元公爵夫人の襲来


「ロイド!!」


 バンッ!! と壊れるのではないかというほどの勢いで開け放たれた扉から入ってきたのは、すらりとした細身の、長い銀髪を靡かせた女性。

 濃い化粧をしているように見えないにも関わらず長いまつ毛。

 ぱっちりとした翡翠色の綺麗な瞳。

 おそらく、というより、どう見てもほぼ確実に彼女がロイド様の母親なのだろう。

 目元はぱっちりとしていながらも僅かに吊り上がり、やや意志の強そうな印象で、全体的にロイド様によく似ているような気がする。


「……何の用だ」

 ギロリと目を細めてから、ロイド様が低く唸る。

「何の用だとはひどいじゃない。実の母親に向かって」


「何が実の母親だ。帰れ。貴様はもうこのベルゼ公爵家の人間ではない。生活費なら、修道院から身請けしたという男か、貴様が侍らせていた男たちに払わせれば良いだろう。どうせ今も一人では満足できず大勢の男に貢がせ侍らせているんだろう。いずれにしても、俺には関係ない話だ。とっとと出ていけ」

 苛立ちを隠すことなくロイド様がそう言うと、お母様は私に目を留めることなく口を開く。


「捨てたわよ、男なんて。身請けにきてくれたロバートも、他の男達も。だって──貴族に比べて、あまりにお金がないんだもの。私、お金のない生活なんて嫌だわ」

「っ!!」

 その言葉を聞いた瞬間、マゼラの顔が強張り、ぎゅっと拳を握りしめる。

 もしかしてそのロバートって人、マゼラの……?


「ね? 辺境とはいえ公爵家なんだから、資産はたくさんあるでしょう? 少しぐらい分けてくれたっていいじゃない。ロイド、母の頼みを聞いてちょうだい?」


 甘えるようなその声に、ロイド様が目をカッと見開き、顔を歪ませ勢いよく立ち上がった。


「ふざけるな!! 貴様と男どものせいで苦しんだ者たちのことを忘れたのか!! 父上は死に、マゼラやレイは裏切られた上に取り残され、他にもたくさん……。どれだけの者たちを不幸に追いやったか……!! ……どうしても金がいるのならば、お前を追放した際に情けで持たせた指輪とネックレスでも売ったらどうだ? 相当な額の金になるはずだろう。……俺が言えるのはそれだけだ」


 そう言ってロイド様は、お母様をもう見ることもせずに部屋から出て行ってしまった。

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