴィンの記憶が確かならば将来、探求者になる約束したはずである。
「確か今は家の手伝いをしてたはず。直ちに勧誘に行くぞッ!」
「お~!」
「……」
レヴィンの意気込みに応えてアシリアは右手を大きく掲げた。シーンも少し恥ずかしそうにそれに倣っている。レヴィンはそれを見て、またしてもほんわかと癒されていた。
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