追いかけっこ

王生らてぃ

本文

 真希ちゃんとは小さいころからいつも一緒で、時々お互いの家に泊まったり、一緒に旅行にいったりする。

 小学校も中学校もずっと一緒で、この先の人生もきっと、ずっと一緒にいるんだろうと思っていた。

 だから、真希ちゃんがわたしとは違う高校に進学すると聞いた時は、少なからずショックを受けた。


「なんで?」

「なんでってことはないでしょ。別に……理由なんかないよ」


 ショックだったけど、別に、わたしには真希ちゃんの人生にとやかくいう権利はない。

 学校が離れても、もう二度と会えなくなるわけじゃない。きっと土日は一緒に遊べるし、夏休みや冬休みには旅行にだって行けるだろう。高校生なんだからバイトをして、家族と一緒にじゃなくて、ふたりきりで旅行に行くのもいいかもしれない。


「ねえ真希ちゃん、春休みはさ、またどこかに遊びに行こうよ。温泉とか……」

「えっ、なんで?」

「なんで、ってことは……ないでしょ」

「ああ、ごめん。別に、変な意味じゃなくて」


 じゃあどんな意味だろう。

 今まで、一緒に遊んだり、どこかに行ったりすることに、理由なんてなかった。

 それを、「なんで?」だなんて、わたしと真希ちゃんは理由がなかったら一緒にいちゃいけないのだろうか。


「ごめん、春休みはちょっと。わたしの行く高校、レベル高くてさ、あんまり遊べないんだ。授業についていけるようにしないと」

「そ……っか、そうだよね。真希ちゃんはわたしと違って頭いいもんね」

「うん、だからさ、ごめん」

「あっ、じゃあ、ゴールデンウィークはさ、映画見に行ったりとかさ……」

「うん、そうだね」


 本当に、わたしの話、聞いてる?


「じゃあ、わたしこっちだから」

「えっ? 家はこっちだよ」

「今日は塾。それじゃあね」


 真希ちゃんはわたしの知らない道を、軽やかに走っていく。

 とても楽しそうだ。それに忙しそう。

 わたしは、真希ちゃんと一緒に家に帰ったり、買い食いしたりすることもできなくなってしまったのだろうか。

 わたしは真希ちゃんのことが好きだし、ずっと友だちでいたいと思っている。今のまま、ずっと、お互いに同じ距離感でいられたらそれだけでいいのに、それもできないのだろうか。


「おはよ」


 次の日、真希ちゃんは何事もなかったかのように、普通にあいさつをしてくる。


「お……おはよう」


 でも、それっきり。

 わたしたちの会話はここで終わる。

 なんだか、わたしたちの間には距離ができてしまったかのようだ。何とか埋めなおさなきゃ、元に戻さなきゃ。小さい頃からずっとそうだったように、同じくらいの距離感に。




 放課後、わたしは教室から出て行こうとする真希ちゃんを捕まえた。


「ね、真希ちゃ――」

「ごめん、急いでるから、」

「待ってよ。どうしていつもわたしのこと避けるの? なんで? わたしうざい? わたし、真希ちゃんに嫌われるようなことしちゃった? 元に戻ってよ」

「別にそんなんじゃないよ。そんなこと思ったことない」

「うそ。わたしのこと、鬱陶しいと思ってるんでしょ」

「うん、まあ、今は結構鬱陶しいかな。急がないと塾、間に合わないからさ、ごめん」


 そうなんだ。

 わたし鬱陶しいんだ。邪魔なんだ。真希ちゃんにとってわたしはそういう重い存在なんだ。


「ごめんね」

「また今度ね、埋め合わせするから、ごめん、それじゃね」


 また今度?

 それっていつ? 埋め合わせってなに? 本当にそんなことするつもりある?

 ――なんて聞けない。真希ちゃんはもう教室を出てしまっている。




 わたしは真希ちゃんの側にいないほうがいいのかもしれない。

 でもわたしは真希ちゃんとずっと一緒にいたい。でもそれはわたしのわがままだ。

 どうすればいいんだろう。




 もしも、わたしが真希ちゃんの前から消えたら、真希ちゃんは寂しがってくれるだろうか。

 そうだ、わたしが真希ちゃんから離れれば、今度は真希ちゃんがわたしを構ってくれるようになればいいんだ。

 わたしは四階の、みんな帰ってしまった教室の窓に、足をかけた。

 真希ちゃん、わたし待ってるからね、できればすぐに会いに来てね。

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追いかけっこ 王生らてぃ @lathi_ikurumi

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