第39話

 朝方、誰よりも早く起きてきたニーナと打ち合い稽古をするというのも――すっかりこの旅の日課になった。


「暁、今朝もありがとう! その、普段は誰とも話せないから……凄く嬉しいわ!」

「いや、こちらこそ……助かるよ」


 マスクで口を覆ったニーナが息も切らさず礼を言う。

 人と交流をするという事が嬉しいのだろう。


「また御願いね! 私ね、毎朝最高の気分なのよ。一緒に過ごせるのって、楽しいわね!」


 俺の方から頼みたい。

 型やルールに捕らわれぬ実戦向きな戦いの指導、そして何よりマスクを着けてくれる配慮。

 彼女は良い子だよ、間違いなく。


「……んぁ? なんか、首が痛い……?」

「お、起きたのか。そんなとこでどうしたんだよ? 朝飯作り行こうぜ。またマリエやハンネに任せっきりになっちまう」

「暁? あいたたた……っ。なんでボク、首がこんな痛いのかな?」

「寝違えたんだろ?――あ、そこの着火剤を取ってくれ」

「そう、なのかなぁ……。はい」


 いい感じに昨夜の事は忘れていてくれた。好都合ですね。

 俺達は朝食を摂ると、モンスターから略奪被害にあっているという村へ入った。


「――おお、やっとワシらの依頼を聞いてくれた冒険者の方が……っ」

「御願いします。この村にとっては貴重な食べ物や道具が、不定期で奴らに取られていって……」


 村に入るなり、村長の歓待を始め大勢の人々が集まってきた。

 どうやら、既に被害は深刻なようで……。


「依頼書にあった退治は任せて! あ、でも鉱山なんだよね。確認なんどけどさ、本当に出るのはゴブリンとかスライムだけなのかな? もっと天啓レベルがバーンと上がるような稀少モンスターとかいないのかな? 雑魚なのに経験値だけ異常に高いやつとか! 鉱山ならメタルなスライムとかだと天啓レベル上がりやすいんだけど」

「はて、そんなモンスターはあいにく……見ておりませんなぁ」

「……あ、そう。じゃあ規定の報酬と必要な食料と物資だけ、契約通り用意しといてね……」


 どっかの戦乙女はあからさまにやる気を無くした。


「リマインドは大事だけど……あからさまに態度悪いなぁ」


 リマインドとは、ビジネスで1度知らせた内容の再通知や確認などに使われる。

 当然、ミスや通達不足を防ぐためには必要なのだが……。

 態度が悪いとこの通りだ。『本当はもっと割が良いんじゃねぇの?』とか、『本当にそんだけしかできないの?』みたいに受け取られる事もある。

 ……本当さ、最近は俺もクズって指摘されるようになってきたけど――この戦乙女を見てると最下限が見えるわ。


「いや、下を見ちゃダメか。上を見よう。でもなぁ……ニーナとかマリエは人格者過ぎるし、やっぱ丁度いいところを見るか」

「ねぇ、そう言ってウチを見るのって、失礼じゃない?」


 ハンネが文句を言うが、別にハンネが悪いわけじゃない。

 他が極端なんだよ。善と悪にさ。

 俺達はカーラの態度で少し機嫌を悪くした村人から食糧やランタンなどを貰い、廃坑へと向かった。


 ――廃坑へと辿り着いた時には、既に夕暮れ時だった。


 突然人が消えたように廃れた廃坑。

 所々に輸送用の線路まであるが、人の気配は一切無い。

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