第3話 妹からの強烈なビンタ

「おい、聞いてんのか?日向」


 巨人が俺の目の前で威嚇しているそんな感覚に襲われるも、恐れずに俺は、言い返す。


探索者シーカーとして活動するのはその人の自由だと思うんですけど」


「あぁ?おいおい、勘違いすんなよ。俺はなぁ、ただ、弱いやつがこそこそと金稼ぎのめに魔物を狩ってんのが気に食わねぇんだよ。それに、雑魚が俺の前を歩いているのもきにくわねぇ」


 やばいよこの人、言ってることが無茶苦茶だ。


 でも、弱いの確かだし、スキルなしだって、事実だし、何も言えない、何も言い返せない。


「おい!聞いてんのか!!」


「そこまでです!!」


「あぁ?」


「菜々花さん……」


「それ以上の暴論はやめなさい」


「たかが、女が俺の口に割って入るだと……」


「千住くん。今のあなたは、注目される立場よ、言動には気おつけなさい。今の地位を失いたくないのならね」


 その言葉に、千住正志は周りを見渡す。


 周りの目線、事務員から探索者シーカー、一般人まで、冷たい目線を向けていた。


「ちぃっ!命拾いしたな。あ~~あ、今日は気分が悪いから。帰るわ」


 そのまま彼は去っていった。


「あ、ありがとうございます」


「いいのよ。全然、でもしばらくは千住君にはかかわらないことね。学校ではよく合うでしょ?」


「そ、それは……」


「あんまり、大声じゃ言えないんだけど、最近の千住君に、いい噂がないのよ。だから、本当に気をつけてね!!」


「あ、はい……」


 菜々花さんは俺の家の事情を知っているからか、よくはしてくれている。


 それはきっと優しさと善意から来るものだ。


 すごくありがたくはあるのだが、それは時に毒になることも俺は知っている。


 だから、俺は願う。


 どうか、何も起きませんようにと。



 探索者協会の用事を済ませた俺は大通りの道を歩く。


 武装した探索者の集団や一般人、今の世の中、一目で探索者かどうかわかる時代になった。


 探索者の種類は主に2種類存在する。


 それは、ソロ組かパーティー組かだ。


 ダンジョンは危険がいっぱいで、一人で挑むにはリスクが高い。


 そこで、探索者シーカーを複数人集め、一緒にダンジョンに挑むパーティー組が生まれた。


 今、有名な探索者シーカーのほとんどがパーティーを組んで活動に励んでいる。


 むしろ、ソロで活動している探索者シーカーなんて、数百人ほどで、そこから活躍している者は手で数えられる程度しかいない。


 もし、安定して、探索者シーカーで活動するなら、絶対にパーティーを組むべきだ。


 ソロで活動するなんて、命知らずにも程がある。


 探索者シーカーは確かに儲かるがそれほど死のリスクがまじかにあることを示している。


 人のことは言えないけど。


 俺だって出来れば、パーティーを組みたいが、スキルなしという汚名がそれを許さない。


 考えても見てほしい、命にかかわる探索者シーカーの仕事柄、スキル『なし』なんて、組んでいるだけでパーティーの生存率を下げる要因にしかならない。


 結論、組むメリットがないのだ。


 だから、俺は、ソロ組なんだ。

 

 大通りを出て、突き当りを右に進み、4っ目の曲道まがりみちを曲がる。


 そこは裏道。


 さっきまで多くいた探索者のざわめき声が徐々に途絶えていく。


 そのまま奥に進んでいくと、一軒のボロボロな家が姿を見える。


 薄暗い裏道、太陽の光を一切通さない壁が家を囲い、雑草の一つすら生えていない。


 家の壁はコケまみれで、掃除されていないのが見てわかる。


 俺はそのまま、家の扉の前に立ち、鍵穴に鍵を刺した。 


 鍵を回すと「ガチャ」と音が鳴る。


 そのままゆっくりと扉を開けると。


「ただいまー」


 元気な声で、扉の先へと足を踏み入れる。


 家の外装とは裏腹に、生活感のある玄関。


 使い古された靴から、きれいな靴まで彩り緑。


 しっかりと、整理整頓されている。


 その先へと進むと部屋がいくつかに分かれ、まっすぐ進むと、リビングが姿を見せる。


 すると、リビングのソファーで横たわる女の子の姿。


 俺に気づくと、焦ったかのように、飛び跳ねて、身だしなみをあわあわと整えだす。


「お、お兄ちゃん、お帰りなさい」


「ああ、ただいま」


 頬を赤く染めながら、いまだに身だしなみを整え、ぼさぼさだった髪を綺麗に整える妹。


 恥ずかしくて目線が合わせられないのか、目線が斜め下を向いている。


 そんな空気感に俺も恥ずかしくなる。


「せめて、服くらいちゃんと着てくれよな」


「ふぇ?」


 妹は徐々に視線を下す。


 自分の瞳が映す格好。


 その姿を見て、さらに頬を赤く染める。


「はっはっ~~~~!?」


 ラフな格好、シャツ一枚に下着一枚、ズボンを履いておらず、シャツをよく見ると、ブラが透けている。


「お兄ちゃんの変態!!」


「ぶっふぇ!!」


 容赦なく頬めがけて、強烈なビンタの一撃。


 その勢いのまま、近くにあった椅子の角に頭をぶつけた。


「あっ……お、お兄ちゃん!お兄ちゃん!お兄ちゃん~~~~!!」


 意識が朦朧とする中、涙目で叫ぶ妹の姿。


 それが最後の記憶だった。


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