第8話

「なんでバッドスキルが『ギフテック』なのさ!? まともなのが1つしかないじゃん!」

「俺が聞きたいわ! 普通さ、こういうのってメッチャ強くて無双して、俺つえぇって能力で周りからチヤホヤされるのが王道なんじゃないの!?」

「ボクに聞かないでくれるかな!? 他の人は生前の行いから、『魔法・物理攻撃無効』とか、『魔法・物理攻撃力200%上昇』とか、『剣や槍を無限に精製して雨の如く降らせる』とか! そういうとんでもない力を持つ〈ギフテック〉を授かるもんなんだよ!」


 最後のはちょっと聞いた事ある。無限の何とかっていう有名なやつだ。


「――はぁ!? じゃあ何か!? 俺の生前の行いが悪いってか!?」

「そういう事だねとしか言いようがないよ! 全部、君の生前の行いが悪いせいだよ!」

「ふざけんなよ、人のせいにすんな! 『企業戦士』を無理矢理連れてきといて無茶苦茶言うなよ! 戦闘向けのスキルなんか平和な現代日本で有る訳ねぇだろ!」

「ぐぬぬ……っ」

「……なぁ、悪い事は言わないからさ、別の人を派剣した方がいいって。損切りや撤退も大事な判断だぞ? 俺はもうさ、この世界で今度こそ善良に第2の人生を生きるから。それで死後は天国行きって事で――」

「そんな事をしたらボクがヘル様に怒られるでしょ!? それに一現場につき1人の派剣が原則なんだよ! ボクが『すいません、ミスでした。もう1人まともな戦士を派剣してください』なんて無理な要求をしたら、出世がまた遠のくじゃないか!?」

「自分のミスなんだから自分で責任とれよ! なんで俺に押しつけるんだよ!? これが〈ギフテック〉の『不運体質』なのか!? こっちの世界でまで人のミスをサポートばっかすんのは勘弁なんだよぉっ!」


 俺の言葉にしばし涙目で頭を抱えて蹲っていたカーラだが――やがて天啓を得たかのような表情で勢いよく立ち上がった。


「――今が強くないからって、悲観する事はない! だからこそ暁を練兵学園に送り込んだんだ。それに暁が雑魚でも、パーティーメンバーが強ければ『魔神』を倒すっていう任務も達成できる! うん、間違いないよ!」

「ちょっ、おい!? 無理矢理引いてくなって! 腕痛いから、赤ちゃんの腕抜けちゃうから!」


 カーラは俺の手をぐいぐい引っ張って教室内に連れ込む。

 ざわざわしている教室内が静まる程に大きな音をたて――バンと教壇を叩いた。


「――この学年の主席と次席の子は前にきて!」


 生徒達は一瞬、互いの顔を見合わせた後――2人の生徒に視線を向けた。

 そして、視線が集中した2人の生徒が教壇の前に出てきた。


「あ、あの……私が主席のマリエです」


 ……あ、この子は祈祷隊の中で、走って学園長を呼びに行った子だ。

 ショートウルフカットの銀髪とグレーの瞳が神秘的で、口調も表情も奥ゆかしく優しそうだ。

 何でだろうか。神に仕える職業の子なのに、扇情的な身体ってのは男に背徳感というか……特殊性癖の目覚めを感じさせる色気がある。


「私が次席のニーナよ!」


 続いて出てきたのは、長身で如何にも気が強そうな赤髪ロングヘアーでスレンダー――というと聞こえが良いが、バストウエストヒップの差が殆どなさそうな女性だった。

 暴力的な美しさというものがこの世にはある。

 例えば、純白な毛をした白熊の口元に鮮血がついているとか、海中に沈んだ戦艦だとか。

 美しさと同時に獰猛さや危険性も感じさせられる。

 彼女が醸し出す美しさとは、その類いのものだ。

 瞳の色はオレンジ混じりの紅で――正直、目を合わせていられません。

 怖いです。とはいえ、目を逸らすのは失礼に当たると思い、鼻を見ている。

 こうすれば視線を逸らしてるとはバレないから便利だよね。

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