37話 高円寺楓

次の日、私はテスト期間中休みだった生徒会が再開し、仕事をしていた。


「上田一樹!ちょっとこちらへいらっしゃい」


「はい」


楓さんに呼ばれ、私は返事をすると近くまで行く。


「なんで呼ばれたか、わかるわね?」


「はい。わかります」


「それじゃあ…」


これから楓さんとキスをする。




わけではなく…。


「こことここ。直してね」


「す、すみません!すぐに直します!」


そう言うと、すぐに自分の席へと戻り、楓さんが指摘した部分を修正する。


本日数回目のミスを…。


いつもなら、しないミスまでして…。


私は、集中することが出来ないでいた。


決して、体調が悪いわけではない。


あることを考えると集中出来ないだけ…。



それから、他の生徒会メンバーが自分達の作業を終わらせると、私の手伝いを申し出てくれる。


だけど、私のせいで帰りが遅くなるのは申し訳なく、断ることにした。


次々とメンバーが帰り、残ったのは楓さんと私だけになる。


「上田一樹、ちょっとこちらへ」


「はい…」


私は、またなにかミスをしてしまったのか、と考えながら楓さんの元へと近づく。


「あなた…今日は集中できていなかったみたいだけど、どうしたのかしら?」


「すみません…」


「なにか困ったことがあるなら話してちょうだい?」


「い、いえ!大丈夫です!」


「本当に?」


心配そうにする楓さんにこれ以上嘘はつきたくないと思い、正直に話すことにした。


「実は…」


「実は?」


「あることを考えると集中できなくて…」


「あること?」


「はい…あのですね…」


「ええ」


「楓さんといつキスをするのかなって…。今日なんじゃないかって…。ちゃんと上手くできるかなって…」


私のまさかの理由を聞き驚いた顔をする楓さん。


だけど、すぐに戻すと微笑み私に言う。


「ふふ。わたくしとのキスのことを考えてくれていたのね」


「はい…」


「嬉しいわ。ただ…そうね…」


楓さんがそう言い少し考えると続ける。


「うん。今ここでしましょうか」


「え…?」


私が戸惑い固まっていると、楓さんに手を引かれソファーへと連れられる。


「か、楓さん!?ここで、するんですか!?」


「ええ!もちろんよ!本当は別の場所を考えていたのだけれど…」


「な、なら…」


「よく考えたら、あなたとの思い出がたくさん詰まったこの場所も良いと思うもの」


「じゃ、じゃあ!せめて私からさせてください!」


「あら?わたくしからでもいいのよ?」


「いえ!私からしたいんです!」


そう言うと、楓さんを抱きしめる。


楓さんも抱きしめ返してくれる。


それから、二人で見つめ合う。


これから、楓さんとキスをする。


楓さんの大切なファーストキス。


優しく。


初めてがあなたでよかったと思ってもらいたい。


私に上手く出来るのだろうか。


そう考え意識すると、緊張して動けないでいた。


私からするって言ったのに…。


そんな、私に気づいたのか楓さんが言う。


「ふふ。緊張してるのかしら?」


「は、はい…すいません…」


「わたくしもよ…触ってみて…わかるかしら」


そう言い、私の手を自分の胸へと当てる。


「か、楓さん!?」


楓さんの柔らかい感触にさらに鼓動が早くなる。


「あらあら、余計緊張させちゃったわね」


「うぅ…ごめんなさい…」


「謝らなくていいのよ。そうねぇ…一回気持ちを落ち着ける為に、目をつぶってみなさい」


「は、はい」


私は楓さんに言われた通り、目をつぶる。


すると、突然なにかが唇に一瞬当たる感じがした。


驚き目を開けると楓さんの顔がすぐ近くに。


「か、楓さん…今のって…」


「ふふ。これでわたくしのファーストキスはあなたのものよ」


こうして、楓さんとの初めてのキスがあっさりと終わった。





のだけど。


私が、楓さんとの初めてのキスに緊張していることに気をつかい、あっさりと終らせてくれたのだろう。


楓さんの優しさなのはわかる。


でも、納得はしない。


そう思い、あることをする。


「楓さん」


「どうしたの?」


「楓さんも目をつぶって、気持ちを落ち着かせましょうか」


「ええ、そうするわね」


楓さんが目をつぶる。


きっと、楓さんは気づいてるはず。


だけど。


私は楓さんの唇へと自分の唇を近づける。


楓さんの思い出に残る初めてのキスをもう一度やり直したい。


そう考えると、先ほど緊張で動かせなかった身体も動かせた。


そして、唇を重ねる。


そっと優しく。


少しでも長く。


お互いがお互いの唇の感触を感じれる様に。




その後二人で余韻に浸ると、話す。


「楓さん、こっちを初めてのキスにしましょう」


「あら?どうして?」


「楓さんの大切なファーストキスだったのにあんなあっさりじゃ…楓さんに悪いですよ…」


「ふふ。あなたはほんとに優しい娘ね。ただ…」


そう言い私の唇に二本の指を当てる。


あれ…。


なんだろ…。


最初と同じ感触なような…。


「ふふ、気づいたかしら?」


「か、楓さん…?もしかして…」


「ええ、そうよ。少し意地悪だったかしら。でも…」


そう言い、自分の指を唇に当てる楓さん。


「これで、本当にわたくしのファーストキスはあなたのものね」


そう言うと、楓さんは私を抱きしめて耳元でささやく。


「あなたからのキス…素敵だったわよ。これからもたくさんしましょうね」


その言葉に顔を真っ赤にしながら思った。


あぁ…やっぱり楓さんには敵わないな…と。


こうして、楓さんとの初めてのキスが終わった。

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