第20話 入った

 俺のいつもの日常に優奈たちが加わった。

 

 悠生と大志と他愛もない話をしたり、バイト先の喫茶店で忙しなく働きながらスタッフたちがメイドをエッチな目で見るのを離れたところからみたりと。


 自分の居場所とそうでない場所。


 これまでは、そういった区別がちゃんとついたけど、優奈たちはどうなんだろう。


 優奈、楓さん、奈々。

 

 一つ確かなのは、優奈を家の前まで送りながら話し合ったり、奈々と楓さんとアインでやりとりをしていくうちに、俺の心の中で三人の美女の存在感は大きくなっているような気がした。


「……」


 しかし、決して勘違いをしてはならない。


 彼女たちが俺に興味を示すのは2年前に優奈を救ったからで、それ以外の何者でもない。


 彼女らが向けてくる好意を変に解釈するべきではない。


 そもそも、優奈と楓さんはレベルがあまりにも違いすぎて、を想像することも悍ましく思えてくる。


 みたいなことを思いながら優奈の家の前にくると、携帯が鳴った。


 俺と優奈と奈々からなるグループチャット。


『ナナ:ごめん急用ができちゃって、私は参加できない。司っちと美人姉妹でいっぱい楽しんでね〜』


 え?ナナってこないのか。


 急用か。


『優奈:ナナ……わかった』


 俺は大きなタワーマンションの入り口の前に立つ


 結構厳しい警備が敷かれている。


 楓さんは大人気女優であることから、こんなところに住むのはある意味理にかなっている。

 

 優奈が住んでいるところの号室の数字を入力し、ドアを開けてもらいエントランスを通った。


 エレベーターの窓に映る俺の姿を見る。


 確かに垢抜けした格好だが、優奈とはとてもじゃないが釣り合うとはいえない。


 優奈はもっとイケメンで女性への扱いが上手な人と付き合うのだろうか……


 それが自然の摂理だろう。


「なんで優奈が出てくるんだ……」


 彼女が向けてくる熱い視線。


 そして、楓さんが見せたドス黒いオーラ。


 俺は首を左右に振って我に返ると、優奈たちが住む階についた。


 そしてドアの前でベルを鳴らす。


 カメラで俺の様子を確認してからドアを開けてくれた。


「あ、司くん!こんにちは!」

「こんにちは」


 優奈が俺を笑顔で歓迎してくれる。

 

 短いタータンチェック柄のスカートと灰色のニットの組み合わせで、雑誌とかで見かけるトップモデルがそのまま顕現したのかと思った。


 彼女の真っ白な長い生足は微かに震えているように見えて、灰色のニットは彼女の細い腰と実に凶暴なマシュマロを余すことなく強調してくれており、混ざりっ気のない象牙色のうなじからはいい香り漂っていた。


「……」


 本当にこの美貌だけはいまだに慣れない。


 俺が戸惑っていると、優奈は俺の右腕を彼女の谷間に埋めて俺を引っ張る。そして俺に耳打ちした。


「司くん、

「っ!う、うん」

 

 一瞬、彼女の亜麻色の髪が俺の頬に触れ、脳に電気でも走ってるのかと思った。


 彼女の胸が成す極上の柔らかさを感じつつ、俺は中に入った。


 優奈に導かれキッチンへいくと、そこにはジーンズとシャツ姿でエプロンを掛けて料理をしている楓さんがいた。


「あら司、

「こんにちは……」

「オシャレもして、とても格好いいわ。くっついている二人を見ると、完全にカップルね〜うふふ」

「い、いいえ!そんな、とんでもありません!俺なんかが!」


 俺はびっくりして、優奈の胸に埋没されている自分の腕を引いて彼女から離れた。

 

 すると、優奈は俺を睨んできては、何かを必死に我慢するような表情を浮かべる。

 

 俺が困り顔でいると、楓さんがにっこり笑いながら、口を開いた。


「もうすぐ料理出来上がるからリビングで待っててね!」

「は、はい!」

 

 彼女の優しい視線に俺は一瞬体が固まった。


 ひっつくジーンズを履き白い無地のシャツを着ただけだのにどうしてこんなにも綺麗なんだろう。


 ファッションの完成は顔とは良く言ったものだ。

 

 黒い髪、整った目鼻たち、綺麗な蒼い瞳、優奈を凌駕する爆のつく胸、驚くほど細い体、優奈より高い身長。


 あまりにも美しくて、俺は言葉を失った。


「司くん、リビングに行くわよ」

「あ、ああ……」


 優奈は頬を若干膨らませていた。


 非現実のような光景だ。


 リビングには、分厚い映画の台本や楓さんが登場する映画のポスター、トロフィー、芸能人たちや他の映画俳優たちと撮った写真が飾ってある。


 俺はまたもや言葉を失ってしまった。


 こんなすごい人が、俺のために料理を作ってくれるのか。


 おそらく楓さんのファンが知ったら卒倒するのだろう。


 しばし楓さんが登場する映画を見て待っていると、楓さんが料理を完成させ、その料理たちを食卓に並べている。

 

 しかし、


「ん……重い……」


 楓さんは大きな鍋が重いのか、よろよろしている。

 

 鍋の中には熱いものが入っているはずで、もし楓さんの肌が傷ついたら大変なことになってしまう。


 俺のために作った料理で火傷する楓さんの姿は見たくない。


 だが、


 不幸にも楓さんは後ろに倒れようとした。


「あっ!」


「危ないです!!」

「お姉さん!!」


 俺は立ち上がり、早速楓さんの後ろに回り込んで、彼女を後ろから抱きしめるように抑えて楓さんの両手を強く握り込んで鍋も抑えた。


 ていうか作りすぎだろ……


 男の俺が持つのもしんどいぞ。


 幸いなことに鍋はこぼれずに無事だ。


 ふう……よかった。


「あ……」


 俺は気がついた。


 彼女の頭は俺の顎に収まって、背中は俺のお腹に密着していて、彼女の柔らかいお尻は俺の股間に擦れ合っていることを……


 しかも、楓さんの両手は俺の両手によって完全に自由を失っている。


 大人気映画女優の楓さんの体が俺の体と完全に密着しているのだ……


 早く離れなければ……


 そう思って体を動かそうとしたのだが、


 楓さんが頭を上げて俺を見つめてきた。


「あらあら……私を助けてくれたのね……優奈の時と同じく……っ!!っ……私、……はあ……」

「っ!!!」


 彼女はとろけ切った青い目を俺に向けてきて、熱い息を吐いている。


 楓さんの甘美なる吐息が俺の口と鼻腔に入って、名状し難い雰囲気を醸し出す。


 彼女の視線は俺を完全にロックしていた。


 の、飲み込まれる……


「っ……」


 だが、俺はハッと目を見開いて楓さんから目を外して優奈の方を見つめる。


 すると、優奈は綺麗な青い目を潤ませて嬉しそうに俺たちを見つめた。


 優奈の後ろには数多くのトロフィーや楓さんが主演として登場する映画のポスターの数々や、有名な芸能人と俳優たちと一緒に撮った写真などが見えてきた。


「……」


 再び視線を楓さんのところへ戻したら、彼女は穴が開くほど俺をじっと見つめていて、体を俺に預けていた。







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