Chapter.39 向き合……
セシリアが目を覚ましてから、トーキマスと一緒になって懇切丁寧に説明した。
「なるほど……。……………」
神妙そうな顔をしたセシリアがコクコクと必死に頷いている。
それから申し訳なさそうに、
「えっと……。つまりどういうことですか?」
と聞いてくるのでずるっと肩が落ちた。
ん、んん。まあ、だいたい予想していたことだ。
こんな局面だっていうのに緊張感の欠片もなくて、呆れたように苦笑してしまう。
セシリアらしい、とは思う。
席の構図は先ほどまでと変わって、セシリアの対面に俺が座っており少し離れた右手からトーキマスが見守る形になっていた。
多少、辛辣な物言いにはなるが、俺はセシリアの目をまっすぐに見つめて告げる。
「ようは、お前はどうしたいかって話だ」
「えっと……。そうですね……」
少しでも彼女の心のうちを知りたくてジッと顔を見つめ話す俺とは違って、彼女の態度はいつもより自信がなく、戸惑っているように思える。
それもまあ当然のことではあって、俺だって完全に飲み込めていない話をセシリアが飲み込めるはずもない。
何度かまばたきをしてチラチラと、俺や、トーキマスの顔を伺う様子には、隠しきれていない困惑が感じ取れていた。
どこまでセシリアに説明したかと言うと、包み隠さず、全てだった。トーキマスが来た理由から、何が起きて、何故決断を迫られているのか。あちらの世界には自分じゃない自分がいると聞いた時のセシリアは、イマイチ理解できているのか理解できていないのかよく分からない顔を浮かべていた。
「……………」
いま、対面にいるセシリアは、身を縮こませて顔に翳りを見せている。
俺やトーキマスも急かすことはなく、彼女の言葉を待ち続けた。
俯いた彼女の顔からぐっとその両目が俺を見上げる。
「た、タクヤ殿はどう思いますか?」
そう聞かれるとは思わなかった。
「俺は関係ないだろ。お前が……ここに残りたいか、帰りたいかの話だ。帰りたいならやりようもあるかも知れない。トーキマスは、どうせ脅してるだけだ」
意図してそっけない言葉にしている。
俺がちらりと一瞥するとトーキマスは肩をすくめていて、本当に、こいつはなんなんだか……。
別に過信しているわけじゃない。
だけどトーキマスが無策であるはずもない。
トーキマスは本当の天才だ。息をしている限り魔術を編み続けるだろう。少し時間をおいてつつけば、ぽんぽん新しい策を講じてくる。新しい方法を編み出してくるのがこいつだった。
だから、どうせ脅しているだけ。いまこうやって実際に目の前にいることも異常なのだ。それを成せるような天才に、全力で期待したってもはや、いいだろう。
どうせ俺には出来ないことなのだから。
「っ」
だから、遠回しにはなるが、ともかくお前の本心を聴かせてくれ、とセシリアに対して俺は強く訴えかける。
だけどセシリアの反応は、斜め上をいくものだ。
「私はバカなので分かりません!」
「な……」
なんでそんなハキハキと答える……?
というか二択だぞ。自分がどうしたいか言うだけだぞ。なんで分からないの? 本当にバカになったの?
開いた口が塞がらない状態で怪訝そうに俺がセシリアのことを見つめる。
すると、次にセシリアは困り眉を浮かべて、おずおず、といった様子でこちらのことを探るように再度同じ言葉を言った。
「だから、タクヤ殿はどう思うのかお聞きしたいです」
「どう思って、そりゃ……」
弱る俺に対し、セシリアは口を真一文字に結んで意固地になっているようだった。
……………。
なんでそんなに俺の意見を知りたいのかが分からない。この状況において必要なのはセシリアがどうしたいかであって、それを解決してやるのが俺の責任で、トーキマスは仲間として助けに来てくれたようなもののわけで。
俺が本心で答えたら、そのノイズになるなんて明白なこと。俺が言ってやれることなんてさほどないって言うのに、お前は。
「俺は……」
このままじゃ押し問答になるような気がして、仕方ないと割り切って、俺は、深く息を吸い込む。
自分の心を偽るのは苦手だ。
特に、後戻りの効かないような台詞は、未練たらしくて後悔しがちな人間にとっては、ただ覚悟すれば済むという話ではなくなる。
口から出た言葉は返ってこない。
水瀬との経験で俺は重々それを承知しているから、本当は、別にこの建前を口にしたいとは思わないのだ。
でも、これを口にしてやることが、俺の立場からセシリアに対してできる、優しさ、だとも思うから。
「お前は、帰るべきだと思うよ」
「…………………………………………………………………………。そうですか」
俺が口にした瞬間。
セシリアの目が、暗くなったような気がした。
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