03.未成年フィルタリング

 デーモンデビルを一掃すると、雪原はさらに白く光っているように見えた。

 テッペイは自身に回復魔法キュワを掛けると、MPを回復するために安全な場所で腰を下ろしている。

 ルリカもMP回復ゲリールを演奏してからテッペイの隣に座ると、彼はププッと思い出したように吹き出した。


「やー、裸で殴られんのはヤバかったなー」

「当たり前でしょ! バカじゃないの!」

「まぁなんとかなったんだからいいじゃねーか!」


 ケラケラと悪びれることなく笑っているテッペイを見て、しょうがないなとルリカは息を吐き出す。いつも無茶ばかりするテッペイだが、なんだかんだとルリカはそういうのも嫌いではない。


「再浄化時間に入るまで、あと一時間ちょいかー。この裏手に氷穴あっから、そこで採掘でもしながら時間潰すか? どうせ持って来てんだろ、採掘道具」

「あるけど、いいの?」

「どうせ暇だしな、行こうぜ」


 MPが全回復すると、二人で氷穴に入った。キラキラと水色の氷がクリスタルのように光り、幻想的な場所だ。

 ルリカは採掘ポイントを見つけると、テッペイにツルハシを渡した。ツルハシを手にしたテッペイは氷を掘り、緑鉄鋼を手に入れている。


「なんだよ、ルリカは掘らねぇのか?」

「モンスターがPOPした時のために、後ろを見張っとくよ」

「おう、わかった。しっかしここ、狭ぇな」


 氷穴の奥の方に行くと、少し天井が低くなる。背の高いテッペイには少しつらそうだ。


「身長も、リアルのままなの?」

「おお。全部リアルと同じにしてある」

「へぇ……背、高いんだ」

「言うほど高くねーよ。一八〇センチに届かねーし、バレー仲間では低い方だぜ」

「バレーしてるっていうの、妄想じゃなかったんだね」

「お前、俺のことなんだと思ってるわけ?」


 そう言いながらも特に気を悪くした様子もなく、掘り起こした緑鉄鋼をポイポイとルリカに渡してくれる。ルリカの持ち物バッグ上限は低いので、その場で鉄鋼スキルを発動し、スタック可能な〝緑鉄鋼の延べ棒〟にしてからバッグに収納した。


「なーんか信じられないんだよね。テッペイみたいにだらしなくて安易で節操のない男が、リアルはイケメンスポーツマンとかさ」

「てめ……」

「日曜なんか、ほとんどログインしっぱなしじゃん。どうせ彼女なんかいたことないんでしょ」

「イケメン舐めんなよ? 彼女くらい、二人はいたぜ!」

「嘘にしてはショボ!! しかも過去形!!」

「嘘じゃねーっての!!」


 プンスカと音が出そうなくらいに頬を膨らませているテッペイ。これだけ怒るということは、どうやら嘘ではないようである。


「ふーん、彼女いたんだ。顔につられたんだね。可哀想に」

「うっせーよ」

「なんで別れたの?」

「え、なんでかなあ? 俺は初日にxxxxxxxxxxxxしてxxxxxxxxxxxx夜にはxxxxxxxxx……」

「ちょ、ちょ、フィルタかかってるフィルター!! なに言ってんの!!」


 突如テッペイの言葉にフィルタリングが掛かり、なにを言っているのか聞き取れなくなった。強制フィルタが掛かったということは、つまりはそういう発言・・・・・・をしていたという証明ではあるが。


「ルリカ、未成年フィルタリングかけてんのか? もう二十歳過ぎてんだろ、外せよ」

「あんたみたいに卑猥な言葉を使う奴がいるから嫌なのよ」

「やーい、ルリカのxxxxxxxxxxxx! xxxxxxxしてxxxxxxxxしちまうぞー」

「テッペイってほんっと、リアルで女の子に嫌われるタイプでしょ!!」


 こんなに女に不快な思いをさせる男も珍しい。こんなクソ男と付き合おうと思った二人の女が理解できないと、ルリカはこめかみを抑える。


「え? 俺、女に嫌われるタイプ? マジ?」


 珍しくテッペイが動揺した。どうやら自分が嫌われるタイプだと初めて認識したらしい。


「未成年フィルタリングが掛けられる時点で、なんかおかしいと気付きなさいよ」

「知んねーよ、リアルじゃフィルタリング機能なんてねーし!」

「うわぁ、やっぱリアルでも言ってるんだ……ほんっとサイッテー」


 蔑みの目を向けるも、テッペイは本当に最低と思われているのか疑っているようで、少し首を傾げている。こういうところが女に嫌われると理解できないらしい。イケメンなのに残念過ぎる男だ。


「そういうルリカはどうなんだよ? お前こそいつ来てもログインしてるし、男の影がチラッともねーじゃんか」

「うるさいなぁ」

「いっつもソロだしよ。あ、さては俺に惚れて、俺を待ってんだろー?」

「は? バカ?」

「あ、ひでぇ!!」


 無表情で返したルリカに、「俺だって傷つくんだぞー」と言いながらツルハシでガンガン緑鉄鋼を掘り当てている。

 そんな姿を見ていると、ルリカはいつの間にか少し笑っていた。

 自分はこのバカでクソのような下品男と一緒に遊びたいと思ってしまう、理解不能な女の一人なのだと自嘲して。


「おっ」


 テッペイのツルハシがガキンと音を立てた。それを拾い上げた彼の顔はニヤついていて嬉しそうだ。


「なにが出たの?」

「ムーンプラチナ」

「わ、レア鉱石! 貰っていいの?」

「おう、俺の装備にしてくれんだろ?」

「まぁ、そうだけどね」


 テッペイはムーンプラチナを他の鉱石のように乱暴には扱わず、ルリカにそっと手渡してくれる。

 リアルでいうムーンストーンのような白く少し透き通った輝きは、ルリカにホッと溜め息をつかせた。


「ありがと、テッペイ」

「おう。そろそろ戻ろうぜ、再浄化時間に突入しちまう」


 ルリカは受け取った鉱石をホクホクとバッグに仕舞い、地上に出るテッペイの後ろを追いかけた。

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