第55話

「頭が働かない体調でミスをしたなら、フォローする体制がある。良い事だなぁ」

「あんたが言うな! ウチ、あんたのこと嫌い!」


 そうそう、ハンネはこうでなければな。


「マリエっ!――キメラさんはここに居る! 数百年も生きた苦しみから解放され、全てを俺に託したんだ。――もう静まれ!」


 ニーズヘッグの姿をしたマリエは天を仰ぎながらしばし瞳を閉じ――『エミュレッタ様……』と謎の神の名を囁き――手を組んで祈りを捧げる修道女姿へと戻っていった。

 恐らく、キメラさんの冥福を祈っていたのだろう。


「だから誰なんだよ、その神様! 他の人の口から聞いたこともないんだけど」

「エミュレッタ様は富と女性の守護を司る――」

「それはもう良いって!」


 マリエには俺の配慮不足で『大人の』男性へのトラウマを植え付けてしまった。

 それでも工夫をして俺に勉強を教えてくれたり、先日は連日連夜の見張りをしている俺の体調まで心配してくれた。

 間違いなく、少しずつ心を開いてきてくれている。

 このパーティーメンバー……いや、チームは1人としてまともなやつがいないが、協力しようと歩み寄ってきている。

 俺は――この仲間達を信じる!


「ハンネ! カーラと一緒に炎魔法を使いながら、ニーナへ支援魔法や回復魔法の付与を御願いできるか?」

「――へ?」


 こっちはこっちでドタバタしていたが――奥ではニーナが立派な鎧をシムラクルムによって扇情的なまでに壊されており、間違いなく劣勢だった。


「ちょ、ニーナ大丈夫!?」


 慌てて回復魔法とパワー強化系の支援魔法を繰り出した。


「大丈夫よ、不思議と前より力が出てくるし! それに、ハンネの支援魔法も凄いわね!――いくわよ豚さんッ!」

「馬鹿な!……貴様等の取るに足らぬ天啓レベル如きで、何故ここまでの力が出る……っ」


 そこで俺は――すっかり忘れていた自分の〈ギフテック〉の1つを思い出した。


「……そういや、俺って『女性パーティーメンバーの強化』とかいう〈ギフテック〉持ってたっけ」

「なんだとぉ!? ふざけるな、そんなハーレムチートスキル、そこの女からの報告書には無かったぞ!――臭……っ!」

「臭いとか、乙女に言うなぁ! あんた、絶対に逃がさないからね!?」

「くさっ! 力が、力が抜けるだとぉっ? 貴様、臭いを根源に相手を弱体化させているのか!」


 ハンネに文句を言った隙に――ニーナから跳び関節技をかけられそうになったシムラクルムが必死に避けつつ、鼻を押さえた。

 最初は恐ろしく早くて、俺では全く見えなかった動きも――今では随分と鈍っている。


「……いやぁ、課外授業でも全く片鱗を見せなかったギフテックだから、鑑定機の間違いかなって」

「それを判断するのは貴様ではない! 報連相もできんのか!」


 やべぇこれはシムラクルムの言う通りだ。

 ハンネ、それは反省しろ。

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