第6話

週末は月末で給料日とも重なり“タイム”も賑わいを見せた。

その日は花が電車の遅延で開店時間ギリギリの到着になったこともあり、閉店まであわただしく過ぎていきお客さんとの会話とカクテル作りやお会計、テーブル拭き、品出しなどで勤務中は三人はお互いゆっくり話をすることもなくアイコンタクトだけで切り盛りしていた。


気づけば終電時間が押し迫り、花もさやかも後片付けもそうそうに東京駅に駆けていった。最後まで残り売り上げのチェックをしていた絹は、誰もいなくなったカウンターで、ノンアルコールビールにレモンを入れて一口。ほっと一息ついて外の街並みを眺めた。


イルミネーションが煌めくこの季節は昼夜問わず綺麗な街路樹がいやしになる。

バイクで通勤している絹はお酒を飲む訳にもいかず、注いだグラスを空けると計算を続けた。


外から声が聞こえ、人もまばらになった仲通りに目を向けると若いカップルが腕を組んでイルミネーションを見上げながら何か話している様子が見えた。絹はひと時そちらを眺め、またテーブルに目を戻した。


深夜一時過ぎ、赤いヘルメットを抱え、パンプスからブラウンのショートブーツに履き替え、黒いレザーのライダーズジャケットを着た絹は、店のカギを閉め裏の従業員出入口へ向かった。守衛の吉田に

「お疲れさまでした。タイムは全員退出です」

と声をかけると

「お疲れさまでした。今日は忙しそうでしたね」

また明日といって声を返してきた。


そのまま専用駐輪場まで向かい、黒いグローブをはめて愛車のYAMAHA“MT-25”に跨る。今日は忙しかった自分への癒しの意味で少し遠回りして帰ろうと、有楽町方面に向かって走っていった。

銀座の目抜き通りに近づくと色鮮やかなネオンが夜の星を隠していた。街行く人々の声もエンジン音で聞こえない無心になれるこのひと時が絹は好きだ。


赤信号で止まっている絹の前を一人のサラリーマンが寒そうにコートの襟元を寄せ、通り過ぎた。有楽町駅方面に向かっているようだが、この時間に山手線はま動いているのだろうか。ちょっとだけ心配になったが、信号は青に変わり絹は加速をはじめた。


ヘルメットの中で「みんなずっと元気だといいな」そっと呟いた。

このまま晴海まで行って海を見てから帰ろうと銀座四丁目交差点で左にウインカーを出した。

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