「君と秘密を分け合いたい」からはじまる物語

清見こうじ

秘密

「君と秘密を分け合いたい」


 目の前は、お気に入りのカフェラテ。

 カフェとかでなく、コンビニで売ってるお手頃な紙コップコーヒー。

 

 ちょっと疲れた時に、つい買ってしまう。


 両手でそっと紙コップを包み込む。

 じんわりした熱が嬉しい。

 買ってきたばかりだから、まだ温かい。



 今日みたいな寒い日は、紙越しにダイレクトに伝わるぬくもりが、とてもありがたい。


 飲んだらなくなってしまう、そんな当たり前のことをちょっと寂しく感じながら、チビチビとカフェラテを口に含んでいると。


「あ、いたいた!」


 遠目に私を見つけたあなたが、息を切らせて駆け寄ってきた。


「どしたの?」


「コーヒー買うって言ってたから、ここにいるかなって」


 コンビニに面した会社の休憩ルーム。

 全面ガラス張りで、日差しで明るくて温かい、私のお気に入りスペース。


 一応自販機もあるけど、近いし、せっかくだからとコンビニで買ってきたものをここで飲むのはいつものこと。


「あのさ、相談あるんだ」


 当たり前のように隣の椅子に座って息を整えるあなた。


 同じフロアで唯一の同期。

 そのせいか、他の同僚より距離感近い感じ。


 まあ、人好きする彼の性格もあるかも、だけど。


「何?」


「あのさ……いや、うん」


 言い始めてから、急に辺りを見回して。


 誰もいないのを確認してから。


「君と秘密を分け合いたい」


「は?」


「昨日、見たんだろ?」


「あ、ああ……いや、まあ、好みは、人それぞれ、だし?」


「引かない?」


「引かないよ。別に」


 昨日、知ってしまった。

 彼の、秘密。


「……よかったぁ。マジ感謝」


「いや、別に……」


「でさ、ここから本題。俺の好みは……まあ、ああなんだけど」


「うん」


「まあ、あれは大枠というか、カテゴリーであって……もっとピンポイントに、好きな人もいて」


「……うん」


 そりゃ、いるよね。


「その人は、いつも仕事に一生懸命で、ひたむきで、……ちょっと、可愛いところもあって」


 ……この会社の人、なんだ?


 秘密知られたから、恋バナしたいの?


 嫌だな、聴きたくないな、そんなこと。


「あ、あのさ」


「で、疲れた時に、ひとりでカフェラテ買って、のんびりして、気の抜けた顔が……ホント、可愛くて」


 ……え?


「ずっと、迷っていたけど、決めたんだ。告白する」



「……それって」


「うん。今、目の前に、いる」


 見たことがないくらい、彼は、真っ赤な顔をして。


 でも、目は、本気。



「ずっと、好き、です。俺と付き合って欲しい」




「あ……」


 思わず落としかけた紙コップごとぼくの手を包む、彼の手。


 温かな手。




 それを人は幸せと呼ぶらしい。

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「君と秘密を分け合いたい」からはじまる物語 清見こうじ @nikoutako

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