第15話

「……もうちょっと計画的に報連相ができんのか」


 結局、1ガルズも持っていない俺は学園から支給された服装と最低限の兵装――どう見ても粗悪品の剣1本と、これを前に着てた奴は絶対に戦死したよねと言いたくなるほどにひしゃげた鎧を身に纏っていた。

 ……まぁ、一部欠けているお陰でいくらか重量は軽いのが救いか。

 対してニーナは実家が金持ちなだけあって、立派な装飾が施された盾と重装備に身を包んでいる。手には煌めく金色のランスまで持っている。

 見るからに重そうなのだが……。

 こんな棒きれみたいに細く平野部のような身体で、何で普通に持って歩けるんですか。


「なあ、ニーナって天啓レベルはいくつ?」

「突然なに?――私は、最終確認した1ヶ月前で34だったわ」


 いやいや、次席さんあんた……。

 確か、同年代の王立練兵学園生の平均が15とか16だったよね。

 それの倍以上って。

 練兵学園の1年生なのに、前線で生き残る兵士の40に迫る勢いじゃん。

 カーラの奴、何が足りないだよ。


「――足りないのは肉ぐらいだろ!」

「……今、私の身体についてなにか言った!?」

「いえ、言ってません。補給物資の事です」


 どうせ自分が早く出張先から帰りたいから、パーティーメンバーをさっさと鍛えあげて、俺はオマケ程度にとか思ってるんだろうな。

 まぁ何にせよ、これだけレベルが高い盾職がいる上に、少数とは言え輸送部隊の方々もいる。

 今回の課外授業でのノルマは楽勝で実績を得られるだろう。

 ちょろい仕事になったぜ――。


「――梯子を掛けさせるな、熱湯をかけろッ!」

「魔法部隊、敵の攻撃をレジストしろ!」

「破綻槌です、隊長!」

「なにぃ!? 矢と石をあるったけもってこい! 熱湯も急げ!」


 そんな甘い考えで砦へ入城しようとした時だった。

 どこから現れたのか、魔神軍が砦攻めと輸送部隊の侵入阻止の為に侵攻を開始した。

 急ぎに急いで何とか荷物は守って砦に搬入できたものの、砦の周囲は既に魔神軍に包囲されています。

 当然、砦が包囲されている以上、俺達は任務を終えたからって帰れない訳でして――。


「ダメです、このままでは門が壊されます!」

「くそっ!――ならば門を開けよ!……学徒動員で申し訳ないが、君たちも門の前にいる敵を一掃してくれ!」


 などと指揮官に言われて、戦闘に巻き込まれています。

 魔神軍とか言うからさ、てっきり悪魔とか怪物みたいな姿した奴らばっかかと思ったけど――結構な数、人間らしき姿をした奴も混じってるんだな。


「やりづれぇえええ……っ!」

「暁、私の影に隠れて! ランスでは全員を裁けない!――私がシールドバッシュで動きを止めた敵を斬って!」

「はい、承知しました!」


 もう敬語ですよね。

 頼りになる盾職のニーナさんに対しては、敬語を使ってしかるべきです。

 門から打って出ると、ニーナが攻撃を防ぎつつ盾で敵を弱らせるか、意識を刈り取る。

 その隙に俺がトドメを刺すってやり口だ。


「うげぇ……。肉切る感覚気持ち悪……っ。っつか、やっぱり切れ味悪いなこの剣っ! 切るってか叩いてめり込んでるじゃん!」


 なんで『企業戦士』の俺がこんな目に……。

 命を刈り取る罪悪感が……っ。


「前の世界でも――経済戦争のせいで社会的に殺しちゃった人も居たらしいけどさぁ、やっぱ直接手を下すのはキツいって!」


 そんな愚痴ばかり言ってられないほど、怒濤の如き勢いで敵は攻め寄せてくる。


「――くそ、一時撤退だ! 弓と魔法が届かない場所まで距離をとれ!」


 敵の指揮官がそう指示するまでの約1時間、俺達は耐え続けていた――。


「砦、包囲されちゃいましたね……」

「なんで突然私に敬語なの?……ああ、前に貴族って言っちゃったからかしら。いいわ、普通に話なさいよ」


 いえ、これはそんな身分とかっていう上っ面の敬語じゃないんです。

 心から感謝と敬意を込めての敬語なんです。

 猫の件といい、命を救って頂いてる件といい。尊敬しない訳がないよ、姉御。

 とは言え、本人の希望だ。敬語はやめよう。

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