五件 4
―閻魔大王視点-
「こんな時間に一体な~に? 大王サン」
本来なら寝ている夜中に閻魔大王に呼び出された司命は不機嫌だった。
「仕方ないだろう。一大事なんだから」
閻魔大王は仕事部屋の真ん中の椅子にどっしりと腰かけている。その閻魔大王の前に司命と司録は直立不動で立っていた。
閻魔大王は「さて」と声をかける。
「一大事が何のことだか分かるな」
閻魔大王が鋭く司命を睨むと司命は「そう恐い顔しないでよ。鏡子ちゃんの一大事ってことは分かっているんだから」と腰に手を当てる。
「まさか余の妻に危害を加えようとするものがいるとは」
「……ここ最近の人間たちにも困ったものですね」
司録が軽く息を吐き出すと「でもさ~」と司命は口を開いた。
「今さらじゃない? 僕達を襲ってくるやつなんてたくさんいたじゃん。ほら、ここ最近だと織田 信長っていう人とか。凄かったじゃん。殴ったり蹴ったり。もう散々でさ」
「確かに。そういう方はたくさんいました。そういうただ襲ってくるやつだけなら……」
「そう、ただ襲ってくるだけならたくさんいた」
閻魔大王は机の引き出しを引いて美知恵の持っていた短刀を取り出す。
「昼の裁判、内田 美知恵は短刀を持っていた」
「死者は懐刀を持っていることもありますが、
懸衣翁と奪衣婆は死者の衣を剥がし、罪の重さを判別する仕事をしている鬼だ。
司命の言葉に閻魔大王は「そうだ」と頷く。
「何故美知恵は武器を持っていたのか」
「懸衣翁と奪衣婆が見逃す、ということはないでしょうね」
「だが念には念を入れよう。あの二人には今まで以上に注意するように言っておく。それからお前たち二人にも。くれぐれも余の妻の身辺には気をつけてくれ」
司命は「はいは~い」と軽く返事を返す。そんな司命の態度にまた閻魔大王は司命を睨みつけた。
「だからそんな恐い顔しないでよ~。分かってるってば。鏡子ちゃんのことは守るよ。大王サンだけじゃないんだから。鏡子ちゃんのこと好きなの」
「っ!」
閻魔大王はさらにきつく司命を睨む。その様子を見て司録はくすりと笑ってしまう。
「そうですね。私も守りますよ。鏡子様のことが好きなので」
「お前達なぁ!」
閻魔大王はガッと椅子から立ち上がる。その様子を見て司命と司録は二人、顔を見合わせる。そして同時にぷっと吹き出した。
「鏡子様のことも好きですが、閻魔大王のことも好きですよ。もちろん」
「そうだねぇー」
「……なんだか嘘くさいんだが」
その閻魔大王の言葉に二人は「そんなことないですよ」「そんなことないよぉ~」と軽く返す。
閻魔大王は眉をひそめて「もういい」と椅子に腰を下ろす。
「とにかく。余の妻を頼むぞ」
「はい」
「はいは~い」
二人の返事は相変わらず軽い。だがもう閻魔大王は何も言わなかった。なんだかんだ言っても二人のことは信頼はしているからだ。
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