第2話 買取から受付まで

 俺は、ダンジョンからの帰り道、魔石を買い取る専門店「シリア商店」に向かった。


「はぁ~~」


「何かあったのか?」


「はぁ~~」


「おい、何かあったのかって」


「はぁ~~」


「おい、日向……俺の言葉を聞けやぁぁぁぁ!!」


「ぎゃぁぁぁぁ!」


 おれは腹に一発、重い拳をくらう。


「な、なにするんですか、あきらさん」


「日向が生意気にも俺の話を聞かないからだ」


 この人は明さん。


 「シリア商店」の店長で、魔石を専門とした買取専門店だ。


「と、とりあえず、買取を……」


「ああ、今日の魔石は三つだったな。え~と合計21万だな」


「ありがとうございます」


「それで、何があったんだよ。そんなため息ばっか漏らしてよ」


「じ、じつは……」


 俺は、今日起きたことを話すと……。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!?あの【冷徹】の由紀に助けられ、挙句に混乱して、逃げたぁぁ!?」


「恥ずかしんだから、あんま大きい声で言うなよ」


「これを笑えずにいられるか?ガハハハッ!!」


「明さん、あんまり笑うと奥さんに秘密で買った胡散臭い土器、話しますよ?」


「おっと、すまない」


 そう、俺は、助けられた後、その場の現状を整理しようとするも、彼女のことが頭から離れず、思考がフル回転していた。 


 その結果、脳内で処理できず、思わずお礼も言わずに逃げてしまった、というわけだ。


 我ながら、情けない。


「まぁ、いいんじゃねぇか。どうせ、もう会うこともねぇだろうしよ」


 俺はその言葉を聞いて、何か、引っかかるものを感じた。


「それより、学費はどうなんだ?払えそうか?」


「あっああ、自分の分は、あとは妹分だけです」


「そうか、もし何かあったら、いつでも相談に来いよ」


「ありがとうございます」


 高校に入学して、すぐに探索者シーカーになった俺が最初に頼ったのがこのお店だった。


 世の中には魔石を適性の値段よりも低く設定して売る輩もおり、特になりたての探索者シーカーが狙われやすい。


 そんな中で運良く見つけたのが、このシリア商店だった。


 明さんは俺の事情も知ったうえで、買取を適正な値段で買取をしてくれており、とても助かっている。


「さてと、次は探索者協会シーカーきょうかい行かないと」


 探索者協会シーカーきょうかい、それは、探索者シーカー全体を管理する事務局のような場所だ。


 主に、依頼の受付を執り行っている。


 依頼のほとんどがダンジョンに関することで、魔物の魔石に加え、依頼料でかなり、稼ぐことができる。


 低レベルであれば、依頼を受けるより魔石を手に入れながら、レベルアップに専念して、レベル3あたりから依頼を受ける探索者シーカーが多い。


 それほど依頼料が高いのだ。




「すいませ~~ん」


 事務窓口前。


 俺は恥ずかしがりながらも事務員を呼ぶ。


「は~いって日向君!」


 すると一人の窓口受付嬢が姿を見せる。


 この人の名前は、浅見菜々花あさみななかさん。


 スレンダーな細い体、サファイアのような輝く瞳に、ブラウンの髪は艶やかに輝いている。


 探索者協会シーカーきょうかいの事務員専用の制服である黒色のスーツをきれいに着こなしている彼女は周りの探索者シーカーの目を釘付けにする。


「はい。今週の討伐数の更新をしに来ました」


「あ~はいはい。じゃあ、ちょっと待っててね。いま、書類持ってくるから」


 しばらくすると。 


「じゃあ、ここに今週、討伐した魔物の名前と、数を記入してね」


「わかりました」


 俺はペンを持つ。


 探索者になって、数か月、俺が倒した魔物はコボルトのみ。


 討伐数はこの一か月で大体、100匹ほどだ。


 一か月でこの数だ。


 コボルトのレコードホルダーを名乗れるかもしれない。


 まぁ、コボルトを狩る探索者シーカーは俺ぐらいだから、正直、いらないけどね。


「これで、お願いします」


「はいはい。ふ~ん。今週で25匹ね。たくさん狩ったね」


「まぁ、コボルトを倒すのがやっとなので……」


 そう、俺はコボルトですら、苦戦する探索者シーカー


 ミス一つで簡単に死ぬ、そこらへんの一般人と変わらない。


 だから、慢心してはいけない、常に気を張って、警戒を怠らない、そうしなければ簡単に死んでしまう。


「でも、レベルが上がれば、スキルがなくても、身体能力が強くなるし、希望を捨てちゃだめだよ!日向君!!」


 そう、探索者シーカーになると必ずついてくるレベル。


 それはその探索者シーカーの強さを表している。


 最初はレベル1からスタートして、最大レベルが10。


 そして、大体の探索者シーカーがレベル3で止まってしまう。


 それがまた探索者シーカーの残酷なところ。


 探索者シーカーの強さはスキルとレベルで決まるわけだが、スキルが弱いとなると、補えるのがレベルしかないわけだ。


 しかし、レベルまで止まるとなるとそれ以上強くなれないわけで。


 それが探索者シーカーにとってどれだけ残酷で絶望的なことか。


 探索者シーカーにとって、レベル4の壁は大きく、逆に言えば、乗り越えた者はまず、探索者シーカーとして食べていくことができる。


 けど、そこらへんに関しては正直、俺は関係ない。


 だって、まずそもそもスキル持ってないし、その時点でレベル2に上げられるのかすら怪しい。


 しかも、今現在、どのような条件でレベルが上がるのかわかっていない。


 噂では、レベル4以上の探索者シーカーはレベルのあげ方を知っているが秘密にしているなんてことが広まってはいるが、その噂の信憑性は全くない。


「まぁ、きながにやりますよ。まだ高一ですし。では」 


「日向君!土日くらい学生しておいたほうがいいよ!!」


 俺は一回頭を下げて、探索者協会シーカーきょうかいを出ると、大きな何かに顔をぶつける。


「いたっ……。なっなんだ?」


 ふと上を見上げるとそこには見知った顔そこにあった。


「おいおい、なんでこんなところにスキルなし探索者シーカーがいるんだ?」


 身長2メートル以上あり、数少ない優れた探索者シーカー


 レベル3、千住正志せんじゅまさし


 同じ高校に通う生徒で、将来を期待されている探索者シーカーの一人。


 由紀には及ばずとも、かなりのスピードでレベル3に到達している。


 俺は、そんな化け物と運悪く、相対してしまった。


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